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大手企業の下請イジメ是正なるか?「下請Gメン」誕生も効果は限定的!?

HARBOR BUSINESS Online 1/31(火) 9:10配信

 万引きGメン、麻薬Gメン、さらには密漁Gメンなど、世の中にはさまざまな「●●Gメン」と呼ばれる組織が存在する。そんななか、中小企業庁は今年1月、大手企業による下請イジメを是正させるべく、「下請Gメン」なる組織を新たに発足させる方針を発表。

 現時点ではまだ具体的な組織図は明らかにされていないが、この「下請Gメン」にはどの程度の効果が期待できるのだろうか。中小企業に対する診断・助言を行う専門家、中小企業診断士の多田稔氏に伺った。

――どのような下請イジメが問題視されているのでしょう

多田:やはりもっとも多いのは、支払いに関することです。中小企業庁の外郭団体である(公財)全国中小企業取引振興協会のホームページによると、同協会が運営する「下請けかけこみ寺」事業の2015年度の相談件数は5825。そのうち、「代金の未払い」「代金の減額」「単価の引き下げ要求」などといった支払・代金に関するものが40%を占めます。

――具体的にどのような事例が出ているのでしょうか?

多田:典型的なケースとしては、

・些細なことに難癖をつけて支払いをしない、減額を要求する、あるいは支払いを遅らせる

・理由もなく単価の引き下げを要求し、応じなければ取り引きを切られる

 という2パターンがあります。「些細なこと」とは、少量の不良品、軽微な不具合、多少の納期遅延などです。ヒドいケースでは、親企業の指定部品が原因で不具合が起きたことが強く疑われるケースで、一方的に下請け企業のせいにされ、代金を支払われなかったという事例を聞いたことがあります。

――確かに大企業が優越的な地位を利用するケースはよく聞きます

多田:また、最近、公正取引委員会の勧告を受けるケースで多いのが、いったん正規の金額を支払った後で、「販促費」や「協力費」といったわけのわからない名目で下請にカネをバックさせ、実質は代金の減額を要求しているケースです。

 それ以外にも発注の条件として親企業の子会社から指定の機械をリースすることを強要された、下請企業の技術を勝手に利用して類似商品を作られたなどがあります(:参照)。

――「下請Gメン」とはどのような組織になると思われますか?

多田:まだ報道段階の情報しかありませんので、具体的なことはわかりませんが、NHKの報道によれば「およそ50人の調査員が全国各地の中小企業1000社以上に派遣され、大手企業から一方的に支払い代金を減額されたり、製造コストを引き下げられたりすることがないか聞き取り調査する」組織のようです。

 この施策に目新しさがあるとすれば、「イジメられる」中小企業の側の話を聞くということでしょう。というのも、これまでの下請取引適正化を図る施策では、「イジメる」大企業の側への働きかけが主だったからです。昨年の中小企業白書でも、「平成27年度上半期に533社の大企業に対して、(中略)立入検査を実施した」という記述があります。

 この背景には、やはりアベノミクスがあると思います。デフレ脱却が至上命題の安倍政権にとって、サラリーマンの賃金上昇は重要な要素になります。大企業に対しては、経済団体や春闘への“口先介入”でやる気を示した安倍さんですが、日本企業の99%を占める中小企業に対する働きかけは、なかなか目に見える形で示すことができません。そこで「下請Gメン」のような組織を作って、「政府はちゃんとみなさんに寄り添っていますよ」という姿勢をアピールする狙いがあると考えます。

――「下請Gメン」は本当に下請けイジメを是正できるのでしょうか?

多田:無理です。

 下請問題の歴史は古く、現在、下請取引適正化で主に活用される下請法(下請代金支払遅延等防止法)が制定されたのは昭和31年のことです。つまり、60年前には下請イジメの問題がすでに顕在化していたということです。

 それがいまだに「下請Gメン」などと言っているのですから、この問題がいかに根深いかを物語っています。60年かけても克服できない問題を、今さら50人ぽっちの調査員が1000社程度の中小企業に話を聞いたくらいで改善できるとは思えません。

 今回の目的は、下請イジメの是正というよりは、とにかくまずは実態調査してみよう、ということでしょう。前述したように、これまでの下請問題に対する施策は、大企業に対して「あんまり下請をイジメるなよ」と呼びかけるものが主でした。これまで取ってきた施策の効果測定を、反対の立場に立ってやってみよう、ということだと思います。

――では、下請イジメをどのように是正すればいいのでしょうか?

多田:本気で是正しようと思ったら、やはり罰則強化が王道でしょう。現在の下請法では、罰則の最高は50万円の罰金です。これを労働基準法のように懲役刑まである規定に変えることができれば、一定のアナウンス効果はあるでしょう。

 しかし、懲役刑まで用意されている労基法をもってしても長時間労働が是正されないことを考えると、罰則強化にも多くは期待できないと考えます。それよりも、「下請イジメをやると企業イメージが悪くなって損だ」と大企業に本気で思わせることが大事です。

 ただ、国にできることは限られています。現在でも、下請法の違反行為を行った企業は公正取引委員会によって企業名が公表されていますが、これが“社会的制裁”というところまで影響があるかといえば、そうなっていないのが実情です。その証拠に、公正取引委員会のホームページで確認できる違反企業の一覧を見ると、結構な有名企業も含まれていますが、これらの企業の業績が悪化したとか、不買運動が起こったとかの話は聞いたことがありません。

――国以外では、何の要素が大きいとお考えですか?

多田:個人的には、マスコミの役割が大きいと感じています。しかし、有名企業は大手メディアにとって大切な広告主であることや、「下請イジメ」というだけではニュースのインパクトに欠けることから、なかなかこの問題の重要性が伝わらないという構造があります。

 ワタミや電通のように、社員の自殺によってようやく問題企業が糾弾されるというのは、なんとも痛ましく、やりきれません。その意味では、イジメを受ける側の中小企業から生の声を吸い上げ、罰則強化などの具体的な政策につなげることができれば、効果は限定的かもしれませんが、この「下請Gメン」も多少は役に立ったと言えるかもしれませんね。

【多田 稔】

中小企業診断士、経営アナリスト。「多田稔中小企業診断士事務所」代表。経営コンサルティング・サービスに携わる傍ら、「シェアーズカフェ・オンライン」などで企業分析・会計に関する記事を執筆

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:2/1(水) 18:07

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