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天海祐希は“普通の主婦”を演じても輝くーー『恋妻家宮本』で表現した、人の脆さ

リアルサウンド 2/3(金) 15:55配信

 新入社員や各世代を対象に、転職サイト、求人サイトをはじめとした各社が行ったアンケート調査にて「理想の上司ランキング1位」を制覇している天海祐希。仕事のできるイイ女のイメージがすっかり定着中の天海がテレビドラマ「女王の教室」や「偽装の夫婦」などでタッグを組んできた脚本家の遊川和彦とふたたびコンビを組んだと聞けば、これまたツヨイ女を見せてくれるのだろうと思いがち。だが、さにあらず。遊川が脚本だけでなく、念願の初監督も果たした映画『恋妻家宮本』にて天海が演じたのは、夫に「不満じゃなくて、不安なの!」と“不安”を口にする、50歳の主婦、美代子だ。

 『恋妻家宮本』は、直木賞受賞作家の重松清による小説「ファミレス」をベースにしたヒューマンドラマ。映画版はヒットドラマを量産してきた遊川らしい、キャッチーなタイトルとなった。主人公の宮本に扮するのは阿部寛。最近ではすっかりダメ男も板についてきた阿部が、生徒にもバカにされ気味の中学校教師で、美代子の隠し持っていたサイン済みの離婚届を見つけ、狼狽する中年男を好演している。

 その、離婚届を隠し持っていた妻を演じるのが天海。天海と阿部が、現実にカップルとしていたならば、否が応でも周囲の目を引く、文句なしにカッコいいふたりとしか映らないが、本作では互いの気持ちをうまく伝え合えない、そこかしこにいるだろう普通の夫婦に取り組んだ。

 天海といえば、元宝塚男役トップスターの肩書きが、いまでも浮かぶ。長い宝塚歌劇団の歴史にもないスピードでトップスターに上り詰め、トップ就任から2年という早さであっという間に、宝塚から退団した伝説のスターだ。

 その後の活躍も言うに及ばず。特にテレビドラマ「離婚弁護士」、「女王の教室」、「トップキャスター」、「BOSS」といった人気作で記憶している人も多いだろう。舞台でも存在感を放っており、幾度も出演している人気劇団、劇団☆新感線の「薔薇とサムライ」では「ベルサイユのばら」のオスカルを彷彿とさせる扮装で女性たちを悶絶させた(宝塚時代、アンドレは演じたが、オスカル役はなかった)。

 男役トップスターのイメージに違わぬきっぷの良さを見せつけてきた天海。171センチの高身長と涼しげな顔立ち、その個性を生かした役柄で常にトップを走り続けつつ、天海本人がまとう嫌味のない空気から、男女や世代を問わずに支持が厚いのも頷ける。

 基盤になっているのが、天海のイイ女、強い女像であり、すでに確立された感がある。このまま突っ走ってもいいとも思えるが、ここに来て、普通の主婦に挑戦し、しかも結果を残している。

 一人息子が結婚して家を出たことで、ふたりきりになった夫婦。母としての役目がひと段落し、湧き上がる“不安”を、しかし夫には伝えることができない。長年一緒にいながら、どこか距離のあるふたり……。美代子役を、天海に託した遊川は、テレビ番組で「ある時、すっぴんの天海さんにお会いして、すごく可愛かったんですよ。初めて可愛いと思いました(笑)。そのとき、今回の役をお願いできると思ったんです」と話した。『恋妻家宮本』では、(メイクかもしれないが)シミのある寝顔をさらす場面もあり、確かに、随所に可愛い天海を感じさせる。

 物語終盤、駅の待合室にいる宮本と美代子が、互いの目と目を見ながらじっくりと話すシーンがある。いるのは、頼りがいのあるアネゴ天海ではない。決して強くはない自分自身と向き合い、また夫とも向き合うことを決めた、人生を重ねてきたからこその脆さ“も”抱えるひとりの女性だ。彼女の気持ちを、天海はまっすぐで柔らかな瞳の中に滲ませて表現している。

 これからも天海には存分にイイ女像を見せていってほしい。しかし時に“不安”を口にする、理想の上司ではない、あなたであり私である普通の人を演じるのも、またいい。天海祐希にはそれもできると『恋妻家宮本』が証明している。

望月ふみ

最終更新:2/3(金) 15:55

リアルサウンド