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「新幹線を全国に」田中角栄の鉄道政策とは? 

東洋経済オンライン 2/3(金) 6:00配信

 社会に閉塞感の漂う現在において「もしいま、田中角栄がいたら」と考える人は多いのかもしれない。高度経済成長期に首相を務め、昭和の代表的政治家の一人である田中角栄に対する人々の関心は高まっており、『田中角栄100の言葉』(宝島社)や、田中角栄を描いた石原慎太郎の小説『天才』(幻冬舎)はベストセラーになっている。

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 田中は、たたきあげで一国の総理大臣になったという経歴や、類まれな人心掌握術などを軸に評価されることが多い。その一方で、立花隆が「田中角栄研究」で描いた金脈の問題や、児玉隆也が「淋しき越山会の女王」で描いた女性問題(いずれも『文藝春秋』に掲載)、さらにはロッキード事件などで世間を騒がせた人物という側面も大きい。一般的に多くの人が抱く「田中角栄」のイメージは、こういったものかもしれない。

■「日本列島改造論」で描かれた鉄道の未来図

 しかし、田中角栄には「政策通」としての面もあったことを忘れてはならない。自ら提案したもので33件、関わったものでは100以上もの議員立法を成立させたことでも名を残しており、現在までこれほどの議員立法をつくった政治家はほかにいない。また、主著『日本列島改造論』(日刊工業新聞社)では、田中が自民党総裁選に出馬するにあたり、交通政策を含め今後の日本をどのようにしていくかを具体的に記しており、政策には極めて明るかった。

 では、自らも新潟県の越後交通(バス会社、かつては鉄道も運営)の経営者を務めていた経歴を持つ田中角栄はどんな交通・鉄道政策を打ち出していたのか。「日本列島改造論」を軸に記してみよう。

「新幹線は地域開発・格差是正に役立つ」

 「日本列島改造論」が発表された1972年は、山陽新幹線の新大阪-岡山間が開業した年だ。同書の中で田中は新幹線の重要性を強調し、「新幹線鉄道のメリットについては、もはや多言を要しない」と言い切る。

 例として挙げられているのは、東海道新幹線によって東京-大阪間が無理なく日帰りできるようになったことだ。「朝の八時に東京駅から『ひかり号』で出発した乗客は、午前十一時十分に新大阪駅に着く。片道三時間十分は日帰りに十分な時間である」とその高速性・利便性を評価し、「新幹線鉄道は人間の移動を効率化し、経済の生産性を高めている」と説く。

 また、現在に至る新幹線計画の源流を見ることもできる。田中は、今後の新幹線について「北海道、東北、北陸、九州などの地域開発をすすめ、太平洋ベルト地帯と裏日本や北日本、南九州との格差解消に役立つものである」と述べている。実際に、現在開業、あるいは建設が進められている北海道・東北・北陸・九州(鹿児島ルート・長崎ルート)新幹線の整備計画は、田中内閣時代の1973年に決定されたものだ。

■人口の少ない地域にこそ新幹線駅を

 田中が本書に記したのはこれらのルートだけでなく、実に主要な在来線のほぼ全てを新幹線にするレベルの壮大な案だ。そして「こうして九千キロメートル以上にわたる全国新幹線鉄道網が実現すれば、日本列島の拠点都市はそれぞれが一~三時間の圏内にはいり、拠点都市どうしが事実上、一体化する」と説いた。

 これらの新幹線は、東海道・山陽のようにもともと需要の多いルートの増強を図るのではなく、地域発展のための先行投資という考え方に基づいている。「これからの新幹線鉄道は、人口の集中した地域を結ぶだけではなく、むしろ人口のすくない地域に駅を計画的に作り、その駅を拠点にして地域開発をすすめるように考えなければならない」との言葉に、その思想が表われている。田中は、新幹線網によって日本の構造を作りかえようと考えたのだ。

 さらに、東海道新幹線がいずれ飽和状態になることも予測し「第二東海道新幹線が必要になるだろう」とも書いている。当時、すでにリニアモーターカーの研究は始まっていた。「すくなくとも第二東海道新幹線などはリニアモーター方式で走らせてほしいものである」と田中は記している。現在建設の進むリニア中央新幹線がまさにそれだ。

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最終更新:2/3(金) 6:00

東洋経済オンライン

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