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【完売御礼】日本の月夜をイメージした12台限定のベントレー

2/23(木) 22:02配信

GQ JAPAN

ベントレーモータースジャパンは2月15日、限定モデル「コンチネンタル GT V8 S ムーンクラウド エディション」を発表した。このクルマを手掛けたのは、英国本社のビスポーク部門「マリナー」。ベントレーを長年支えてきた名門コーチビルダーの末裔だ。

【コンチネンタル GT V8 S ムーンクラウドの動画とフォトギャラリーはこちら】

■450年の歴史を持つマリナー一族

フェラーリの「テーラーメイド」。ランボルギーニの「アド・ペルソナム」。アストンマーティンの「Q by アストンマーティン」。そしてロールス・ロイスのずばり「ビスポーク」など、昨今の超高級カーブランドではオーナーの嗜好を反映した特別な1台を製作するビスポークプログラムが活況を呈している。

そんな中、ベントレーのクルー本社工場内におけるビスポーク(注文製作)部門として活動するのが「マリナー(Mulliner)」だ。今回、そのマリナーの本国スタッフによるプレゼンテーション、および同部門の手がけた限定モデル「コンチネンタル GT V8 S ムーンクラウド エディション」の発表会が、2月15日に東京都内で開催された。

マリナーというブランドネームに聞き覚えのない方も多いかもしれないが、これは英国を代表する名門コーチビルダー(ボディ製造工房)である「H.J.マリナー」を筆頭とするマリナーファミリーの正統な後継者であることを示したものである。

16世紀の馬具製造工房に端を発するマリナー家のファミリービジネスが、コーチビルダーとして初めて認知されたのは、ノーザンプトンに本拠を構えたフランシス・マリナーが、郵政当局から正式な馬車製造を認可された18世紀末のこと。その後フランシスの親族たちは、イングランド各地で馬車を製作するコーチビルダーとなって活動した。

中でも20世紀初頭から、イギリスを代表する高級車ブランドを中心に数多くのボディ製作を委ねられることになったのが、先述した「H.J.マリナー」社である。ヘンリー・ジャーヴィス(Henry Jarvis)マリナーが、ロンドン近郊チズウィック設立した工房だ。

第二次大戦前のH.J.マリナーは、「ウェイマン式」と呼ばれるファブリック(布)製軽量サルーンボディの架装を得意とし、1923年のロンドン・モーターショーに出品した「3リッター・スピードモデル」を皮切りに、ベントレーの名作を多数手がけた。

例えば1930年3月に、ベントレーボーイズの一人で当時ベントレー社の会長でもあったウォルフ・バーナート大尉が、フランスの長距離特急列車「トラン・ブルー(ブルートレイン)」を相手に賭けレースを挑み、南仏カンヌ~ロンドン間のルートを、実に約4時間もの大差をつけて快勝した際の愛車も、ベントレー61/2リッター・スピードシックスにH.J.マリナーが架装したファブリック・サルーンだった。

■ベントレーの特別性を象徴するブランドに

このように、長い伝統を持つ名門コーチビルダーのH.J.マリナーだが、その実力が真に世界で認められたのは、第二次世界大戦後となる1950年代に入ってのことからだった。

その他コーチビルダーを大きく凌駕するアルミニウムによるボディ架装技術と、インテリアのフィニッシュの良さが、ロールス・ロイス/ベントレー社の首脳陣の目に留まり、同社が試験的に少数製作する特別仕様車の製作を委託されるようになっていく。

そしてロールス・ロイス/ベントレー社所属のデザイナーであり、“ベントレーデザインの父”と呼ばれるジョン・ブラッチリーのデザインで1952年にデビューした「Rタイプ・コンチネンタル」は、プロトタイプを製作したH.J.マリナーが、生産モデルでも大部分のボディを架装。この歴史的成功によってベントレーとの絆を確たるものとした。

その後は、1955~66年までの「Sタイプ・コンチネンタル」、1966年から前世紀末に至る「コーニッシュ/コンチネンタル」、さらにはかつてのライバル会社、パークウォード社と合併してマリナー・パークウォード社となったのちも1992~2002年までの間、「コンチネンタルR/T」、あるいは「アズール」などスペシャルなベントレーの数々を一手に引き受けてきたのである。

現在、英国チェシャー州クルーにあるベントレー本社ファクトリーの一角を占めるマリナー部門では、60人もの専属スタッフが従事。その中には旧マリナー・パークウォード工房時代に、かつてのベントレー・コンチネンタルのボディを製作していたベテランのマイスターも含まれているという。彼らはブランドネームだけではなく、古き良きビスポークの伝統をも継承し、目の肥えた顧客からのあらゆるオーダーにも応えられることを旨としているのだ。

また内外装のモディファイにとどまらず、コーチビルダーとしての本分、特装ボディの架装(コーチビルディング)の伝統も、マリナーでは現在も息づいている。例えば2002年に英国王室に納入された御料車、ベントレー「ステートリムジン」や、現行ミュルザンヌをベースに製作し、昨年のジュネーブ・ショーで発表した「グランドリムジン」は、マリナーのコーチビルディング技術が健在であることを示した作品と言える。

■日本市場専用のリミテッド・エディション

今回発表されたコンチネンタル GT V8 S ムーンクラウド エディションは、日本国内の正規ディーラーの要望を受けたベントレー「マリナー」部門が、全世界で12台のみ製作する限定車。日本の月夜をイメージしたというシルバーグレイと漆黒のデュオトーン(2トーン)ペイントが施されている。従来のベントレーでは「ミュルザンヌ」「フライングスパー」などのサルーンモデルにしかデュオトーンを提供しておらず、これがクーペモデルとしては世界初の採用例となる。

インテリアでは、日本のカスタマーも好むピアノブラックのキャッピング(表面処理)を選んだ上に、ダッシュパネルには白蝶貝で寄せ木細工を施すなど、極めて豪奢な仕上がりに。またカーペットパイピングなどのアクセントカラーには「クラインブルー(深い青)」が用いられる上に、こちらもミュルザンヌのみに設定されている「ヒドン・デライツ」仕様を採用。これはアームレスト収納の内側など、隠れたところにアクセントカラーを施すというもの。例えばジャケットの裏地などをビビッドなカラーにして隠れたお洒落を楽しむという高等なファッションスキルと同じ発想は、まさしく英国伝統のビスポークの賜物と言えるだろう。

しかし、コンチネンタル GT V8 S ムーンクラウド エディションにて最も注目すべきトピックは、限定モデルでありながら、マリナーのコーチワーク技術の高さを、これからビスポークしたいと願うカスタマーにも例示していることだろう。実はこの日の発表会を待たずして、これから日本で販売される12台がほぼ完売状態にあるというのだが、これから顧客が新たにオーダーすることによって、例えば近い内容のものでも、あるいはもっと個性的なベントレーを創ることも可能だという。

昨今では、あらゆる超高級ブランドがビスポーク・ブランドを展開しているものの、往年の名門コーチビルダーの名を掲げてヘリテージを強調するのは、おそらくベントレーのみであろう。今回のプレゼンテーションでは、埼玉・加須に本拠を置くロールス・ロイス/ベントレーの博物館「ワクイミュージアム」の協力を得て、H.J.マリナー時代のベントレーの傑作、1950年型マーク6スポーツサルーンや1960年型S2コンチネンタル・クーペも同時展示し、マリナーというブランドの正統性をアピールしていた。

伝統と新しいセンスの双方に果敢にチャレンジするベントレーとマリナーの、今後の発展に期待したいところである。

文・武田公実

最終更新:2/23(木) 22:38
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