ここから本文です

パチンコ業界は「ギャンブル依存症治療費」も負担できるのか

2/24(金) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 前回の記事(ギャンブル依存症対策がいよいよ本格始動。しかし、その議論は拍子抜けするほど簡単に終わる)では、ギャンブル依存対策法の中身について、医療で確立された疾患への治療と同じ構造で進むであろうと予想した。

 その点について、さらに詳しく見ていきたい。

 精神疾患を含む疾患や障害に対しては、①プリベンション(事前対処・予防)の段階、②インターベンション(危機介入)の段階、③ポストベンション(事後対応・治療等)の段階の3段階で行われるのが基本であると書いた。

 これを身近な疾患である「インフルエンザ」を例にとってみよう。

①プリベンション=手洗いの徹底、うがい・マスク着用、シーズンには人混み近づかない等の教育。

②インターベンション=医師による問診と診断、注射、薬物療法、休養等の生活指導・流行予防等。

③ポストベンション=栄養・水分の補給、休養と安静、回復後の復帰の診断、普段の生活へ。

◆3段階のそれぞれにギャンブル依存症対策を当てはめるだけ

 先ほどの例に対し、下記のようにギャンブル等依存症患者を当てはめるだけである。それほど難しい対策は要らない。

①プリベンション(入り口対策)=入場規制、未成年者・生活困窮者・既往症者に対する規制。マイナンバー活用で実現。

②インターベンション(依存症発症の場合)=本人や家族その他からの通告に入場禁止(自己排除プログラム)、通院の義務化、医師の診断。

③ポストベンション(出口対策)=医療機関での治療または回復プログラム実施、専門相談員による相談、福祉機関による家庭支援等。

 それぞれの段階の実施責任は、自治体と事業者で行うという、至ってシンプルな構図である。この構図を「既存の公営ギャンブル、宝くじ、風営法上の遊技であるパチンコなど」にまず当てはめることが「総合的、計画的に推進」することであり、そこでの成果を、法案の第一の骨子に挙げている。

◆依存症対策の実施コストでパチンコ業界の体力が奪われる

 ここで真っ先に注目されるのは、公営より民間事業体のパチンコの方だろう。

 何しろ536万人というギャンブル依存者(2014年8月厚生労働省発表)を生み出す最大の源泉と見られている業界である(筆者はこの数字には疑義を呈しているが)。

 まずは、パチンコ業界が上に挙げた三段階それぞれにおいて適切な処置を施したのち、その実績を監督官庁である警察庁や世間から求められる。仮にパチンコ業界の取り組みが功を奏せば「民間でこれだけの対策が出来たのだから、公営ギャンブルの対策はしっかりしたものが出来る」という信頼を生み出すことにも貢献するだろう。

 しかし実際のところ、パチンコ業界が依存対策において、具体的な成果を挙げるためには相応のコストを覚悟する必要がある。

◆入り口対策と保険適用外で莫大な費用が予想される

 例えば入り口対策。

 入場規制者を識別するための機械や射幸性の更なる規制の導入といった莫大な設備投資が考えられる。

 依存症者に対する対策においては、専門機関への外部委託費用、専門相談員の雇用などの人件費も想定される。

 医療機関は健康保険が適用される(診断、検査、投薬)ものの、もとより依存症の治療を行う医療機関が少なく治療を行っている医療機関の情報も乏しい。

 依存症に関する効果的な治療方法が見つかっていないことなどの理由により、依存症者が必要な治療を受けられないという現状がある。更にこれもアルコールや薬物など物質依存の話であって、ギャンブル依存になると更に専門の医療機関は少なく、必然的に保険の効かないカウンセリング等の民間機関を利用せざるを得なくなる。

◆ギャンブル依存症回復へのコストはホールに重くのしかかる?

 従って多くのギャンブル依存に苦しむ人たちは、保険が適用されない民間機関へ足を向けざるを得なくなる。身近な対策として、カウンセリングや心理セラピーを受けることが考えられるが相場観としては1時間に1万円ほどがかかる。この費用は全額ギャンブル依存症者に負担させるのかという問題がある。

 公営ギャンブルであれば自治体による公的助成等は名目が立つ可能性はある。

 しかし民間のパチンコには、公的な助成は行われない可能性が高い。だからといってパチンコが生んだ依存症者の回復に助成がなされないとなると、「依存症対策法」の枠が揺らいでしまう。

 個人の問題だから100%個人負担を強いるのか。世論はその理屈を許容するのか。「パチンコ屋がギャンブル依存症者を作り出したんだから、その治療に掛かる費用は、パチンコホールも負担すべし」と言い出されるのではないか?

 設備投資費、委託費・人件費これに加え、まさかの「治療」費。これらの新たな負担をパチンコ業界がすべて担うことが可能なのか。

 昨年は遊技機のいわゆる「くぎ問題」で、多くのパチンコ店の体力が奪われた。今年は、「カジノ法案」とセットになった「依存症対策」によって、より経営体力が損なわれていく。ギャンブル依存症対策におけるプリベンション、インターベンション、ポストベンションの問題。ここに対し、パチンコ業界がどのようなアプローチを見せていくのか注目である。

<文・安達 夕>

ハーバー・ビジネス・オンライン