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政府の定義するギャンブル依存症対策には精神医学的根拠が乏しい

3/1(水) 16:20配信

HARBOR BUSINESS Online

 これまで2回にわたり、ギャンブル依存症対策の展望について考察してきた。 

 そもそも「依存症」とは何か?現時点で厚生労働省の定義は以下の通り。

「ある物質あるいはある種の物質使用が、その人にとって以前にはより大きな価値をもっていた他の行動より、はるかに優先するようになる一群の生理的、行動的、認知的現象」

 わかりやすく説明すると、(A)にとてもハマッている。(A)をすることで自分や他人に被害が出ている。そのことを認識している。が、その(A)をやめられない。この場合(A)への依存という。

 ちなみに、「病的賭博(≒ギャンブル依存)」に関する定義もある。

 病的賭博(ギャンブル依存)は、社会的、職業的、物質的および家庭的な価値と義務遂行を損なうまでに患者の生活を支配する、頻回で反復する賭博のエピソードから成り立っている。この障害を有する人びとは、自分の仕事を危機に陥れ、多額の負債を負い、嘘をついたり法律を犯して金を得たり、あるいは負債の支払いを避けたりすることがある。

 患者たちは、賭博をしたいという強い衝動を抑えることが困難であり、それとともに賭博行為やそれを取り巻く状況の観念やイメージが頭から離れなくなると述べる。これらの没頭や衝動は、生活にストレスが多くなると、しばしば増強する。

 ※医学的定義では「いわゆるギャンブル依存症」は行動の障害に含まれており、依存症には含まれていない。(ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン、1993)

◆「依存症四天王」には共通点がある

 一般的に「○○依存症」で思い浮かべるのはという問いに、多くの人は、「薬物」、「アルコール」、「タバコ(ニコチン)」と答える。それ以外にも、買い物依存やセックス依存といった依存症も有名だ。

 依存症は医療的には「物質への依存」、「過程への依存」の二つがあるが、心理臨床的な共依存を加え、一般的には三つの類型に分けられる。

 今回はまず、依存症の原型ともいえる物質の依存について紐解いてみたい。

 物質依存といえば、アルコール、薬物、ニコチン、砂糖が四天王である。もちろんその他にカフェイン等も有名である。が、四天王には共通点がある。それは「強烈な習慣化を引き起こすことで過剰摂取し、死に至る可能性がある物質であり、実際に多くの症例が報告されていること」だ。

 アルコール依存症は言うまでもなく、生命を蝕む厄介な病気である。あらゆる依存症を理解する上で「基本型」と言われており、様々な依存症の回復プログラムもアルコール依存症回復プログラムを大本にしていると言われている。依存症者の平均寿命は50代前半と言われており、女性は男性の半分の飲酒習慣歴で発症するのも特徴だ。

 薬物依存には、大麻、覚せい剤などの麻薬が有名。妄想、幻覚、幻聴等の症状とともに強烈な渇望、離脱症状(いわゆる禁断症状)が起こることは誰もが知るところである。他の依存と違い、暴力団などの反社会勢力との結びつきや殺人、傷害といった犯罪事件の発生と関連づくことが多いのも特徴だ。

 ニコチンは、摂取すると脳に爽快感が数十秒から数分続く効果があり、依存習慣を形作る。子供の頃あれだけ嫌だったタバコの匂いや煙たかったのに、吸い始めるとすぐ手放せなくなることからどれだけ恐ろしい常習性を持つのかがわかる。

◆「ギャンブル依存症」の新たな定義の確立が喫緊の課題

 そして、新たに加わったのが砂糖依存。

 実は20世紀初頭の消費量は少なく、現代社会の発展とともに確立された現代病である。アメリカでは糖尿病患者数が砂糖の消費量の増大と比例して数十倍に増えたと言う報告もある。(ナショナルジオグラフィック誌、2013)

 このように物質依存は、人の健康を蝕み生物学的な廃人を作り、最悪の場合死にまで追いやる、世にも恐ろしい病気なのである。

 さて、ギャンブル依存症である。これは「過程への依存」の代表の一つで最大の特徴は行動の障害をもたらすことであることは以前に述べた。

 物質の依存との最大の違いは、「身体の健康を害さない」こと。つまり、内臓なり、脳なり、血管なり、どこも悪くならない、身体としては健康体なのである。食欲もある、睡眠もとれる。ギャンブルにハマったそれだけでは、精神疾患によくある被害妄想・幻覚・幻聴があるわけではない。

 ただ、ギャンブルへの強い衝動を抑えきれず、行動の障害を生む「だけ」なのである。それに対して、医療的な病名の依存「症」という診断名を果たしてつけられるのであろうか? 実際今のところ前出の通り、「いわゆるギャンブル依存症」なのである。

 他にも行動の障害を生む「過程への依存」は多々ある。例えば「盗癖」や「買い物依存」など。

 エスカレートすれば(犯罪の場合はエスカレートしなくとも)、ギャンブル同様、生活を壊してしまう依存だ。

 ギャンブル依存症対策法案では、多分これらとは区分してあくまで「カジノ法案」的に「ギャンブル依存症」を特別に定義すると思われるが、そこに精神医学的な根拠がないのは明らか。

 そのような物を国民が納得するような、医療の保護の対象の疾患として定義できるのであろうか? 法案を作成する人たちの、真摯な努力と知恵の結集こそが必須だ。 <文/安達 夕>

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