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東芝だけじゃない!コーポレート・ガバナンスを毀損し、日本企業を蝕む「プライド」の正体

3/3(金) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

◆次の”東芝”になる企業も現れる!?

 減損損失は7000億円に上り、3月末に債務超過に陥ることは確実視されている東芝。ついには「虎の子」の成長事業である半導体事業を分社化して売り出す方針で、鴻海やアップルが興味を示している。JALに東電、シャープ、そして三菱自動車、かつての名だたる日本の名門企業の凋落は今や珍しくなくなってきた。いったい今、日本企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)の現場に何が起こっているのか?

 現役の東京大学経済学部生にして決算書や各種統計データを読み込み、企業の意外な実態を暴き出し、そのノウハウをまとめた新刊『東大式 スゴい[決算書の読み方]』を3月12日に上梓する大熊将八氏。そんな彼が「コーポレートガバナンス・コード」の提案者であり、日本企業の役員研修を手がける「公益社団法人会社役員育成機構(BDTI)」で代表理事を務めるニコラス・ベネシュ氏を直撃。企業不祥事の背景にある日本企業の問題点を聞いた。

大熊:早速ですが、東芝は今、大変な状況です。社外取締役を多く取り入れ、企業の経営状況をきちんと社外取締役が監視できるとされる委員会設置会社にいち早く移行するなど見かけ上はコーポレート・ガバナンスの優等生だった東芝ですが、どうしてこうなってしまったのでしょうか?

ベネシュ:私は以前から主張しているのですが、日本の委員会設置会社には大きな欠陥があります。「指名」「監査」「報酬」の3委員会制度の下、監査委員会は取締役から構成されていますが、社外取締役が過半数を占めればよいとされ、100%社外のメンバーで構成されなくてもいいのです。

 東芝の場合も、元CFOが委員長を務めていたのを始め、5人中2人は内部出身者でした。他にもいくつかの主要な日本企業では社内出身取締役が委員会の委員長を務めていますが、これは3委員会制度の下での監査委員会の大きな欠点であると考えています。過去に取締役兼執行役だったが、現在は経営上の役割がない、つまり「社内」ではあるが「業務執行」をしていない取締役が委員会に含まれているのです。

◆「プライドと年功序列」が東芝の改革を阻んだ

ベネシュ:’03年に法律が変わって、指名委員会制度というのができました。それを採択した東芝は当時は確かに優等生でしたが、その後、法律が変わらなかったから、自分たちも変えようとしなかった。今では優等生とは言えません。会計がわからないであろう元大使の方が監視委員を務めていたというのは一例です。

 会社の中で「著しい損害を及ぼすおそれのある事実」があることを発見した時、取締役は監査委員会に報告しないといけないという「報告の義務」がありますが、トップが問題を起こした時、内部出身の取締役は9人いましたが、1人を除いて全員が報告をしなかったようです。こうした事例を見るに、やはり「プライドと年功序列」が、「役員力」の最善を尽くして会社を改善しようという気持ちを上回ってしまったのではないでしょうか。

大熊:僕はいろいろな企業の財務分析をして、その意外な実態を探ったり、不祥事企業を探し出すという活動に取り組んでいます。3月12日にはこれまでの分析をまとめた新刊『東大式 スゴい[決算書の読み方]』を出版するのですが、決算書を読み解くと、東芝は以前から売上債権の回転期間が伸びていたりと、色々と危険な兆候を読み取れますが、やはり仕組みの上でも東芝のガバナンスには不備があったということですね。

ベネシュ:私はこれが東芝だけの問題ではないと考えています。ガバナンスの観点から見て、これまで優秀だと思われていた他の日本企業も競争優位性を失い、こうした状況に陥っても、なんら不思議ではない時代になってきたということです。東芝が現状に至った理由を考えるには何年も遡らないといけません。

 クリエイティビティのない競争戦略を掲げ、うまく行っていない事業から撤退できず、「だって我々は名門東芝なんだから……」というプライドが、PC事業を何としても黒字化しないといけないという焦りを生み出しました。これは’70年代のアメリカ企業とまったく同じです。ゼネラルモーターズもその頃、プライド高く振舞っていましたが、それが災いして、後にいったん沈んでしまいました。それと同様の過渡期にあるのです。

 私たち「BDTI」は企業向けの役員研修を行っていますが、多くの会社は「研修なんていらない」と言っていました。ほとんど研修をしていなくても、我々はもう間に合っています、と。研修を必要とするほど、資格のない人を取締役として指名していると、思われたら恥ずかしいというのが主な理由です。でも、完璧な役員、特に新任役員はいません。いたら、研修の場に来て知恵を共有してほしいぐらいですから。

大熊:まさにプライドが邪魔をして、適切な処置をとれていない状態というわけですか。

ベネシュ:そうです。シャープの例を見てください。’12年時点で鴻海から資本提携の提案はあったのに、外国系企業に支配権を渡したくないという理由で死ぬ寸前まで追い込まれてしまい、結局、”ギリギリセーフ”で安く買われることになってしまいました。株主にとっても機会損失です。

 東芝についても当初、報道されていたように半導体事業の20%を売るだけでは到底、解決できるはずがないと思っていました。このような場合、取締役会はワースト・ケースを想定してあらゆる選択肢を検討し、早く思い切った決断をしないといけないのに、いつまでも支配権を持っていたいとこだわっていてはいけません。極端にいえば、全社のM&Aも検討すべきかもしれません。

◆東芝の上場廃止をどう受け止めるのか?

大熊:「上場廃止すべき」という声も高まってきています。

ベネシュ:私は’06年のライブドア・ショック後のライブドアで社外取締役をした経験からも、上場廃止はできるだけ避けるべきと考えます。上場廃止になれば、株主の保有する株は完全に流動性を失います。罪のない株主が一番、損害を被るわけです。そして東芝を訴えることでしょう。これは結局、関係者がみんな損をするワースト・ケースだと思います。

 だから、半導体事業を売るにしても早くすべきです。継続企業の今後の基盤は何なのかを早く決めて、それ以外を早く売ることです。債務超過を避けて、東京証券取引所がその他の上場基準を寛大に解釈してくれれば、虚偽記載がない限り、上場廃止を免れることができます。そうしたら誰も訴訟しなくなります。

大熊:東芝はコーポレート・ガバナンス改革を担う中途人材を募集しています。このニュースについて、ベネシュさんは経済メディア「NewsPicks」のコメント欄で批判されていました。中途で、給料の安い人材を採っている場合ではないと。

ベネシュ:もっと早い段階から、しっかり報酬を支払って本当に必要なトップ人材、上層部人材を採るべきではないでしょうか。”東芝人”とはちょっと違う遺伝子をもったそういう人材は早くから探さないと見つかりません。そういう人材を呼べていないことが経営難の根幹にあります。

 さまざまな日本企業に言えることですが、それでグローバル企業との競争に勝てるわけがないのです。10年以上前からかつての競争戦略が上手くいかなくなっている。なのに、方向転換できていないのは今の時代に沿った人材を揃えられていないからです。英語ができて、関連業界で経験がある方、およびM&Aや再生案の経験がある投資銀行出身者のような……。

大熊:社外取締役をもっと多く入れるべきという議論にも繋がると思うのですが、そういう人材はどこにいるんでしょうか? 日本にはそもそも社外取締役が務まる人材が少ないんじゃないかという批判があります。いろんな会社の経営を経験してきたグローバル人材なんてそんなにたくさんいるんでしょうか。

◆社外取締役の探し方に問題がある

ベネシュ:トップが危機感と責任感を持っていれば歯を食いしばってもそういう人材を探してきますよ。常日頃から意見を発信して人材を惹きつけるべきです。経営共創基盤CEOでオムロンの社外取締役を務められている冨山和彦氏みたいな人もいますし、東芝の次期社長候補として名前が挙がっているのは資生堂で会長を務めた経験もある社外取締役の前田新造氏です。このように人材はいるのですから熱意を持って広く口説けばいいと思います。いい人材を引っ張れる力で経営者の腕を評価すべきです。

大熊:ベネシュさんは「役員バンク」という社外取締役を探すデータベースを作られましたね。そうした問題意識が背景にはあるんでしょうか?

ベネシュ:ええ。私は現在の社外取締役の探し方には問題があると思っています。ほとんどの社外取締役は、現経営陣の「人脈」から引っ張ってこられています。すでに知り合いの人か、知り合いから紹介された人。それは健全ではありません。もっとちゃんと裾を広げて検索すべきです。

 また、「聞こえの良い名前」より自社に必要なスキル、経験、献身的な態度か否かで評価すべきです。そこで、MBAを持っているか否か、役員経験の有無、どの産業および機能部の経験があるかなど実績とスキルに基づいて社外取締役を探せるデータベースを作りました。

 候補としてのボトムラインは役員の責務を果たすための基礎的なスキルが身についているかということですので、我々の役員研修を受講済みであることが必須としています。まずは企業の側で自社の取締役会のメンバーに必要な要件をマトリックスのような形で常に共有しているということが大前提です。

※次回記事「『コーポレートガバナンス・コード』の提案者が語る、日本のコーポレート・ガバナンスの歴史」は近日配信予定

<文/大熊将八>

おおくましょうはち○国内外の企業分析を行い、「週刊文春」「現代ビジネス」「東洋経済オンライン」「ハーバービジネス・オンライン」」などに寄稿。東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。3月12日には新刊『東大式 スゴい[決算書の読み方]』を発売予定。twitterアカウントは@showyeahok

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