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「コーポレートガバナンス・コード」の提案者が語る、日本のコーポレート・ガバナンスの歴史

3/5(日) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 減損損失は7000億円に上り、3月末に債務超過に陥ることは確実視されている東芝問題が紛糾している。JALに東電、シャープそして三菱自動車、かつての名だたる日本の名門企業の凋落は今や珍しくなくなってきた。いったい今、日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)の現場に何が起こっているのか?

⇒【資料】不適切会計開示企業推移

 現役の東京大学経済学部生にして決算書や各種統計データを読み込み、企業の意外な実態を暴き出し、そのノウハウをまとめた新刊『東大式 スゴい[決算書の読み方]』を3月12日に上梓する大熊将八氏。そんな彼が「コーポレートガバナンス・コード」の提案者であり、日本企業の役員研修を手がける「公益社団法人会社役員育成機構(BDTI)」代表理事を務めるニコラス・ベネシュ氏を直撃。

 第1弾では東芝をモデルケースに、コーポレート・ガバナンスを毀損し、日本企業を蝕むものの正体に迫った。今回は日本のコーポレート・ガバナンスの歴史について、当事者として携わったベネシュ氏と振り返りる--。

◆過去最多だった不適切会計

大熊:それにしても、昨年ごろからいろいろな企業で会社の所有権を巡る「お家騒動」が起きたり、不祥事が多発しているように思えます。実際、東京商工リサーチによれば、’16年は過去最多のペースで不適切会計が明らかになっています。どうして企業不正がこんなに増えているのでしょうか?

ベネシュ:私は不祥事が急に増えているわけではなく、日本社会が「コーポレート・ガバナンス」の重要性にようやく気づいたのだと考えています。

大熊:どういうことですか?

ベネシュ:企業が不正を行った時、きちんと告発するのが大事だという意識を社員が持ち始め、そしてそれをきちんと公表し報道することが大事だという認識が生まれたのです。東芝の不正も、内部からの告発によって事件が明るみに出ました。

大熊:なるほど。例えば近頃は「不倫」関連のスクープもよく報道されますが、別に最近になってみんなが急に不倫し始めたわけではなく、告発が増えたり、メディアが思い切って報道するムードが高まったからこそ、表沙汰になることが多くなったわけですよね。それに似ているかもしれません。

 私の新著『東大式 スゴい[決算書の読み方]』でも、お家騒動や不祥事を起こした企業の見分け方を解説していますが、確かにコーポレート・ガバナンスという言葉も最近、書店や新聞・雑誌などで見ることが多くなってきました。

◆ホリエモンと「コーポレート・ガバナンス」

ベネシュ:ただ、コーポレート・ガバナンスはまだ内部統制をしっかりして、不正を防いだり、きちんと告発できるようにしようという「コンプライアンス」の文脈で語られがちです。コーポレート・ガバナンスはコンプライアンスだけではありません。「とにかく恥ずかしいことを避ける」ために存在するものだけではなく、企業の「稼ぐ力」を増大させ、中長期的な成長性・収益性を高める、価値最大化のための企業統治の仕組み。それこそがコーポレート・ガバナンスであり、日本企業に求められているものです。

大熊:なるほど。それが近年、急に盛り上がってきたのはなぜでしょうか。

ベネシュ:’15年6月に「コーポレートガバナンス・コード」が制定され、安倍政権の成長戦略の柱となりました。それまでには10年以上にわたる長い道のりがあったのです。この図を見てください。

 ’05~’06年にかけて、コーポレート・ガバナンスという言葉には勢いがあったんですね。でも、その後衰退してしまい、近年、また盛り上がりつつあります。

大熊:当時、何があったのでしょうか?

ベネシュ:この頃は会社法の改正と、三角合併についての議論が盛り上がっていました。スティール・パートナーズなどの外資系ファンドが日本企業に対する敵対的買収を仕掛けたのに対し、産業界の要望で経済産業省が企業価値研究会というものを結成し、買収防衛策を話し合ったのです。

大熊:いわゆる「ハゲタカ」ファンドへの対策ですね。

ベネシュ:また、「モノ言う株主」として村上ファンドが台頭してきたり、当時、ライブドアの社長を務めていた堀江貴文氏が企業買収を繰り返しながら、積極的にメディア露出していました。堀江氏は自社の買収戦略を正当化するために、アメリカ型のコーポレート・ガバナンスを日本にも、といった主旨の発言を繰り返していました。

 実際、彼自身はガバナンスの何たるかの真髄をわかっていませんでしたが、とにもかくにも日本で初めて、テレビでコーポレート・ガバナンスという言葉がちょっと色がついた形で出てきた印象があります。

◆日本における「コーポレート・ガバナンス」の歴史

大熊:なるほど、そうだったんですね。ベネシュさんは粉飾決算が明らかになった「ライブドア・ショック」後のライブドアで社外取締役を務めた経験があると聞きました。ライブドア・ショックがあり、村上ファンドの村上氏も逮捕され、その後リーマン・ショックで円高にもなって、外資系企業による買収の脅威もおさまったため、日本におけるコーポレート・ガバナンスの議論は長らく停滞していたということでしょうか。

ベネシュ:そのとおりです。しかし、’13年ごろから、アベノミクスによる成長戦略の柱を政権は模索し始め、私は’14年には自民党に「スチュワードシップ・コード」と車の両輪になる「コーポレートガバナンス・コード」を直接提言しました。

 そして、’15年にコードが制定され、一気に議論が盛り上がってきました。私はずっと日本企業のガバナンス強化を訴えかけてきました。ここから、「仏作って魂入れず」という状態にならないよう、さらに実効性をもたせていかなければなりません。本当に長い道のりでした。

 15年前にあるタクシーに乗った時、運転手さんに「日本企業のコーポレート・ガバナンスに問題があるのでは?」と話したら、「日本のことがわかってない」とちょっと言われましたが、最近では「その通りだ」とたびたびうなずかれます。

大熊:やはり東電や東芝のように、日本企業の不祥事が報道されることが多くなり、企業統治について、日本中の人が関心を持ち出しているんでしょうね。でも、まだまだ企業の役員に会社の舵取りを担う役員としての意識が足りないから、継続して改善に取り組んでいく必要があるということですか。

ベネシュ:その通りです。

<文/大熊将八>

※次回記事「『コーポレートガバナンス・コード』の提案者に聞く、企業不祥事の背景にある日本企業の問題」は近日配信予定

おおくましょうはち○国内外の企業分析を行い、「週刊文春」「現代ビジネス」「東洋経済オンライン」「ハーバービジネス・オンライン」」などに寄稿。東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。3月12日には新刊『東大式 スゴい[決算書の読み方]』を発売予定。twitterアカウントは@showyeahok

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