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「圧倒的に勝つ」アイスホッケー女子日本代表発進その2

3/9(木) 15:00配信

Japan In-depth

■得点差3点以上、被シュート15本以内、完封勝利

「圧倒的に勝つ」ということは、アイスホッケー女子日本代表・スマイルジャパンにおいて漠然としたものではない。昨夏からチームを率いている監督・山中武司の定義は、こうだ。


「3点以上の差をつけて、相手に15本以上のシュートを打たせないようにしっかり守り、完封して勝つ」

実に明快だ。

先月9日から苫小牧白鳥王子アリーナでスタートした第23回オリンピック冬季競技大会女子アイスホッケー世界最終予選で、日本代表スマイルジャパンは初戦オーストリア戦第1ピリオド(以下P)でいきなり緊張感マックス。自分たちのプレーが出来ず、インターミッションにメンタルコーチ山家正尚が使用したエナジーバーチャイムと、その後の中村亜実のかけ声で、勢い良く更衣室を飛び出した。

第2P 2:53 敵味方が交錯するゴール前のこぼれ球をDF(ディフェエンス)小池詩織がねじ込み、貴重な追加点で2-1とリード。

「必ず、ゴール前にパックがこぼれ出ると思ってかまえていた」(小池)

この後第2P中盤から、じわじわとチームの硬さがほぐれだし、持ち前の運動量、スピードと、自分たちのホッケーを取り戻していった。この後、久保英恵、小野粧子、久保、中村と加点。6-1で勝利。オーストリアのシュート数は23本。

「決めるべき人間が決め、PPで2点取れたのは良かったが、自分たちの形がまだ出来ていない」(山中)

決めるべき人間とは、絶対的エース“氷上のスナイパー”久保。

「あと2試合も、しっかり得点に絡みたい」(久保)と、実に頼もしい。所属するSEIBUプリンセスラビッツの広報担当の磯部彰も、ここで何としても点が欲しいと言う場面では、いつもこう唱える。

「神さま、仏さま、久保さま」

PPとは、パワープレーの略で、相手メンバーがペネルティで退場して1名以上少なく、自軍がかなり有利な状態で戦う事を指す。


その際は得点する確率が高いので、スペシャルセットを組むことが多い。スマイルジャパンも久保、中村、床波留可プラスDFのポジションに、得点量のあるFW(フォワード)浮田留衣を置き、DF床亜矢可との強力PPセットを組む。躍動感が増し、何度も得点を重ねることになる。

そして、この試合の収穫はもう1つ。ベテラン最年長・小野(35)のいきなりのゴールだった。

■行けー!二本柳!!

「いけー!二本柳、決めて来い!!」

女子のアイスホッケーを見守り続けて来たオールドファンなら誰でも、最終決戦のアリーナでも、BS放送で生中継されていた茶の前のテレビにかぶりついて、こう叫んでいた。かつてのチームメイトだった鈴木あゆみ(旧姓佐藤)の青森県八戸市実家でもご多聞に漏れず、「カミさんが、ずっと二本柳!!と叫んどります」と、父親の泰哉。

二本柳とは、小野の旧姓だ。元日本代表の小野豊と結婚して、地元北海道に戻った。

「今でも、思い出すと眠れなくなるほど、悔しいシーンがあるのです」

試合後、紅潮した頬そのままでベテランは切り出した。

ソルトレイクシティ五輪予選に次いで出場した、2004年トリノ五輪最終予選でのことだった。熱戦はロシア・モスクワ郊外のポドリスクで繰り広げられていた。日本代表は、最終ロシア戦を戦っていて、引き分けでも五輪出場が決まるという局面だった。

第3P、五輪へのあと1点を取るための、絶好のシュートチャンスだった。DF近藤陽子から出されたパスは、あまりにどんぴしゃにゴール前にいた小野目がげて入って来た。ブレード(スティックの先のパックを扱う横長の部分)をすっと合わせて角度をつけてやるだけ。

「入れるんだ!」

ワンタッチで、ゴールを目がけて流してやったシュートは、ゴールポスト脇ほんの数センチのところを、外れていった。そのパックの動きが、まるでスローモーションのように見えた。

「まさか」

掴みかけていた五輪出場の夢は、その手中からこぼれていった。

その後3たび目、代表としてバンクーバー五輪予選に挑んだが、今度はあと1勝が遠く、最終戦中国に敗れて代表から身を引いた。

コクドレディース、SEIBUプリンセスラビッツを経て、夫がコーチを務める北海道清水町のクラブチーム・フルタイムシステム御影グレッズで、監督に請われて若手に教えながらプレーを続けていた。代表という第一線から退き、指導が中心だったはずなのに、日々感じていることがあった。

「あれ?ワタシ、ホッケーが上手くなっている!!」

(文中敬称略)次回へつづく

神津伸子(ジャーナリスト・元産経新聞記者)

最終更新:3/9(木) 15:00
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