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三越伊勢丹HD社長、突然の退任劇――爆買い失速、免税店失敗……今後の新たな一手とは?

3/9(木) 16:20配信

HARBOR BUSINESS Online

 百貨店の雄・三越伊勢丹が揺れている。

 3月7日の取締役会で、2012年よりグループを牽引してきた大西洋社長(61)が、任期途中の3月31日で退任することが発表された。後任の社長には、伊勢丹出身で、現・経営戦略本部長の杉江俊彦取締役専務執行役員(56)が就任する。また、三越出身の石塚邦雄会長(67)も、6月の株主総会で退任する予定だという。

「任期途中」という異例の退任劇の背景には、一体なにがあったのであろうか。

◆小型店出店、Tポイントカード導入……経営改革のなかでの退任劇

 大西氏は1979年に伊勢丹に入社。2009年伊勢丹社長執行役員となり、2012年2月1日に三越伊勢丹ホールディングス代表取締役社長に就任した。

 就任後は、全国各地に中~小型店の出店を進めるとともに、不振を極めたJR大阪三越伊勢丹(2011年開業)を、専門店と伊勢丹の売場をミックスした「ルクアイーレ」に業態転換。さらに、CCC(TSUTAYA)との提携(Tポイントカードの導入、ルクアイーレへの「蔦屋書店」出店)、旗艦店への「空港型免税店」出店など訪日外国人の取り込みも推し進めてきた。

 このうち、中小店舗「MIプラザ」や「イセタンミラー」などの出店については、百貨店でも好調な「化粧品」「服飾雑貨」や「銘菓」「贈答品」を中心とした品揃えで好評を博し、現在も出店が続いている。また、CCC(TSUTAYA)との提携は「高級志向」の三越伊勢丹としては異論もあったというが、客層の拡大を図るという面からは一定の効果を上げていた。

 しかし、その全てを打ち消すほどの大きな問題が銀座三越の8階で起きていた。

◆鳴り物入りで改行した免税店の不振

 銀座三越の8階は、2016年1月に全面リモデルされて空港型免税店「Japan Duty Free GINZA」となったばかり。この「Japan Duty Free GINZA」は、三越伊勢丹グループ初の空港型免税店で、3,000㎡の売場面積に化粧品、宝飾品に加えてこだわりの伝統工芸品など約130ブランドを展開。初年度の売上目標を133億円とし、将来的には150億円を目指すとされていた。

 しかし、高級感にあふれる売場は閑古鳥が鳴く状態で、客よりも店員の数のほうが多い、という日も少なくない。

 ここで、最近全国各地でよく聞くようになった「空港型免税店」とは何か、について確認しておきたい。

 空港型免税店とは、既存の百貨店などに適応されている消費税分のみが免税される免税店(TAX-FREE SHOP)と異なり、関税や酒税・タバコ税も優遇される空港型市中免税店(DUTY-FREE SHOP)のことだ。銀座三越の空港型免税店開設は、国内では沖縄型特定免税店制度により2002年に開設された「Tギャラリア沖縄 by DFS」以来13年ぶりとなったため、開業時には大きな注目を浴びた。

 訪日観光客が増加するなか鳴り物入りで開業した「Japan Duty Free GINZA」の苦戦は、訪日客のいわゆる「爆買い」傾向の変化や店舗のPR不足に加えて、「いかにも『外国人向け』の作られた売場ではなく、日本人向けの売場と接客のなかで買い物をしたい」という訪日客のニーズとは異なった売場づくりだったことも大きな要因となっていたであろう。

 さらに「Japan Duty Free GINZA」では、客のうち2~4割程度が「出国前の日本人」になると想定していたというが、店内はとても出国前にカジュアルな服装で買い物できる雰囲気ではないうえに、まず出国前の日本人がわざわざ銀座三越の8階で買い物をするメリットはあまり高くなく、日本人の買い物は非常に少なかったと思われる。

 「Japan Duty Free GINZA」の初年度の売上は、目標の3割ほどの44億円。営業損益は20億円の赤字になったという。

◆本丸の旗艦店も客層の高齢化が響く

 そもそも目標年商の「150億円」は地方百貨店1店分の年商にも相当する額(三越では新潟、広島、松山各店の年商に相当)で、3,000㎡の売場面積でそれを達成するためには、よほど「高額商品偏重」の販売実績がないと難しい。三越伊勢丹では2016年4月に福岡三越にも空港型免税店を開設しており、他店でも展開していくとしていたが、今後の先行きは不透明だ。また、三越伊勢丹ホールディングスでは全体の2017年3月期の業績についても下方修正をおこなっており、連結営業利益は前期比28%減の240億円、最終利益は前期比51%減の130億円となる見込みだ。

 これまでの三越伊勢丹は、この「銀座三越」、そして「日本橋三越本店」や「新宿伊勢丹」の売上で、地方・郊外の店舗や傘下に収めた地方百貨店を支え、相乗効果をあげるという構図だった。

 しかし、空港型免税店が振るわないばかりか、三越の旗艦店が抱えていた高級店ゆえの「客層の高齢化」という問題が伊勢丹でも起き始めており、若者客の取り込みが喫緊の課題となっている。

 こうした旗艦店の不振を受けて、千葉三越、多摩センター三越(旧・多摩そごう)が2017年3月中の閉店を決めているほか、今後は丸井今井札幌本店・札幌三越、新潟伊勢丹・新潟三越、伊勢丹松戸店、伊勢丹府中店、静岡伊勢丹、広島三越、松山三越の7都市9店舗についても売場面積の削減や業態転換などが示唆されている。

 とくに千葉三越などは建物の老朽化も著しく(千葉三越は賃貸物件ではあるが)、築年数が高い建物が多い三越伊勢丹にとっては、こうした老朽店舗の改装費や耐震補強費も重荷となるであろう。(参照:「都商研」)

◆「コト消費」重視への転換で脱インバウンドを狙う

 一方で、三越伊勢丹ホールディングスもこうした事態に対して何の対策も取っていないという訳ではない。

 前述したCCC(TSUTAYA)との提携以外にも、2016年1月には飲食店を展開する「トランジットジェネラルオフィス」(港区)との共同出資で「三越伊勢丹トランジット」を設立。百貨店内の飲食店街の活性化や店舗外での展開も視野に入れているほか、2016年11月には人気のオンラインゲーム「艦隊これくしょん」とのコラボレーションを実施。さらに2017年1月にエステサロンなどを運営するソシエ・ワールドの持株会社「SWPホールディングス」(千代田区)を、2月には主に富裕層をターゲットとした旅行会社「ニッコウトラベル」(中央区)を買収するなど、今後は高級品や贈答品の販売のみに注力を注ぐのではなく「コト消費」にも重点を置くことで郊外型ショッピングセンターなどとの差別化を進め、客層の拡大や経営の改善を図る考えだ。

 また、旗艦店の日本橋三越本店でも、環境デザイン担当に建築家の隈研吾氏を機用して「カルチャーリゾート百貨店」をテーマとした全面改装を進めていくことを発表している。

 今後、新社長の下では、どのような「活性化策」が採られるのであろうか。百貨店の雄・三越伊勢丹だけに、その後継者や経営方針は百貨店業界全体からの注目の的となっている。

<取材・文・撮影/都市商業研究所>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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