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気付かれにくく、すぐ撃てる――北朝鮮の新型ミサイル「北極星2型」の脅威

3/9(木) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 北朝鮮は2月12日7時55分ごろ(日本時間)、北朝鮮西岸の亀城(クソン)付近から、1発の弾道ミサイルを発射した。ミサイルの飛翔は米軍などによって追跡され、約500kmの距離を飛翔し、日本海上に落下したことが確認された。

 韓国の国防部は当初、飛行距離や経路などから、準中距離弾道ミサイルのノドン、もしくは中距離弾道ミサイルのムスダン、あるいはその改良型ではないかと推測、発表されたが、その後「固体推進剤を使った新型ミサイル」であると修正した。

 そして翌13日、朝鮮中央通信などの北朝鮮メディアは、このミサイルが「北極星2型」という名前の、新型の固体ミサイルであると発表。最高指導者である金正恩・朝鮮労働党委員長自ら現地でこの発射試験を指揮し、発射システムや固体ロケット・モーターの機能、飛行特性などを確認し、試験は成功だったとしている。

 北朝鮮は昨年8月、潜水艦から発射する中距離弾道ミサイル「北極星1号」(KN-11)の発射試験に成功している(参考『北朝鮮、潜水艦発射弾道ミサイルの発射に成功。大きな脅威となりうる技術習得の可能性も』)。今回発射された北極星2型は、この北極星1号を陸地から撃てるようにしたものだと考えられる。

 また、北極星1号や以前のムスダンの発射と同様、今回も日本の本土に落下しないよう、あえて高い角度で発射し、高度と引き換えに飛行距離を短くしたものと見られている。そのため、標準的な角度で発射された場合は、飛行距離は1200~2000kmに達するとされ、北朝鮮から日本本土に撃ち込むことが可能になると見られている。

 今回はこの北極星2型について、詳しく見ていきたい。

◆北極星1号、2型が採用した固体推進剤

 北極星1号、そして今回発射された北極星2型の最大の特長は、推進剤(燃料と酸化剤)に固体を用いていることにある。

 ロケット(ミサイル)の推進剤には、大きく液体と固体の2種類がある。液体推進剤は、たとえば液体水素と液体酸素、ケロシン(ジェット燃料)と液体酸素といったように、推進剤が文字どおり液体の状態のものを指す。固体推進剤も文字どおり、推進剤が固体の状態のものを指す。

 液体ロケットと固体ロケットのどちらが優れているかは一概には言えず、目的によって異なる。たとえば液体ロケットは、エンジンを繰り返し点火したり停止したりでき、また推力を調節することもできる。一方の固体ロケットは、推力の調節などはできないものの、液体よりも大きな推力を出すことができ、長期保存ができるなど取り扱いもしやすいという特長がある。

 ちなみに、よく固体ロケットの特長として「造るのは簡単」と言われることもある。たしかに液体ロケットは、エンジンの中を配管などが這い回っているため構造が複雑で、誰の目から見ても製造は難しいと感じる一方、固体ロケットは巨大なマカロニ、あるいは竹輪のような形状をしているため、一見すると簡単に造れるようにも感じられる。

 しかし、実際には固体ロケットの製造はノウハウの塊であり、決して簡単というわけではない。したがって、液体も固体もそれぞれ違った難しさがあると言うほうが正しい。

◆固体推進剤のミサイルは気付かれにくく、すぐ撃てる

 このように固体ロケットと液体ロケットには一長一短があるが、ミサイルとして使う場合には、圧倒的に固体のほうが好まれる。

 まず固体ロケットは長期保存ができるため、あらかじめ何発も製造して保存し、いざ実戦となればすぐに発射することができる。液体推進剤にも長期保存できるものはあるが、タンクの腐食などを考えると限度がある。ちなみに米国では、50年前に製造された固体ロケットが問題なく動いたという実績がある。もちろんこれは適切な状態で保管・管理されていたからこそできたことで、ただ放っておくだけではそんなに保たない。

 また、固体ロケットは点火すればすぐに飛ばせるため、敵から準備を知られにくく、また運用に必要な人員も少なくできるという利点もある。

 液体ロケットの場合、タンクの中に推進剤が入った状態ではミサイルを運べないため、空っぽの状態で発射地点まで運び、そこで推進剤を注入して発射する必要がある。そのため、その準備中に敵の偵察衛星などによって動きが察知されれば、先制攻撃を受けたり、迎撃態勢を取る時間を与えることになる。

 もちろん、移動式の発射台ではなく、地下のサイロなどから撃つ場合は、液体推進剤のミサイルでも、あらかじめ推進剤を注入し、発射に備えることはできる。ただ、前述のように保存期間の問題があり、またサイロの場所があらかじめ特定されていれば、重点的な監視の対象となり、何かあれば真っ先にそこが攻撃を受けることになる。とくに北朝鮮のように国土が狭く、非力な軍隊しかもたない場合、サイロが先制攻撃される可能性はより高くなる。そのため地下サイロのような固定式の発射台は、同国にとってはあまり価値がない。

 すでにスカッドやノドン、そしてムスダンといった液体推進剤のミサイルをもつ北朝鮮が、技術的にまったく別系統である固体推進剤のミサイルの開発にわざわざ手を出し、さらに最も察知されにくい移動式発射台である潜水艦発射型のミサイル開発をも行っているのは、まさににこうした利点を重視してのことだろう。

◆発射の探知を難しくする「コールド・ローンチ」

 今回の北極星2型の発射試験において、もうひとつ注目されているのは、ミサイルの打ち上げ方法である。

 スカッドやノドン、ムスダンなどのミサイルは、移動式の発射台に立てられた状態で、ミサイルのエンジンに点火、噴射して飛んでいく、「ホット・ローンチ」という方法を使っている。ホット・ローンチという言葉を使うと変わった仕組みに思われるかもしれないが、要は他のロケット打ち上げでもよく見る、標準的な打ち上げ方法である。

 一方、北極星2型は、まず大きな筒の中にすっぽり収まった状態で立てられ、そして筒の底で発生させたガスの圧力によって空中に放り出され、そこで初めてミサイルに点火し、飛んでいく。ホット・ローンチと違い、発射時に”熱い”ロケット噴射を伴わないことから、こうした発射方法を「コールド・ローンチ」と呼ぶ。この方法は、米ロをはじめ、世界の大半の弾道ミサイルが用いており、また潜水艦からミサイルを発射する技術も、基本的にはコールド・ローンチと同じである。

 コールド・ローンチの利点は、発射時に熱い噴射ガスが出ないため、敵からの探知を少し遅らせられるということにある。

 米国などは、宇宙空間に配備した早期警戒衛星でミサイルの発射を探知するが、その探知には赤外線を使っている。赤外線は温度が高いほど多く出るため、たとえばミサイルの発射場所と思われるところなどで高い温度を探知すれば、それを「ミサイルの発射だ」と見なすことができる。

 ホット・ローンチの場合、ミサイルのエンジンが噴射して発射される上に、さらにその燃焼ガスは地面にあたって周囲に広がるため、早期警戒衛星から探知しやすい。一方、コールド・ローンチだと発射後に噴射を開始するため、探知したときにはすでに飛び始めており、さらに地面にガスが広がらないため、探知もやや難しくなる。

 またコールド・ローンチには、発射時にミサイルが入っている筒などが噴射ガスで炙られないため損傷しにくく、装置をそのまま、すぐに再使用できるという利点もある。

◆初めて姿を表したキャタピラ式の移動式発射台

 また、移動式発射台そのものにも特徴がある。

 これまで北朝鮮は、陸から撃つミサイルの発射台に、装輪式(タイヤ)の移動式発射台を用いていた。しかし今回の北極星2型では、戦車のような履帯(いわゆるキャタピラ)を使った発射台が使われた。

 履帯を使う移動式発射台は珍しいものではなく、ソ連などで実際に運用されていたが、その目的はタイヤでは走行できない場所を走り、山の中などから撃てるようにするためと考えられる。

 一説には、米国は北朝鮮の領内にある、ミサイルの発射が可能な場所、たとえば広場やそこにつながる道路、あるいは道路そのものをほぼすべて把握しているといわれており、北朝鮮にとっては、いくら事前に隠しとおせても、発射準備を始めた段階ですぐにその動きを察知されることになる。

 しかし山の中などは例外なため、この移動式発射台で道なき道を進み、どこか適当なところから発射すれば、発射するその瞬間まで、動きを察知されにくくなる。言い換えれば、ある程度開けた平らな場所であれば、すべて発射地点として利用できることになる。

◆量産とICBMへの進化に注意

 昨年の北極星1号の発射と、今回の北極星2型の発射の成功は、北朝鮮のミサイル技術が、それもただ打ち上げるというだけでなく、より実戦向きの技術へと着実に進歩していることを示している。

 もっとも、潜水艦からコールド・ローンチされた昨年の北極星1号も、そして今回の北極星2型の発射も、米軍は探知に成功しており、レーダーによる追跡と合わせて、発射地点も、どのように飛んだかも明らかになっている。したがって、コールド・ローンチによって準備の察知や発射の探知ができなくなり、知らない間にミサイルが撃ち込まれる、ということはないし、また日米韓がもつ迎撃ミサイルでの対処も十分可能ではある。ただし、探知や迎撃がしづらくなったのは確かであろう。

 今後当面の懸念は、まず北極星のような固体推進剤のミサイルの量産にある。安定した品質で量産することが可能になれば、現在日本を射程に収めている液体推進剤のノドンに取って代わり、その脅威度は上がる。さらに、何発も同時に発射されることになれば、前述した固体ミサイルの利点も相まって、迎撃が間に合わなくなる危険もある。

 もうひとつは、固体推進剤による大陸間弾道ミサイルの開発である。

 現在、北朝鮮は大陸間弾道ミサイルに使用可能なミサイルとして「銀河3号」(テポドン2)を保有しているが、発射準備に数日かかるため実用的ではない。また、KN-08やKN-14といった、移動式発射台から発射できる大陸間弾道ミサイルの開発も確認されているが、これらは中距離弾道ミサイルのムスダンから派生した液体推進剤のミサイルだと考えられており、テポドン2ほどではないにしろ、やはり発射準備に時間がかかる(もちろん、だからといって脅威であることに変わりはない)。

 米国やロシア、中国は、固体推進剤を用いた大陸間弾道ミサイルを配備しており、今後北朝鮮の固体ロケット技術がさらに進歩すれば、同様のミサイルの開発、運用は可能になろう。そうなれば、「気付かれにくくすぐ撃てるミサイル」という脅威が、日本のみならず、米国本土まで及ぶことになる。

 ミサイルに搭載される弾頭部分や、最も恐るべき核弾頭の開発とも合わせて、その動向にこれまで以上に注視する必要がある。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●作家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト:http://kosmograd.info/

Twitter:@Kosmograd_Info

【参考】

・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(第1報)(http://www.mod.go.jp/j/press/news/2017/02/12a.html)

・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(第2報)(http://www.mod.go.jp/j/press/news/2017/02/12b.html)

・Pukkuksong-2 | Missile Threat(https://missilethreat.csis.org/missile/pukkuksong-2/)

・KN-11 (Pukkuksong-1) | Missile Threat(https://missilethreat.csis.org/missile/kn-11/)

・The Pukguksong-2:A Higher Degree of Mobility, Survivability and Responsiveness | 38 North:Informed Analysis of North Korea(http://38north.org/2017/02/jschilling021317/)

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