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「きっぷ」を刷っていた老舗印刷所の意外な今

東洋経済オンライン 3/15(水) 6:00配信

 鉄道を利用する際には欠かせないのが「乗車券」。いまでは都市部を中心に「Suica」などのICカード乗車券がすっかり普及しているが、鉄道の開業から今日に至るまで重要な役割を担いつづけてきたのが紙のきっぷだ。

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 有価証券であるきっぷの印刷には独自の高度な技術が必要とされ、乗車券を手がける印刷会社はこれらのノウハウを長年蓄積し続けてきた。だが、ICカード化などで紙のきっぷの出番は縮小しつつある。その中で、長年培ってきた乗車券印刷の技術を活かしつつ、新たな分野へと事業を広げている印刷会社がある。東京・千代田区に本社を置く「山口証券印刷」だ。

■硬券に始まりデジタルの世界へ

 同社は1921年の創業以来、大手私鉄をはじめとする鉄道各社の乗車券印刷を主軸として発展してきた印刷会社。かつてのきっぷの主流で、現在でも地方の鉄道などで使われる硬い厚紙の「硬券」や、自動券売機で使われる地紋の入ったロール紙などの印刷はもちろん、鉄道ファンの人気を集める記念乗車券なども数多く手がけている。

 きっぷをめぐる環境が大きく変化する中、伝統の乗車券印刷技術にデザイン力や企画力を加え、CDやDVDなどのパッケージ、ネット上の決済に利用できるギフトカードなど、印刷だけでなくさまざまな分野の企画やデザインへと事業を広げている同社。新たな分野への本格進出へ舵を切ったのは約30年前、ある鉄道会社の担当者の一言が大きなきっかけだった。

「ダサい会社に仕事は出さない」

 「『ダサい印刷会社にはもう仕事は出さないぞ』とはっきり言われました」。同社常務取締役で、制作やデザインなどクリエイティブ面を担う「インセンクス事業部」プロデューサーの山口誉夫さんは、ある鉄道会社の担当者が発した強烈な一言を今も鮮明に覚えている。

 大学卒業後、当初は違う道に進んだ山口さんが、父の「戻ってこい」という求めに応じて同社に入社したのは今から31年前。国鉄がJRに変わる直前の時期だ。

 当時、乗車券は硬券から(自動券売機の)ロール紙へと進化していたが、さらに定期券のカード化や磁気券化など、鉄道各社で電子化を始めとした近代化が劇的に進み始めた「夜明け前のような時期だった」と山口さんはいう。

 だが、同社は「機械も旧式なものが多く、旧態依然とした部分があった」(山口さん)。当時からすでに一般の乗車券だけでなく、ポスターやチラシといった交通広告、記念乗車券の印刷を手がけていたものの、デザインはすべて外注だった。

■デザインを新たな事業の軸に

 CI(コーポレートアイデンティティ)などが注目を集め、企業にとってデザイン性が重要視される時代になりつつある中、山口さんは会社が時代から取り残されつつあるという危機感を抱いていた。そのさなかに叩きつけられたのが、先の強烈な一言だった。「『モノをつくるだけじゃダメだ、考えてこい』といわれる時代に入っていた」と山口さんは当時を振り返る。

 「このままではまずい」と感じた山口さんは、夜間にデザインの勉強を開始。当初は苦労の日々が続き、記念乗車券のデザイン案を30案提出しても「5秒で『こんなんじゃダメだ』と鉄道会社の担当者にダメ出しされた」という。だが、努力の結果デザインは認められるようになり「ダサい」という過去のイメージは払拭されていった。

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最終更新:3/15(水) 6:00

東洋経済オンライン

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