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東芝が抱える「中国原発」という爆弾

週刊SPA! 3/18(土) 9:00配信

「エネルギーとエレクトロニクス」の東芝が、まさか自らのエネルギー事業で首を絞められることになろうと誰が想像しただろうか……。しかし、原発事業での失敗はアメリカだけではなかった。情報が乏しい中国での事業こそパンドラの箱だった!

⇒【資料】東芝が中国で建設中の原発一覧

◆東芝は3年前から中国での事業をヤバいと認識!?

 2月に東芝は子会社の米国ウェスチングハウス(以下、WH社)による7000億円もの特別損失を計上し、昨年末には債務超過に陥っていた。福島原発の事故で安全基準が見直され、工期の遅れやコストが上昇したことが要因だ。

 上場廃止を免れるため、目下、事業の売却による資本拡充が検討されているが、WH社はさらなる爆弾を抱えている。同社は中国・浙江省の三門原発と山東省の海陽原発で計4基の原発炉建設を受注しているが、いずれも工期が3年以上遅れることが確定しており、WH社が巨額の損失を被っている可能性が高いのだ。

 この損失はあらかじめ東芝は認識していた。『文藝春秋』(’16年4月号)は、’13年に当時の東芝財務部長のW氏が送ったとされるメールをスクープした。そこには「中国・USのAPプロジェクトは大きな問題を抱えている」と書かれており、監査法人から「失注扱い」するよう指摘を受けたことが綴られている。このW氏は、東芝の不正会計が明らかになった後の’15年9月、決算発表の席上で東芝の好調ぶりを力説していた人物だ。それが単なる強弁だったことは今や明らかだが、同記事から3年以上たち、膨らみ続ける中国事業の損失も、彼の手によって隠されているのでは、と疑ってしまうのは人の常だろう。

 中国での工期の遅れも、やはり安全基準の見直しが原因だ。中国事情に詳しいジャーナリストの富坂聰氏はこう話す。

「三門原発ではかつて、原子炉からわずか数百メートルという距離に従業員宿舎が造られていた。それほど原発に対する危機意識は低かったが、福島原発事故で一変した。一党独裁とはいえ住民反対運動も無視できるレベルではなくなったのも原因です」

 もともと安全基準があまりに低すぎた中国では、アメリカでの安全基準見直し以上の混乱を現場にもたらしたという。

 中国で建設中の4基以外に新たな受注を獲得できていないことも、WH社にとっては想定外だったはずだ。東芝がWH社を買収・子会社化したのは’06年だが、54億ドルという買収額は当時から「高値掴み」と指摘されていた。それでも買収に踏み切ったのは、中国での事業展開に明るい未来を描いていたからだ。毎日新聞「経済プレミア」編集長で、今月に『東芝消滅』(同社刊)を上梓する今沢真氏は「当時どんな収益計画を立てていたかは公表されておらず、謎だ」としながらも、こう解説する。

「’06年当時、すでに世界では加圧水型が主流になっていた。そこで沸騰水型の技術しか持たない東芝は、原発事業の海外展開のためにはWH社買収が必須と判断したのでしょう。その頃、中国が『今後15年で30基程度建設する』と明言していたことも、この買収を後押ししたはずです」

 WH社会長のD・ロデリック氏は最近も「これから数年は毎年8基程度の新設が見込める」と強気な発言をしている(『週刊ダイヤモンド』’16年11月12日号)。果たして詭弁なのか、それとも能天気なのか……。いずれにせよ10年前に受注した原発が1基も完成しないのを見ると、今後、WH社が新規受注する可能性は低いだろう。世界の原発事情に詳しい九州国際大学教授の中野洋一氏もこう話す。

「中国では、2.5世代に位置づけられるCPR1000という国内開発の原子炉が主流。しかし将来的には、第3世代炉の建設技術と知的所有権を確立しながら、海外展開することを考えている。そこで三門原発や海陽原発にはWH社のAP1000を、台山原発にはアレバの欧州加圧水型炉(EPR)を発注し、現時点で中国には建設技術がない第3世代炉の技術を獲得しようとした。川崎重工業やJR東日本が中国に新幹線車両の技術供与をした結果、中国が独自開発技術として特許出願した件があったが、その轍を踏むことになるかもしれない」

 つまり、自国市場で海外の原発事業者に儲けさせる考えなど、中国には毛頭なく、東芝・WH社は“下心”を持った中国政府の口車に乗せられたということか。

「国家の威信をかけた原発政策を、日本の技術に頼っているという事実はメンツにも関わるので、中国ではWH社は米企業とだけ報じられ、親会社が東芝ということは伏せられている。そういう態度を見ても、自国の技術が蓄積されるまでの期間限定の“付き合い”だということがわかる」(富坂氏)

 米中で計画が滞り、もはやお先真っ暗のWH社は、米破産法を適用する選択肢も浮上している。

「WH社を潰したとしても、『親会社保証』をしている東芝は、約7935億円を支払う義務がある。先日、米原発事業で計上した特別損失7000億円以上のインパクトがある」(今沢氏)

◆中国にとってWH社破産は原発技術者の獲得チャンス

 さらに中国でも、「建設中の4基から途中撤退した場合、6000億~7000億円の賠償を求められるのではないか」(富坂氏)というから、東芝はWH社を破産させたとしても合わせて1兆5000万円ほどの損失は覚悟しなければならないことになる。

 かといって、延命させたとしても損失が今後どこまで広がるかは不明だ。東芝は自身でその価値を2兆円程度と算定する半導体部門の売却も視野に入れているが、そもそも2兆円で売れるのかは疑問だし、仮に売れたとしても、半導体事業(HDDを含む)の’16年3月期の売上高は1兆5759億円と、全体の28%を占める東芝の稼ぎ頭だ。半導体事業なき東芝が、順調に再建に向かうとはとても思えないが……。

 まさに八方塞がりの東芝・WH社を、中国の原発業界が虎視眈々と狙っているという見方もある。『中国 原発大国への道』(岩波書店)などの著書がある帝京大学の郭四志教授は話す。

「中国が原発強国を目指すうえで、大きな課題となっているのが人材の確保。外国企業から優秀な原発エンジニアのヘッドハンティングを活発に行っている。そうした意味では、WH社や東芝の苦境は、中国の原発産業にとって人材獲得のチャンスといえるでしょう」

 中国政府の思惑も交錯するなか、果たして東芝の中国原発事業の全容が明らかになる日は来るのか。

◆中国事業で巨額損失を出した日本企業!

 中国で火傷を負った日本企業は東芝だけではない。例えば老舗の化学薬品商社・江守HDは中国子会社の不正会計や貸し倒れなどが原因で462億円以上の損失を被り、’15年に経営破綻しているのだ。中国在住のコンサルタント・平岡省吾氏は「日系企業はスタッフの現地化が思うように進んでおらず、中国の商習慣や消費者心理を理解できていない」と原因を指摘する。その他、中国で苦境に立たされている日本企業は以下の通りだ。

●リクシル

損失(推定) 662億円

買収したドイツ企業の中国子会社で簿外債務が発覚。子会社は’15年に経営破綻し、巨額の損失を計上した

●神戸製鋼所

貸し倒れ 310億円

中国の建機事業で売掛金未回収が発生し、’16年4~12月期連結決算で貸倒引当金などが膨らんだ

●ユニー・ファミリーマートHD

営業赤字 13億円

’14年に上海に開いたアピタ1号店が、テナントの誘致の遅れなどにより振るわず。中国本土撤退を決めた

●平和堂

純利益 9%減

かつて反日デモ被害に悩んだ平和堂だが、中国での高額品販売が不振で’16年3~11月期の連結決算で減益

取材・文/奥窪優木 写真/AFP=時事 浙江農信

日刊SPA!

最終更新:3/18(土) 9:58

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