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1万人を面談した産業医が教える、職場のストレスが消えるコミュニケーション術

3/21(火) 16:20配信

HARBOR BUSINESS Online

 働き方改革の議論の中で、残業時間を繁忙期でも月100時間とする方向で、話が進んでいます。原則100時間なのか、100時間程度なのか、100時間未満なのかなどの攻防が繰り広げられている中、過労死遺族の方が「1か月100時間、2か月平均80時間残業を上限とする案に、過労死遺族の1人として強く反対します」とのコメントを出しました。

 働く時間を制限することだけでは、一昨年に電通で起こったような悲劇がなくなりはしないというのが、これまで1万人と面談してきた産業医としての私の意見です。

 この議論を聞いているともっと大切なことが、働き方改革の議論では忘れられているような気がしてなりません。それはパワハラやストレスをなくすという職場のコミュニケーションの見直しです。

◆多くの職場がストレスを抱えている

 私はこれまで産業医として働いてきたなかで、たくさんの組織の人間関係を見てきました。そして、多くの人が職場にストレスを抱えていると、断言できます。

 20年前にはなかった「パワハラ」「ブラック企業」という言葉もすっかり定着し、職場のストレスで自殺してしまったなどという悲しい事件も数多く起きています。

 人間関係がうまくいっているところ、うまくいっていないところ。さらに、優れたリーダーシップのもとチームとしてまとまっている会社もあれば、リーダーシップがなくまとまっていない会社もありました。同じ会社内においても、メンタルヘルス不調者やハラスメント被害者が「出る部門」と「出ない部門」がありました。

 ある部署でメンタルヘルス不調者が年に1人出たとしても、それは普通のことで、「組織の問題である」とは言えません。しかし、もし1つの部署で年に2人以上出たとすると、そういう部署には共通点があると私は産業医として思っています。その共通点とはたいてい以下の2つのうちのどちらかです。

①部門の業務が組織全体の仕事のフローのなかで、なんらかのひずみになっている、もしくは大きな負荷がかかっているという点

②その部署にメンタルヘルスに理解のない、あるいはコミュニケーションに難のある上長がいるという点

 これらがメンタルヘルス不調者を複数出してしまう部署の共通点だと、私は感じています。

 一方、どんなに忙しくても、メンタルヘルス不調者やハラスメント被害者を出さない部署もありました。そのような部署の上長に共通するのが、相手をケアする「ちょっといいですか?」の言葉です。

 この「ちょっといいですか?」にはパターンがあります。「気になる」「聞かれた」「期待したい」の3つです。

1.気になる部下に対する「ちょっといいですか?」

 これは例えば自分の部下が頑張りすぎていて心配なとき、調子が悪そうだと感じるとき、メンタルヘルス不調なのではと気になるときに「ちょっといい?」と声かけをすることです。

 調子が悪そうな部下だけなく、優秀なあまり仕事が集中してしまっている部下に対し、「今は大丈夫そうだけれどこの先、身体を壊さないか心配なので声をかけてみよう」ということもあるかもしれません。

 優秀な人ほど、たくさんの仕事が回ってきて、それをこなしているうちに燃え尽きてしまう……。このようなパターンを心配する上司から部下への「ちょっといいですか」です。

2.変化を期待したい「ちょっといいですか?」

 2つ目は上司がリーダーとして部下や若手社員に対し、声をかけるときなどが挙げられます。相手に行動の変化を求めたいときにかける「ちょっといいですか?」です。

3.部下に聞かれた「ちょっといいですか?」

 そして3つ目は逆に元気のない部下に上司の側が「ちょっといいですか?」と声をかけられるケースなどです。

 部下が深刻な顔をして、あるいは診断書などを持って「ちょっといいですか?」と相談してきたらドキッとするでしょうが、そういうときも焦らずに堂々と対応できる上長の部署は、メンタル不調による休職者は少ないと思います。

 以上のような「ちょっといいですか?」が聞ける(聞かれる)部署は、メンタル不調者やハラスメント被害者が続出するということがありません。なぜから、そこから上手なコミュニケーションにつながるからです。

「ちょっといいですか?」と声をかけたら、元気のない相手を元気いっぱいにしなくてはいけない、悩んでいるなら気の利いたアドバイスをしなくてはいけないなど、深刻に考える必要はありません。そう考えると、なかなか声をかけにくくなってしまいます。

 それよりも、「ちょっといいですか?(私はあなたの変化に気づいていますよ。気にかけていますよ)」という意志を伝えるだけでいいのです。

◆職場のストレスが消えるコミュニケーション

 ビジネス研修などでコミュニケーションというと、よく「何を言った」かよりも「何が伝わった」「何が理解された」が大切ですよという話になります。

 それももちろん大切なのですが、産業医である私が感じる上手なコミュニケーションとは、どちらかというと相手との関係性の強化、相手の主体性の発揮、メンタルヘルス不調の予防という観点に立ったもので、コミュニケーションの中身よりもコミュニケーションの後に残った感情にフォーカスしたものです。

 例えば調子の悪い部下が上司に「ちょっといいですか?」と声をかけてきて、上司が対応した結果、翌日に「あんな、上司に相談するんじゃなかった」というのではなくて「相談しに行ってよかった」と思ってもらえるのが、上手なコミュニケーションです。

 長時間労働は睡眠時間を短くし、そのために心身の健康障害リスクが高くなることはさまざまな医学的、疫学的な調査で証明さてれいます。なので、私は残業がいいことだとは思いません。しかし、同時に、全ての残業が「悪」だとも言い切れないとも考えます。

 繁忙期には残業が発生してしまうことはしょうがない事実ですし、人生の中で一時的に仕事に没頭することが、多くを学び、その後の職業人生の糧になるという意見もあります。

 働き方改革の議論として、働く時間、残業可能な時間の上限を論じるのであれば、ぜひ、同じ時間働いたとしても、心身の不調や過労死につながらない職場環境や職場のストレスが減るようなコミュニケーションについても考えてほしい。そう思わずにはいられない今日この頃でした。

<TEXT/武神健之>

【武神健之】

たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。最新刊『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』が3月18日発売予定。著書に『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある

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最終更新:3/21(火) 16:33
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