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観光列車ブーム、今後の展望は?

3/22(水) 18:30配信

旅行読売

人気の観光列車のこれまでの動き、今後の展望を、世界の鉄道事情にも詳しい同志社大学で交通論を教える青木真美教授に聞いた。

 観光列車が、数年前から全国的なブームとなっている。
 観光列車には大きく分けて二つのカテゴリーがある。一つは、最近のななつ星in九州(JR九州)や春に運行を始める四季島(JR東日本)のような豪華列車である。1988年にフジテレビとJR東日本が共同で走らせた豪華列車「オリエント急行」が引き金になったといわれている。その後、北斗星やカシオペア(JR東日本)、トワイライトエクスプレス(JR西日本)といった寝台列車が次々にデビューした。これらの列車は開通したばかりの青函トンネルを走り抜けた。こうした豪華列車のルーツは、皇室のための御料車だといわれており、豪華な内装や設備、フルコースを出す食堂車などが特徴である。
 もう一つは、沿線の風景を楽しむための展望車やサロンカーを備えた列車であり、1985年に登場した伊豆急行線のリゾート21を先駆とする座席を窓に向けた形は、今やさまざまな地域の観光列車に取り入れられている。
 鉄道が、移動手段ではなく、車両に乗る、車内で過ごす、車窓を眺めるなどのさまざまな楽しみ方ができる観光の目玉となっているのである。
 こうした観光列車は、わが国だけではなく世界中に存在する。豪華列車の流れを汲むものとしては、ギネスブックで「世界一の豪華列車」とされている南アフリカのブルートレインやカナダの西部山岳地帯を走るロッキーマウンテニア号、インドのマハラジャエクスプレス、ペルーの世界遺産マチュピチュ遺跡に向かうハイラム・ビンガム号、オーストラリアを縦断するザ・ガン鉄道、ヨーロッパ大陸を東西に横断するオリエントエクスプレスなどがある。
 また、風光明媚な名所を走るものとしては、スイスの氷河急行やベルニナ急行、ドイツのハルツ狭軌鉄道ブロッケン線、アメリカのカリフォルニア・ゼファー号などで、山々を縫いループ線や非常に高さのある橋などをアクセントにダイナミックな車窓を楽しめる。海岸の風景は、なんといってもノルウェーのフィヨルドを走るベルゲン鉄道・フロム鉄道が有名だ。世界の観光列車は歴史も長く、重厚で豪華な車両を使っているものも多いが、最近のわが国の豪華列車はその中でもひときわ輝いている。

 ブームの火付け役は、やはりJR九州だろう。1987年の国鉄民営・分割化の際には、三島会社といわれた北海道・四国・九州は、本州の3社に比べて、圧倒的に不利な状況にあった。自家用車、高速バス、航空といったさまざまな競争相手の存在や人口減少などが三島会社の経営を圧迫するのは目に見えていた。そのような状況下で、特徴ある車両を開発し、鉄道に乗ること自体を楽しめるような列車を次々とデビューさせた。その立役者は工業デザイナーの水戸岡鋭治氏であり、現在では日本全国で彼の手による列車が走り回っている。
 そうした流れの集大成が、クルーズトレインのななつ星in 九州。スイートルーム3泊4日が約60万円から100万円近くする高額商品にもかかわらず、プラチナチケットとなっている。団塊の世代が定年退職して裕福なシニア層が誕生したり、国の観光立国政策によるインバウンド招致により、海外の富裕層の旅行スタイルが紹介されたりするようになり、高額でも価値のあるものや特別感のあるものへの需要が表に出てきているといえよう。
 JRばかりでなく、私鉄も地方の中小の路線まで、低迷する旅客需要を少しでも回復させるため、全国区の認知度を得るべく、車窓をアピールしたり、グルメ列車を運行したり、奇抜なデザインを売り物にしたりしている。極めつけは、トンネルが多く車窓風景があまり楽しめない、北越急行ほくほく線のシアタートレインゆめぞら号ではないだろうか。トンネルに入ると天井がスクリーンとなって臨場感のある映像が映し出される。不利な状況を生かして観光の呼び水にした好例といえる。
 単なる移動の手段でなく、移動中にエンターテインメントを提供する観光列車は、今後も多角的に発展し、工夫を凝らしたアイデアで我々を楽しませてくれることだろう。

文・青木真美(同志社大学教授)

最終更新:3/22(水) 18:30
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