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漫画原作ドラマ、成否を分けるポイントは? 『タラレバ娘』と『逃げ恥』の違いから考察

3/28(火) 13:30配信

リアルサウンド

 いわゆる“少女漫画”を原作とする映画が連発傾向にある昨今の日本映画業界だが、それは映画のみならず、“テレビドラマ”の世界もまた同様である。対象となる視聴者の年齢層から、こちらは少女漫画よりも、もう少し年齢層の高い“女性向け漫画誌”が、その主な“草刈り場”となっているようだ。たとえば、昨年の10月期に放送され、“恋ダンス”ブームを巻き起こした新垣結衣&星野源主演の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)は、講談社の女性向け漫画誌「Kiss」に掲載された漫画だった(ドラマ終了後に完結し、先頃最終巻となる9巻が発売された)。

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 人気漫画であれば、映像化の注目度は高い。コミックスと連動した多方面のプロモーションも可能だ。さらには、公開(放送)開始前からキャスティングで賛否両論がわき上がるといった話題性も見込めるなど、そのメリットは多々あるのだろう。無論、それ自体は悪いことではない。それは、“小説”以上に“漫画”が多くの人に親しまれているという昨今の状況を、さらには“漫画”の中にこそ、今の時勢を反映した、多様性に富んだ優良なコンテンツが数多くあることを、改めて世に示しているだけなのかもしれないから。

■『東京タラレバ娘』実写ドラマに感じた物足りなさ
 けれども、そのすべてが原作ファンの満足がいく仕上がりだったかというと、そこには大きな疑問が残る。たとえば、今年の1月期に放送され、先週最終回を迎えた吉高由里子主演のドラマ『東京タラレバ娘』(日本テレビ)。『逃げ恥』と同じく「Kiss」に掲載された(現在も連載中)この原作漫画の作者である東村アキコは、20代から30代の女性に圧倒的な支持を誇る人気漫画家である。累計100万部を売り上げた育児エッセイ漫画『ママはテンパリスト』、すでにアニメ化&映画化された『海月姫』など代表作も数多い。そんな彼女の持ち味は、歯に衣着せぬ直接的な発言の応酬が生み出すスラップスティックな“ギャグ”にある。ときに、読者から悲鳴が上がるほど痛烈&痛快なギャグの連打。それこそが、東村漫画の何よりの持ち味であり、最大の魅力なのだ。

 未婚であることに焦りを感じながら、日々“女子会”を繰り広げては“タラレバ”の話をして盛り上がるアラサー女子3人の恋の行方を描いた漫画『東京タラレバ娘』も、その基調となるトーンは“ギャグ”だった。もちろん、ドラマ版『東京タラレバ娘』も、吉高由里子演じる主人公が酔うと幻視する、鱈の白子をモチーフとした“タラちゃん”とレバテキをモチーフとした“レバちゃん”(横に必ず炙る用の七輪つき)をCGで登場させるなど、その荒唐無稽な設定は踏襲していた。しかし、回を追うごとに、そのギャグとしてのトーンは薄れ、最終的には「幸せの形は人それぞれ」という、何やら既視感のある“独身女性たちの群像劇”的なドラマに落ち着いたように思うのは、恐らく筆者だけではなかっただろう。

 無論、平均視聴率11.39%(ビデオリサーチ調べ、関東地区。以下同)という、同時期の民放の連続ドラマとしては、木村拓哉主演の『A LIFE』(TBS)に次ぐ視聴率を弾き出した本作は、ある意味“成功した”ドラマだ。しかし、原作漫画のファンであればあるほど、今回のドラマには物足りなさが残ったのではないだろうか。そこで思うのは、漫画家自身の「テイスト」が強いものは、なかなか映像化が難しい、あるいはその翻案に際して、ひと工夫が必要であるということだ。「モチーフ」や「プロット」ではなく、その「テイスト」こそが、何よりも魅力的な漫画。とりわけ、『東京タラレバ娘』は、その傾向が強かったように思う。

■「モチーフ」や「プロット」が魅力的な漫画とは?
 一方、その「テイスト」以上に、「モチーフ」や「プロット」が魅力的な漫画も数多い。というか、むしろこちらのパターンのほうが、ドラマとしては秀作が多いような気がする。たとえば、冒頭に挙げた『逃げるは恥だが役に立つ』。その原作者である海野つなみは、キャリア的にはベテランにあたるとはいえ、その「テイスト」は必ずしも周知されておらず、むしろ“契約結婚”という「モチーフ」と、そこから浮かび上がる「テーマ」そのものが、多くの人の支持を得た理由だったように思う(実際、『逃げ恥』が彼女の代表作となった)。視聴率的には必ずしも満足のいく数字ではなかったようだが、ドラマ好きのあいだで評価の高かった黒木華主演の『重版出来!』(松田奈緒子/小学館『月刊!スピリッツ』掲載)も、原作者の「テイスト」というよりも、むしろ“漫画編集者”という「モチーフ」の面白さが、多くの視聴者の興味を惹いたのではないか。もちろん、両作品の脚本を野木亜紀子が担当していることは、見落とせない事実であるけれど。

■『あなたのことはそれほど』はどのようにドラマ化されるのか
 原作者の「テイスト」(「作家性」と言い換えてもいいだろう」)か、もしくは「モチーフ」(あるいは「プロット」)か……その意味で、間もなく始まる4月期のドラマで、筆者が個人的に注目しているのは、リアルサウンド映画部でも大きな反響を呼んだドラマ『カルテット』のあとを受けてスタートする、『あなたのことはそれほど』(4月18日(火)22時~/TBS)である。その原作者である“いくえみ綾(りょう)”は、少女漫画読みのあいだでは知らぬ者がいないほど熱烈なファンを持つ、当代きっての人気漫画家だ。その代表作『潔く柔く』は、長澤まさみ主演で映画化。近作『プリンシパル』も、黒島結菜主演で映画化されることが決定している(2018年公開予定)。

 実に30年を超えるキャリアを持ついくえみにとって、意外にも初の連続ドラマ化作品となる『あなたのことはそれほど』(祥伝社「FEEL YOUNG」掲載)。本作が描くのは、二組の夫婦の混線するマリッジライフと、四者四様に揺れる恋愛感情だ。その「プロット」だけ取ってみれば、ありがちなジャンルに括られてしまいそうな本作を、人気漫画たらしめている大きな理由のひとつに、漫画家としての彼女が持つ「テイスト」がある。端的に言えば、繊細な心理描写と秀逸なモノローグ。「登場人物の誰ひとりとして共感できない」という声が上がりながらも、その行く末に熱心な関心を寄せている人が多いのは、そんな彼女の「テイスト」のたまものと言えるだろう。

 すでに確固たる「テイスト」を持ち、読者の支持も高い、いくえみ作品。それを果たして今回のドラマ版は、どのように映像化していくだろうか。その「テイスト」を前面に押し出すのか。あるいは、その「モチーフ」そのものから、実写ドラマならではの現代的な「テーマ」を抽出していくのだろうか。ちなみに、今回のドラマ版の脚本を担当するのは、同枠で放送された深田恭子主演『ダメな私に恋してください』(中原アヤ/集英社「YOU」掲載)など、漫画原作ドラマの経験もある吉澤智子。演出陣には、『カルテット』にも参加していた金子文紀が名を連ねている。本作で、これまでとは異なる役柄で新境地に挑むことになるであろう波瑠と東出昌大の共演も含めて、その仕上がりに注目したい。

※吉澤智子の「吉」は「つちよし」が正式表記
※『あなたのことはそれほど』の情報について一部誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

麦倉正樹

最終更新:3/28(火) 14:58
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