ここから本文です

脅威増す北朝鮮のロケット技術――「新型ロケット・エンジン」の実力を読み解く

3/29(水) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 北朝鮮は3月19日、国営メディアを通じて「新型の大出力ロケット・エンジンの地上噴射実験に成功した」と発表した。

 実験は現地時間18日の朝に、金正恩・朝鮮労働党委員長の立ち会いのもとで行われ、すべての実験目標を達成し、性能や信頼性が実証されたとしている。

 北朝鮮が「新型ロケット・エンジンの実験を行った」と発表したのは、2016年4月と9月に続いて3回目となるが、今回実験されたエンジンは、昨年9月のエンジンとほぼ同等ながら、いくつかの異なる点もある。そしてこの一連の実験の様子からは、国際社会からの長年の非難と懸念にもかかわらず、北朝鮮のロケット技術が着実に進歩していることが伺える。

◆昨年4月、9月に続く、3回目の新型エンジン燃焼実験

 2016年4月と9月、そして今回行われた「新型エンジン」の実験のうち、まず2016年4月に実験が行われたエンジンは、その形状から、「ムスダン」ミサイルのエンジンを2基、束ねたものであると推察されている。

 ムスダンは射程2500~3000kmほどの中距離弾道ミサイルとされるが、エンジンを2基にすれば、より重いものを飛ばすことができ、さらにその上に第2段、第3段のロケットを積めば、より遠くまで飛ばすことができる。

 北朝鮮はこのエンジンを、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)のためのエンジン」と称している。現在北朝鮮は、「KN-08」と「KN-14」の2種類のICBMを開発しているとされ、また双方にムスダンの技術が使われていると推察されている。したがって、このとき試験されたのは、このKN-08、もしくはKN-14に使用するためのエンジンだったのでは、という見方が強い。

 一方、2016年9月に実験されたエンジンは多くの謎を呼んだ。北朝鮮が「推力80トン級エンジン」と称するこのエンジンは、明らかにムスダンのエンジンとも、あるいはスカッドなど旧式のミサイルのエンジンとも形状が異なり、少なくとも北朝鮮にとって”新型”のエンジンであることは間違いなかった。

◆昨年9月に登場した「推力80トン級エンジン」

 2016年9月に実験された「推力80トン級エンジン」は、写真から推測するに、かつてソ連で開発された「RD-250」というエンジン、あるいはそれを基にしたエンジンである可能性が高い。

 まずエンジンに推進剤を送り込むための強力なポンプ(ターボ・ポンプ)が、エンジンの中央付近に横向きで取り付けられている。他の多くのエンジンは縦向きに取り付けることが多いため、非常に目立つ特徴となっている。このポンプを横置きにする形式は、1950~60年ごろの、ソ連のロケット科学者ヴァレンティン・グルシュコらが開発したエンジンの特徴でもある。

 また、エンジンの燃焼ガスの色はやや透明がかったオレンジ色をしており、推進剤は非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素の組み合わせを使用していると考えられる。

 以上の点、またエンジンの推定される寸法なども含め、このエンジンは、ソ連製のRD-250と合致する点が多い。

 ただ、RD-250と異なる点もある。RD-250は、ターボ・ポンプは1基のみだが、推進剤を燃やして推力を生み出す燃焼器は2基ある。つまり見た目は、エンジンが2基並んでいるような形をしている。

 しかしこの北朝鮮のエンジンは、異なる角度から撮影された写真を確認しても、燃焼器は1基のみしか見えない。ちなみにRD-250は、燃焼器が2基の状態で約80トンの推力を生み出す。したがって1基しかない場合、その半分の約40トンの推力しか出せない。

 これが完成形なのか、それとも試験のためにわざと減らしているのかは不明である。いずれにしても、北朝鮮のいう「推力80トン級エンジン」というのは、文字どおり”話半分”に聞いておくべきであろう。

◆今回のエンジンと昨年9月のエンジンとの違い

 そして今回、3月18日に試験されたエンジンは、基本的には昨年9月に試験された「燃焼器が1基のRD-250らしきエンジン」に近い。ターボ・ポンプは、取り付け位置が少し異なるものの、形状はほぼ同じで、エンジンの噴射ガスの色、勢いなども同じであるように見える。

 ただ大きく異なるのは、エンジンの周囲に、4基の小型のエンジンが追加されている点である。

 こうした、メインのエンジンに付随する複数の小型エンジンは「ヴァーニア・エンジン」と呼ばれ、メイン・エンジンだけでは足りない推力を補ったり、また多くの場合、このヴァーニアが細かく動いてロケットの姿勢や飛行方向を変える、ステアリングのような役割も担っている。

 さらに細かく見ると、ターボ・ポンプを動かしたガスを捨てるための排気管が、昨年9月のエンジンではポンプのすぐ下で途切れていたのに対して、今回のはエンジンの下部まで長く伸び、さらにラッパのような形状になっていることがわかる。他のエンジンの場合、こうした排気管は大気の薄い上空から宇宙空間で動くエンジンに採用されることが多い。

 また、ヴァーニアの取り付け位置から見て、燃焼器が2基取り付けられるほどのスペースがあるようには見えない。そのため、このエンジンはこれが完成形であり、昨年9月のエンジンは燃焼器を2基に増やすなどしてロケットの第1段向けに、そしてこのエンジンは、それほどパワーが必要ない第2段向けとして開発しているのかもしれない。

◆このエンジンで何が可能になるのか

 もしこのエンジンが完成し、ロケットに組み込まれた場合、どれほどの性能をもつことになるのだろうか。

 たとえばソ連は1960年代に、RD-250エンジンを使った「R-36」というICBMを開発した。R-36は4トンから6トンの弾頭を、1万~1万5000kmまで飛ばす性能をもつ、いわゆる「重ICBM」に分類されるミサイルである。

 北朝鮮は現在、核兵器をおおむね1トンにまで小型化するだけの技術をもっているとされるが、もしR-36と同等の性能をもつミサイルが開発できれば、それより多少重くとも搭載可能になるし、それが事実なら複数発の搭載が可能ということになる。

 またソ連では、R-36を改造して、人工衛星を打ち上げる宇宙ロケットの「ツィクローン」も開発された。ツィクローンは地球低軌道に約3トンの打ち上げ能力をもつ、中型のロケットである。

 北朝鮮は昨年9月と今回試験したエンジンを「静止衛星の打ち上げ用」と称しているが、もしツィクローンと同等の性能をもつロケットが開発できれば、その言葉も事実になろう。

 もちろん、北朝鮮の現在の技術で、R-36やツィクローン並みのロケットを造れるかどうかは難しいところだろう。そもそもICBMとしてはKN-08があるため、その開発を差し置いて、さらに大型で複雑なミサイルの開発に臨むのは合理的ではない。

 しかし、昨年9月と今回3月に実験されたこのエンジンは、これまで北朝鮮が開発、製造したエンジンよりも高い性能をもつことは間違いない。そのため、R-36やツィクローン並みとまではいかなくても、従来開発されたものを超える性能をもつ、新しいミサイルやロケットが登場する可能性は高い。

◆脅威増す北朝鮮のロケット技術

 ソ連のRD-250が、ICBMのR-36と宇宙ロケットのツィクローンの両方で使われたように、北朝鮮が開発をすすめるこのエンジンも、どちらの用途でも使うことは可能である。

 ただ、いずれにせよ、北朝鮮は国連安保理決議により、弾道ミサイルの開発に関連するあらゆる活動を禁止されている。この「弾道ミサイルの開発に関連する」という意味の中には、もちろん宇宙ロケットの開発も含まれており、しがたってこのエンジンがどのように使われるにせよ、許されるものではない。

 しかし、国際社会からの長年の非難と懸念は残念ながら功を奏さず、昨年4月から続く一連の「新型エンジン」の実験からは、北朝鮮のロケット技術が着実な進歩を続けていることが伺える。

 たとえば従来、北朝鮮はミサイルの推進剤にケロシンと赤煙硝酸という、性能はあまり良くないものの、入手性や取り扱い性に優れたものを使っていた。これはもともとソ連の「スカッド」ミサイルで使われていたもので、北朝鮮はその技術をそのまま受け継ぎ、そして改良し「ノドン」や「テポドン」を開発した。

 しかし、昨年初めて発射に成功したムスダンや、昨年4月に実験が行われたムスダンのものを2基束ねたものと思われる新型エンジン、そして昨年9月と今回3月に実験された新型エンジンは、ケロシンと赤煙硝酸ではなく、扱いはやや難しくなるものの、性能向上が見込める非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素を使っていると推測される。

 また、エンジンの規模も推力も、ノドンやテポドンのものより向上しており、さらにムスダンのエンジンに至っては、構造が複雑なものの高い効率が見込める仕組みを採用している(もっとも、これまで何度も失敗を繰り返しているため、まだその技術を完全に習得したわけではないようである)。

 弾道ミサイル技術も人工衛星を打ち上げるロケット技術も共通している部分は多く、たとえこのエンジンが、純粋に人工衛星の打ち上げを目指したロケットに使うものであったとしても、間接的に(あるいは直接的に)、ミサイル技術の向上と、そして日本や米国に対する脅威につながることは間違いない。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●作家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト:http://kosmograd.info/

Twitter:@Kosmograd_Info

【参考】

・金正恩元帥が新しく開発した朝鮮式の大出力エンジンの地上噴出実験を視察(http://www.kcna.kp/kcna.user.special.getArticlePage.kcmsf)

・A New Engine for a New Space Launch Vehicle? | 38 North: Informed Analysis of North Korea(http://38north.org/2017/03/jschilling032017/)

・R-27 / SS-N-6 SERB(http://www.globalsecurity.org/wmd/world/russia/r-27-specs.htm)

・KN-08 / Hwasong 13 | Missile Threat(https://missilethreat.csis.org/missile/kn-08/)

・Sutton, George P. History of Liquid Propellant Rocket Engines. American Institute of Aeronautics and Astronautics, 2006, 911p.

ハーバー・ビジネス・オンライン