ここから本文です

潜入!タイの「麻薬更生寺」に行ってみた!

4/1(土) 9:50配信

HARBOR BUSINESS Online

 タイ中央部の端にあるサラブリ県。日本では栃木県や群馬県に当たるこの県にはタイ人に有名な寺がある。麻薬中毒者を受け入れて更生させる「タムグラボーク寺」だ。

⇒【画像】施設内の様子

 この寺院は1957年に僧院として始まった。近隣で修行を終えた僧侶ジャルーン・パーンジャンとジャムルーン・パーンジャンがここで1970年から麻薬中毒患者を受け入れ始め、更生させる施設を設立した。5年後の1975年にその活動が評価され、アジアのノーベル賞とも呼ばれるフィリピンのマグサイサイ賞を受賞。世界にその名を知られるようになった。そして、2012年に僧院から寺院となることが認められた。

 現在、この寺では4月のタイ旧正月の期間を除き、常時麻薬中毒患者を受け入れている。

 それはタイ人にとどまらない。外国人も同時に懐広く受け入れている。取材時にも白人男性がふたり、白人女性がひとりいた。また、ここで治療を受けた白人の何人かは寺院に残り、ボランティアとして施設の裏方となっている。白人女性のひとりは尼僧にもなっていた。

 ここで暮らし、麻薬中毒患者の面倒を看る僧侶は言う。

「私たちは仏教の教えの元、困窮している人々を受け入れています。ここに来るにはなにもいりません。しかし、自分の意志で今の状況から抜け出したいと強く決心している意志だけは必要です」

 ここではタイ伝統医学に基づいた治療法と薬を用意しているが、最終的には個人個人が自分の意志でここに来て、自分から今の自分を捨てて生まれ変わることを望んでいなければならないのだ。

◆薬抜きの薬草汁は「二度と飲みたくない」

 この寺院では麻薬患者だけでなく、アルコール依存症やタバコ依存症患者も受け入れている。しかし、麻薬患者はその常習性の強さから隔離された宿舎で過ごし、自由に敷地から出ることも許されない。

 また、僧侶はなにもいらないと言ったが、実際には食費として1日200バーツを目安に滞在日数分持参し、最初に事務所に預ける。それ以外は費用は一切かからない。国籍も地位も名誉も関係ない。やめたいという自発的な意志があれば受け入れてもらえる。

 ここでの生活は最低15日間になる。最初の5日間と最後の日は午前と午後に薬草を煮詰めた汁を飲まされ、体に残る毒を吐き出させる。薬草は数十種類にもおよび、飲むと胃の中がぐるぐるとしてすべて吐き出さないと頭がくらくらして数時間は寝込む羽目になる。

「最初はうまく吐き出せないのですが、慣れれば毒が吐き出されて体が浄化していくような気持ちです」と、滞在10日目の中毒患者が言った。ただ、飲めと言われるともう嫌なのだとも苦笑い。取材した日、ちょうどその薬を飲用するのが最後の日だというアメリカ人男性は「もうやらなくていいのが最高に嬉しい」と喜んでいた。

◆最年少滞在者はなんと13歳!

 ここで治療を受ける人は日々およそ40人前後になる。年間で平均およそ1000人弱。毎日1~3人が治療を終えて家族のもとに戻り、また同じ数がやってくる。

 取材時は42人ほどおり、最高齢者はおそらく40代くらい。夫婦で来ている者もいた。夫婦そろってアンフェタミン系の覚せい剤「ヤーバー」から抜け出せず、子どもを想ってふたりでやってくることを決心した。子どもは親に預けて来たのだという。

 そして、取材時に最も若かったのは13歳の少年だった。中学1年生だ。この少年は学校の教師にここのことを教えられた。麻薬遊びにハマる友人も誘ったが一笑に付される。だから、ひとりで来たのだという。

「小学校のときに友だちに大麻やヤーバーを勧められて始めました」

 クスリを買うカネは、自分で買ったクスリを転売して次の資金にした。これはこの少年に限らず、ほとんどの患者がそうしていた。クスリを手に入れるために最初は友人らにカネを借り、返せなくなって人間関係が壊れ、善悪の判断もつかなくなって、最後に密売の片棒を担いでいく。

 タイでは覚せい剤の密売は死刑もありうる重罪だ。この施設にいる彼らはみんな、そんな強いクスリへの欲求に最後の抵抗を示したのだ。ある意味ではここにいる患者は幸せだと僧侶が言う。

「妻や夫、家族や友人。諭してくれる大切な人がいて、失ってしまうものの大きさに気づけた人たちです。だからこそ、強く変わりたいと思い、こうしてここにいるのです」

 ほかの患者も大なり小なり、様々なドラマを抱えていた。覚せい剤、大麻、コカイン、ヘロイン。いろいろなものに手を出している。共通しているのは「やめたい」という強い意志。運よく、大切な人たちが周囲にいた。30代半ばの背の高いタイ人男性も言った。

「CMプランナーをしていてカネがあった。でも、親父を傷つけた。だからやめようと決めた。もしオレがここから出てまたクスリに手を出したら、家族に対する誓いも、今オレがこうして話していることもすべてが嘘になる。もう手は出さない。もう嘘は吐かないんだ」

 大学も出て、夢の仕事も手に入れた。それにも関わらず、すべてを捨てるようなことをして、父親を失望させた。彼は悔い、変わろうとしていた。

◆「この寺で更生できるのは一生に一度だけ」

 ここでは朝5時には起床し、食事の時間、クスリの時間、掃除など寺のために働く時間が決まっていて、夕方には宿舎の外から鍵を閉められて、21時にはみんなで雑魚寝する。

 最初は禁断症状や規則的な生活がきつく、暴れる者もいるようだが、目的を共有する仲間と寝食を共にし、徐々に連帯感が生まれる。よりクスリから抜け出したい思いが強くなる。

 しかし、戻った先で悪友にそそのかされることもあって、完全にクスリと断ち切れるとは限らない。僧侶は話す。

「この寺で更生できるのは人生で一度だけ。厳しいようですが、一度変わりたいという意志を示したわけですから二度目はないのです。残念ながら100%の人が立ち直れるとは限りません。ここを出るときは生まれ変わっていたとしても、やはり生活の環境がつきまといます」

 この寺院を訪れてまず驚くのは、廃人と化した患者たちがいるのではないかということが見事に覆されることだ。にこやかに挨拶をされ、外国人記者に興味を示す。とても純粋な人たちに見える。タイ式漢方薬で体の毒を吐かされるとき、彼らはみんなでこぶしをぶつけ合い鼓舞し合う。先輩は新しく入ってきた者たちにうまく吐くにはどうするかを教え、療養所のシステムを教える。外から来た我々も彼らの連帯感を肌で感じた。

 だからこそ、ここにいる間は誰もがクスリをやめられると信じている。そして確信すらしている。筆者にもそう感じるものがあった。

 ここの治療を受け、麻薬から抜け出した者はときに手土産を持って再び施設を訪れる。

 この寺院の療養所はすべて寄付で賄われているので、卒業した人も感謝を込めて再訪し喜捨する。ただ、失敗した者は二度とここを訪れない。成功例しか目の前に見えないため、療養中にかつての生活の場に戻ったときに本当に気をつけなければならないことがわからない。療養する彼らの本当の戦いはここにはない。この先にあるのだ。

 筆者が取材を終えて立ち去るとき、ちょうどその療養所を去る20代の若者がいた。偶然、筆者の自宅から数キロのところに住んでいるとのことだった。父親が迎えに来るのだと子どものように目を輝かせていた。そんな笑顔を見ると、ちゃんとやり直してほしいと心から思う。SNSのアカウントを教えてくれというので教えた。3か月が過ぎた今もまだ連絡はない。果たしてちゃんとまっとうに生きられているだろうか。本当に心配である。

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM) 協力/タムグラボーク寺>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:4/20(木) 12:29
HARBOR BUSINESS Online