ここから本文です

ついに「ロケット再使用打ち上げ」に成功!イーロン・マスク悲願達成の意義と可能性

4/4(火) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 宇宙へ飛んだロケットが、垂直に着陸し、また飛んで、そして帰ってくる――。そんなSF映画のような光景が、ついに現実のものになった。

 実業家イーロン・マスク氏が率いる宇宙企業「スペースX」は3月31日7時27分(日本時間)、通信衛星を載せた「ファルコン9」ロケットを打ち上げた。

 このロケットの機体は昨年4月、国際宇宙ステーションに補給物資を運ぶために一度打ち上げられたもので、その後回収され、整備を経て、この日ふたたび宇宙へ打ち上げられたのである。

 機体の再使用、つまり“中古”の機体にもかかわらず、ロケットは順調に飛行し、打ち上げは成功。さらにふたたび回収にも成功し、宇宙開発の歴史に新たな一ページを刻んだ。

 スペースXがロケットの再使用を行う背景には、ロケットの打ち上げコストを削減するという狙いがある。

 現在のロケットは、打ち上げごとに新しい機体を造っては捨てており、1回の打ち上げあたりのコストは100億円ほどにもなる。しかしスペースXは、ロケットを旅客機のように再使用できるようにすることで、このコストを100分の1、つまり約1億円で宇宙に人工衛星や宇宙船を飛ばせるようになると考えている。

 今回の成功で、その可能性に向けた扉は開かれた。しかし、大事なのはまだこれからである。

◆旅客機のようなロケットを目指して

「ここにたどり着くまでに、15年もの年月がかかりました。とても長く、険しい道のりでした」

 3月31日、ロケットの再使用打ち上げに成功し、さらに再回収にも成功した直後、スペースXのイーロン・マスク氏はこのように、これまでの苦労を振り返った。

 スペースXが立ち上げられたのは2002年のこと。ロケットの再使用に向けた研究・開発が本格化したのは2011年からだったが、マスク氏にとっては設立以来、15年にわたって追い続けてきた目標のひとつだった。

 マスク氏はスペースXを立ち上げた目的を、人々が宇宙で生活できるようにするためと語る。人類の宇宙進出が実現すれば、人類の生活圏が広がれば経済は発展し、さまざまな惑星を探検することもできる。そして、もし地球が滅びても、人類という種が生きていくための保険にもなる。

 しかし、その目的をさまたげる大きな壁が存在した。ロケットのコスト、価格である。標準的な大きさ、重さの人工衛星や宇宙船を打ち上げられる大型ロケットは、1機を製造するのにおおよそ100億円前後のコストがかかっており、そこにいくらかを足した金額が実際の販売価格となる。スペースXのファルコン9は、使い捨ての場合でも他のロケットより安いものの、それでも1機あたり70億円はする。

 しかもロケットは打ち上げごとに使い捨てられるため、1回の打ち上げごとに、同じだけのコスト、価格がかかる。これでは到底、人類が宇宙に進出することはできない。

 そこでスペースXが挑んだのが再使用だった。マスク氏はロケットの再使用について語る際、よく旅客機を例に挙げる。ある空港から空港まで飛行した旅客機は、乗客や荷物を降ろしたのち、簡単なメンテナンスを経て、ふたたび新しい乗客や荷物を乗せて離陸する。間違っても飛行ごとに機体を使い捨てたりはしない。

 だからロケットも同じように、同じ機体をなんども使いまわせるようにすれば、コストは下がり、価格も下げられるはずなのだ、と。

◆「スペース・シャトルの轍は踏まない」

 ロケットを再使用して低コスト化、というアイディアは、別に新しいものではない。宇宙開発の黎明期にあたる1960年代から考えられていたし、1981年には初の再使用ロケットである、有名な「スペース・シャトル」が開発された。

 しかし、再使用を目指したロケットの多くは開発が頓挫し、スペース・シャトルも2011年に引退した。実はスペース・シャトルは当初、1回あたりの打ち上げコスト30億円という目標を掲げていたものの、結局は500~800億円ほどがかかり、再使用ロケットとしては失敗に終わった(もっとも、スペース・シャトルで多くの宇宙飛行士が飛び、さまざまな宇宙実験や国際宇宙ステーションの建設が行われた実績は、成功と言って良いだろう)。

 マスク氏やスペースXは、スペース・シャトルの失敗は繰り返さないと語る。

 たとえばスペース・シャトルは重く、複雑なシステムだったが、ファルコン9は極力シンプルに造られている。実際に帰還し、再使用される第1段機体は、宇宙まで飛ぶとはいっても、高度はともかくスピードはそれほど出ておらず、せいぜい宇宙に手が触れた、という程度である。だから帰ってくるのは、スペース・シャトルと比べるとそれほど大変なことではない。

 その一方、ファルコン9は「垂直離着陸」という難しい技術に挑んでいる。スペース・シャトルは大気圏を滑空して滑走路に着陸するために大きな翼をもっている。しかし翼は打ち上げ時には単なる重りでしかない上に、長い滑走路も必要になる。回収にはもうひとつ、パラシュートを使うという方法もあるが、これもパラシュートが重りになる上に、風で流されると着陸場所がずれるし、着陸時に速度をゼロにできないため、衝撃も大きい。

 そこでファルコン9は、エンジンを逆噴射させながら着陸する方法を選んだ。これは技術的には難しいものの、滑走路は不要で、しかもヘリコプターのように狙った場所に正確に、そしてゆるやかに着陸できる。逆噴射に使うエンジンは、そもそも打ち上げ時にも使うものなので、それほど無駄な負担にもならない。

 スペースXはロケットの再使用を進めるにあたって、スペース・シャトルをはじめとする過去の”失敗例”を相当に研究したようで、スペース・シャトルのように、再使用するために複雑なシステムになってしまったという轍を踏まないよう、ファルコン9の再使用は、仕組みは軽くシンプルに、けれどもそのために必要な技術は、たとえ難しくても挑む、というはっきりとした方向性をもっている。

◆初の再使用成功、価格は10%オフか

 スペースXはまず、地上から高度数百mあたりまで上昇し、そのまま降下して着陸する簡単な実験機を造り、飛行試験を繰り返した。

 その試験が一定の成果を出すと、続いてファルコン9が実際に人工衛星を打ち上げる機会を利用して、着陸や回収のための試験を繰り返した。つまり、実際には回収の必要がない打ち上げで、回収のための装備をつけて打ち上げ、試験したのである。

 そして2015年12月、初めてとなる着陸と回収に成功。その後もたびたび失敗はあったものの、現在までに合計8機の回収に成功している。

 今回の打ち上げに使われたのは、この8機のうち、昨年4月に回収した機体だった。機体は回収後、点検や整備を経て、今年1月にはエンジンを動かす試験に成功するなどし、ふたたびの打ち上げに向けた準備が行われた。

 そして3月31日7時27分(日本時間)、この機体は2度目の宇宙へ向けて発射。順調に飛行して第2段を分離した。そして機体を制御しながら降下し、大西洋上で待ち構えていた船に舞い降り、ふたたびの回収もなしとげた。

 ロケットの再使用打ち上げが成功したのは、スペース・シャトル以来約6年ぶりで、またファルコン9のように垂直に離着陸するようなロケットに限れば、世界初の快挙である。また今回、再回収にも成功したことで、今後3度目の打ち上げを行う可能性もあろう。

 気になるのは今回の打ち上げにかかった費用だが、スペースXも、打ち上げを依頼した企業であるSESも、その金額については明らかにしていない。ただ、スペースXは以前に「第1段機体を再使用する打ち上げの場合、約10%の割引価格を提示している」と明らかにしており、今回もそれに近い数字だったか、あるいは初の再使用ということで、もう少し割引があった可能性もある。

◆革命のスタート・ラインに立ったスペースX

 今回の再使用打ち上げの成功は、たしかに宇宙開発や科学・技術の歴史にとっては大きな出来事ではあるものの、本来の目的である、宇宙輸送に革命を起こすための、あるいは人類の宇宙進出を実現させるための再使用ロケットという点で見れば、ようやくその挑戦が始まったにすぎない。

 前述のように、第1段を再使用する場合の価格は10%引きであり、当初のコスト100分の1という目標からするとまだ高い。スペースXは最大で30%引きにできるとも考えているようだが、それでもまだ追いつかない。

 実際のところ、コスト100分の1という言葉は、ある種のセールス・トークと捉えておくべきだろう。スペースXは、さらなるコストダウンを目指して、第1段以外の部品の回収や再使用も考えているが、それでも100分の1を実現するにはまだ足らず、機体のすべてを1000回、それも大掛かりな部品交換などをせずに再使用できるようになって、初めてコスト100分の1が見えてくる。

 もちろん、たとえ100分の1にならずとも、3分の1でも2分の1でも安くなれば、宇宙業界にとって革命になることは間違いない。しかし「もうすぐ私たちが宇宙に行ける時代が来る」とまで考えるのは、やや気が早い(もちろん諦めるのもまだ早いが)。

◆信頼性と革新、二兎を追うスペースX

 もうひとつの問題は、再使用云々以前の、ファルコン9の信頼性である。ファルコン9はすべてが“新品”だった過去の打ち上げでも、2度失敗しており、成功率は約94%とあまり高いほうではない。さらにその失敗の影響で打ち上げが何か月も止まり、打ち上げスケジュールはずるずると遅れ、現在も回復はできていない。見切りをつけて予約をキャンセルし、別のロケットに発注し直した企業もある。

 ファルコン9が安価になるのは良いことだが、ただしそこには「信頼性を損なわずに」という条件がつく。いくら安くても、失敗する確率が他より高いロケットに、高価な衛星の打ち上げを委ねたがる企業はまずない。

 つまりこれからスペースXは、ファルコン9を高い頻度で打ち上げ続け、そして成功し続け、信頼性を回復させ、高いまま維持していかなければならない。そして同時に、その中に何度か再使用打ち上げを挟み、中古のロケットでも信頼性に問題ないということも示していかなければならない。さらなるコストダウンへの取り組みも、こうした信頼性を回復、維持し続けるための努力の上で進める必要がある。

 スペースXにとって、これからロケットの再使用打ち上げを追求していくことは、これまでと同じか、それ以上に茨の道になるだろう。

 しかし、コスト100分の1か、それに近い金額にならなければ、人類の宇宙進出が進まないのは事実であり、ロケットの再使用は、その解決策のひとつであることも間違いない。そして彼らは承知の上で、自ら茨の道を進んでいくことを選んだ。

 スペースXと、彼らに続く他の企業の成功を願い、その先に宇宙旅行の夢を見ることは、そんなに悪い賭けではない。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●作家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info

【参考】

・SES-10 Mission(http://www.spacex.com/sites/spacex/files/finalses10presskit.pdf)

・Reusability: The Key to Making Human Life Multi-Planetary | SpaceX(http://www.spacex.com/news/2013/03/31/reusability-key-making-human-life-multi-planetary)

・Background on Tonight’s Launch | SpaceX(http://www.spacex.com/news/2015/12/21/background-tonights-launch)

・SpaceX says reusable stage could cut prices 30 percent, plans November Falcon Heavy debut – SpaceNews.com(http://spacenews.com/spacex-says-reusable-stage-could-cut-prices-by-30-plans-first-falcon-heavy-in-november/)

・SpaceX to launch Falcon Heavy with two “flight-proven” boosters this year – SpaceNews.com(http://spacenews.com/spacex-to-launch-falcon-heavy-with-two-flight-proven-boosters-this-year/)

ハーバー・ビジネス・オンライン