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元女性トラック運転手の筆者が主張。長距離ドライバーにふりかかる理不尽な現実

4/5(水) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 筆者は訳あって、10tトラックの免許を持っている。

 そして20代前半から数年、北は甲信越から、南は関西方面まで、自動車製造で扱う金型を運んでいた。平均で1日500キロ。繁忙期では、800キロを走行する、中・長距離ドライバーだった。

 そして意外にも、当時はモテ期の絶頂だった。田舎で信号待ちをしていると、よく声を掛けられた。「(ナンバープレートを見て)あんた、一人でこんなとこまで来たんかえ。こんなデカい車乗って」。

 当時はまだまだ女性のトラックドライバーが少なく、さらに平ボディ(荷台が箱になっていないトラック)での長距離ともなると、激レアキャラだった。ゆえに、モテた。50代以上の田舎、工場、トラックのおっちゃん限定だが。

 特に思い出深いのが、サービスエリアでのひと時である。日もまだ昇らぬ明け方5時ごろ。同じ時間、同じサービスエリアに行くと、いつもと同じ50~60代のおっちゃんら数名が、日替わりでよく筆者に声を掛けてくれた。

「あいきちゃん(筆者の名前)、芋食え、芋」

「天童よしみのカセット貸してやる」

「俺の息子の嫁にならんか」

 そのうち一人には、前歯が全部ない上に饒舌だったゆえ、何を言っているのか正直よく分からなかった。

 あれから10年。トラックドライバーの過酷な労働状況は、改善どころか、年々深刻さを増している。

◆ドライバーの過酷過ぎる労働条件

 トラックによる貨物輸送は、日本国内の物流の約9割を占める。その他の鉄道、航空輸送手段でも、末端輸送は結局のところトラックが大半を担っており、まさしく日本経済の血液として、日々隅々に「栄養」を行き届けている。当然、そのトラックを運転しているのは人間だ。

 先日、ヤマト運輸が宅配運賃の値上げを発表した。

 全面値上げは、消費税の増税時を除けば27年ぶりのことだ。この主な要因は、ドライバーの過重労働である。

 大手インターネット販売会社の普及により、ドライバーがサービス残業を強いられている現状。これを打開するには、やはり値上げは避けられなかったのだろう。それでも大手はまだいいほうで、運送業界には多くの下請けがおり、そのさらに下の孫請けは第7次まで存在するとも言われている。下にいけばいくほど運賃はピンハネされ、末端の業者は、高い燃料と高速料金を支払えば、もう何も残らない。

 彼らトラックドライバーには低学歴の男性が多く、腕一本で家族を養うには都合がいい。が、いいのは都合だけで、仕事は3K(きつい、汚い、危険)。過酷を極める。

 彼らの仕事の中で一番重要なのは、「時間厳守」だ。たとえ途中、渋滞があろうが台風が来ようが、取引先が指定した時刻は守らなければならない。延着(指定の時間に遅刻すること)は、ドライバーにとって最も恥ずべきことで、会社にも大きなダメージとなる。時には契約解除、損害賠償を請求されることも少なくない。

◆ドライバーのおっちゃんに歯がなかった理由

 なのにだ。2004年には大型自動車にスピードリミッターの装着が義務付けられ、最大時速が90キロまでしか出せなくなった。大型車が追い越し車線でノロノロと走っているのは、そう走りたくて走っているのではない。「走れない」のである。

「遅れるな。でも、スピードは出すな」で、唯一削れるといえば、ドライバーの休憩時間だ。4時間につき30分休憩を取らなければならないという法律はあれど、これを守れるドライバーはごく一部で、延着を出さないためにと10時間以上休まず、ペットボトルに用を足しながら運転するドライバーも数多くいる。

 ようやくできた僅かな休憩時間も、車内で仮眠。食事も、眠くなるので腹いっぱいは食べない。家には2週間以上帰れないこともザラであるゆえ、毎食コンビニのおにぎりと缶コーヒーで腹虫を泣き止ます。こんなギリギリの状況下、歯なんて磨いている余裕もあるはずなく、例のおっちゃんに前歯がないことは、決して笑い話なだけではないのだ。

◆ドライバーの孤独な戦いを支えているのは……

 長距離ドライバーは、ひとたびハンドルを握ると、孤独、時間、睡魔との戦いを強いられる。

 そのせいか、彼らには互いにコミュニケーションを取るのが好きな人が多い。車内に必ずあるものの1つは、ハンズフリーのイヤホンマイクだ。運転中、唯一自由になる口をひたすら使い、仲間同士、どこで渋滞が発生しているのか情報交換したり、深夜走行では互いが話し相手になったりして、居眠りさせない環境を作るのだ。

 さらには、トラックドライバー同士、こういう心遣いがあるのはご存じだろうか。

 あなたが普通自動車のドライバーだとしよう。

 赤信号を先頭で右折待ちしている。自分の車の後ろにはトラック。対向車線にはこれまたトラックが同じように赤信号を待っている。こういう場合、信号が青になった瞬間に、対向車線のトラックはすぐに直進せず、あなたを先に右折させることが多い。

 これは、あなたのために右折させたわけでなく、後ろのトラックのためにしていることなのだ。前の乗用車を先に通すことで、幅の広い後ろのトラックが詰まらず直進できるようにするのである。これはトラックドライバーの暗黙のマナーで、お互い全く面識がなくても、こうして互いに助け合う。

 さらにだ。

 あなたの後方にいたトラックは、あなたが右折した後、対向車線のドライバーに手をあげて挨拶をする。「ありがとな」と。すると、ゆずったトラックも「なんのこれしき」と手をあげてそれに応える。

 筆者は、こういう状況を目撃するたびに、胸が熱くなる。歯がなくても、学歴がなくても、日本のトラックドライバーには、仲間を思いやるハートがあるのだ。

 ネット通販の普及、産地直送、低い食料自給率。日本経済は、物流なしでは成り立たない。その物流を支えるトラックドライバーが、今、悲鳴を上げている。日本の生活をより豊かにするためには、まずトラックドライバーの生活を豊かにする必要があるのではないだろうか。<文・橋本愛喜>

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