ここから本文です

日本の最先端技術は財政問題を抱えるサウジを救えるか?「日・サウジ・ビジョン2030」が合意

4/6(木) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 3月13日、安倍晋三総理とサルマン・サウジアラビア国王との首脳会談において、「日・サウジ・ビジョン2030」が合意された。同ビジョンは、昨年9月、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子殿下と安倍総理との間で策定に合意され、政府間対話枠組みである「日・サウジ・ビジョン2030共同グループ」での議論を経て、二国間協力の基本的な方向性と具体的なプロジェクトをまとめたもの。首脳会談後には、両首脳立ち会いの下、世耕経済産業大臣及びファキーフ経済企画大臣他による本ビジョンの実行に係る協力覚書への署名が行われた。(参照:経済産業省)

 もともと、サウジアラビアの成長戦略「サウジ・ビジョン2030」は石油依存体質からの脱却や雇用拡大を目指すものだった。しかし、本サイトの既報(「時価総額はアップル以上!サウジの国営石油企業サウジアラムコ上場へ」)で記したように、現時点、サウジアラビアでは、石油関連以外の業種は育っていない。製造業は小規模なものに留まり、巡礼者や業務渡航以外の一般観光客を受け入れていないことから、観光業も育っていないのが現状だ。

 このため、今回の協力によって、日本のサポートを得ながら、サウジアラビアは石油依存経済脱却を図っていくことが意図されていると考えられる。

「日・サウジ・ビジョン2030」具体的な内容については「日・サウジ・ビジョン2030ビジネスフォーラム”ビジョン2030セッション”において交換された覚書一覧」にまとめられている。

 経済産業省・東京証券取引所とサウジアラムコの間で、同社の東証での上場に向けた共同研究会の設置を検討することも盛り込まれているが、本件は本誌でも別途記事として取り上げられるので、筆者は別のテーマで、面白そうなものをピックアップしてみたい。

◆海水淡水化の新技術に注目

 興味深い要素のひとつは「海水から飲料水を製造する技術」である。海水淡水化については、日本側に株式会社ササクラ,一般財団法人造水促進センター、サウジ側にサウジ側キングアブドゥルアジズ科学技術都市(KACST),海水淡水化公団(SWCC)が覚書を交わしたトリ・ハイブリッド海水淡水化装置商業化に係る協力もあるが、ここでは、新しい淡水化技術として有望視されている「正浸透(FO)膜技術開発」について言及してみたい。

 これは、それぞれ開発についての覚書は、日本側は東洋紡株式会社、JFEエンジニアリング株式会社がそれぞれサウジ側の海水淡水化公団(SWCC)と覚書を締結した。同様に、「正浸透(FO)技術を用いた中東における新しい海水淡水化技術の開発に関する覚書)では、サウジ側 International Company for Water and Power Arabian Japanese Membrane Company に対して、日本側は東洋紡株式会社およびJFEエンジニアリング株式会社が連名で覚書を締結した。

 東洋紡は、逆浸透(RO)膜法ではすでに中東で5割、サウジアラビアでは8割のシェアを握る最大手である。サウジアラビアのシュケイク地区およびジェッダ市では、逆浸透膜には過酷な条件となる高温・高塩濃度海水でそれぞれ日量24万立方m、26万立方mの高品質の飲料水を製造している。また、ラスアルカイル地区の世界最大級の大型海水淡水化設備「ラスアルカイルプラント」(日量約100万立方m)では、日量約100万立方mのうち、34.5万立方m分の飲料水を東洋紡の逆浸透法で製造している。(参照:東洋紡によるサウジ納入実績)

 今回の覚書によって、東洋紡はより少ない電力で淡水化できる正浸透(FO)膜を淡水化プラントに事業化することで、人口が急増している中東市場で需要を取り込むことになる。(参照:「日経新聞」)

 一方、JFEエンジニアリングも、また、正浸透(FO)膜事業の立ち上げを進めようとしている。2015年には、“FO膜モジュールに供給される被処理水、誘引溶液の濃度、膜の状態(劣化等)に変化が生じても、安定した造水量が得られる水の脱塩処理装置を提供すること”を目的とする「水の脱塩処理装置」の特許も出願し、2017年2月16日には公開されている。

◆特殊フィルム利用の野菜栽培

 もう一つの興味深い覚書は、日本側メビオール、サウジ側Al-Afandi Establish社による「アイメック(持続的農業技術)に係る協力」だろう。

 これは、メビオールが開発した「アイメックフィルム」という特殊フィルムを用いて砂漠地帯での持続的農業技術に転用するというものだ。もともとアイメックスは、人工透析や人工血管、カテーテルなどの医療用製品に用いられる膜およびハイドロゲル技術に由来するもので、メビオールは医療分野で培ってきた先端高分子技術を農業分野に展開し、2009年にはトマト生産に導入され、その後もUAE(アラブ首長国連邦)の砂漠地帯、東北地方の津波の被害にあった地域で、アイメックフィルムを使った農場の建設が進んでいる。

 財政不安を抱えているとも言われるサウジアラビアだが、日本の先端技術が、「起死回生の策」とも言われる「サウジ・ビジョン2030」を後押しすることができるか、注目していきたい。

<文/丹羽唯一朗>

ハーバー・ビジネス・オンライン