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米、「一石四鳥」狙いのシリア攻撃

4/9(日) 18:58配信

Japan In-depth

【まとめ】

・米大統領の国内政策に関する権限は限定的。
・自由に行使出来るのが「軍事政策」。
・対中国・北朝鮮への圧力になった。

■大統領権限が限定的なアメリカ

20年前、「ワグ・ザ・ドッグ」というロバート・デ・ニーロやダスティン・ホフマンといった名優が共演した映画があった。スキャンダルを抱えたまま再選に臨む大統領に、戦争を起こすことで国民の関心をそらせるという内容のものだ。

その後、クリントン大統領がセックススキャンダルに悩まされ、コソボ空爆を実行したため、現実を予見した映画として話題になった。今回のトランプ政権によるシリア空爆で、この映画を思い出したのは私だけではないだろう。

大統領就任後の三週間、連日のようにメディアの前で20以上もの大統領令に署名するパフォーマンスを見せ、選挙公約を実現するにあたってリーダーシップを発揮する様子を見せた。しかし、三権分立が最も際立った米国の政治システムでは、大統領が紙切れ一枚で政策を実現できるようなものではない。案の定、中東七カ国の国民の入国を一時凍結するという大統領令は司法府から差し止められた。またオバマ政権でつくられた健康保険制度、オバマケアを廃止に追い込む法案は議会で廃案となった。

そもそも日本人の多くは勘違いしているが、米国の大統領の国内政策に関する権限は極めて限定的である。まず、米国には世界最強の立法府である議会が予算作成権限を握っている。議会が承認しなければ、予算措置の必要な政策は実現しない。内閣法案提出権のある日本と違って、米国の大統領には議会に法案を提出することさえできない。

行政府をコントロールすることさえ難しい。トルーマン大統領が後任の軍人出身のアイゼンハワーについて向けた有名な言葉に「これをしろ、あれをしろ。でも何も起こらない。可哀想なアイク、陸軍とは違うんだ」というのがある。ビジネス界にしか身を置いたことのないトランプには、巨大官僚組織の運営の仕方が理解できないのに違いない。

■米大統領最大の権限「軍事政策」

国内政策においては制約の多い米国の大統領が、最も自由に権限を行使できるのが軍事政策である。米軍の「最高指揮官」の権限を使い、武力行使を行うことについて、議会のできることは限られている。大統領の戦争権限を制約しようと70年代に「戦争権限決議」が立法化されたが、この法律が行使されたことはない。

選挙公約の多くが実現できず、大統領の指導力が疑問視されているなか、今回のシリア空爆は制約のない戦争権限を行使し強いリーダーシップを見せる絶好の機会となった。

■オバマ氏の2つの過ち

そもそもトランプは選挙期間中も、オバマ大統領のシリア政策を批判してきた。オバマはシリアにおける内戦において、米国が軍事介入を行うタイミングを化学兵器が使用された時と公言した。ところがシリア国軍が化学兵器を使用し、このレッドラインを超えたにも関わらず、軍事介入を行わなかった。この過程でオバマは二つの重要な誤りを起こした。

ひとつは議会に軍事介入の承認を求めたことである。戦後、米国が世界の警察官の役割を果たしてきた過程において、軍事介入の決断は大統領が担ってきた。有事で緊急に決定を行なわなければならない場合、何百人という集団動議で決定を下さなければならない議会は決定を避け、大統領に決断を委ねてきた。個々の議員にとって、戦争の決断を下すことは政治生命のかかる決定となることもあり、できれば避けたいというのが本音である。

ふたつ目の誤りは、シリア政策で対立関係にあるロシアに先手を取られたことである。オバマがシリアへの武力行使に議会を巻き込んで躊躇している間に、ロシアのプーチン大統領は米国の武力行使には国連決議が必要と主張し、米国が安保理にアサド政権非難決議案を提出すると、ロシアと中国に拒否権を発動された。その結果、ロシアが国連で主導権を握り、シリアに化学兵器廃棄をさせる安保理決議が採択された。これによって、米国のシリアにおける影響力は著しく弱まった。

■トランプが手本にしたレーガンのリビア爆撃

このオバマ政権の失敗を批判して大統領になったトランプにとって、アサド政権が化学兵器を使用したとされる今回の事件は絶好の機会に違いない。外交には軍事力の後ろ盾が必要だが、オバマのように軍事行使すると言って行使しなければ、その実効性が弱まる。トランプ大統領がモデルにしたのは、同様に強いアメリカを標榜し大統領になってすぐ、米国関連施設へ攻撃する意図を発表したリビアに対して、軍用機を二機撃墜し軍事力行使を躊躇しなかったレーガンであろう。レーガンがカーター政権との違いを見せつけたように、トランプもオバマ政権との違いを世界に示すこととなった。

シリアに軍事介入を行わなかったオバマ政権は反体制派への支援を通じて、アサド政権の弱体化を狙った。しかしアルカイダ系に近い反体制派を嫌ったトランプ大統領は、イスラム国自体に対する軍事作戦に焦点を移そうとしていた。ところが、イスラム国に対する攻撃ではシリア国軍とロシアがすでに主導権を握っていて、米国が主導権を握ることはできなかった。今回のシリア空爆はトランプ政権にとって、そういったシリア状況を大きく転換できる好機となった。

■トランプにとっては一石四鳥

しかもタイミングは、習近平訪米時に重なり、トランプ政権は軍事力の行使に躊躇しないことを習主席に目の前で見せることになった。これは中国に対して、北朝鮮問題で本腰を入れなければ、従来から言っていたように北朝鮮に対する軍事介入もあり得るのだということを示すのと同時に、中国の南シナ海での挑発的な行為に対して圧力を加えることを狙っていたものである。

今回のシリア空爆は、指導力を疑問視された

1. 国内政治状況の打破

2. オバマ政権と違い強いアメリカを標榜

3. 中東における影響力の回復

4. 北朝鮮と中国に対する圧力

と、トランプにとって一石四鳥にも五鳥にもなる絶好の機会だったのである。

信田智人(国際大学国際関係学科教授)

最終更新:5/2(火) 13:41
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