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脱「成果主義」の黒船到来か!? 定期評価「しない」評価制度の実現度

4/11(火) 16:20配信

HARBOR BUSINESS Online

 GE、マイクロソフトをはじめとした米国の名だたる企業において半年や1年など定期的に人事評価を実施することを見直す動きが加速しているという。全社で一斉に一定時期に評価を実施することをやめ、随時評価に移行しているのだ。定期評価をやめることなど出来るのか、評価にかかる負荷は増大しないのか。

◆「No Ratings」が日本企業を救う?!

 マネージャーになれば半年か1年ごとに、「人事評価を実施してください」と通知が来る。たいていは期末や期初など多忙な時期と重なるため、多くの部下を抱える評価者なら「この間、やっと全員の面談が終わったと思ったら、また始まるのか。」と、愚痴のひとつもこぼしたくなるだろう。

 その「定期評価」をやめる動きが、今、企業に広がりつつある。例えばSAPジャパンでは、今年度より年次の評価レーティングを廃止する。評価者は日常のマネジメントを通じてリアルタイムで評価とフィードバックを行うという。このような動きは主に米国企業で先行して見られており、年次評価の廃止(No Ratings)は、次世代の人事施策としてホットな話題となっている。

 しかし1990年代後半から2000年代にかけて、米国発の「成果主義」に日本企業がさんざん振り回されたことは記憶に新しい。その試行錯誤の結果、日本企業には独自の成果主義的人事制度が育っている。「No Ratings」をそのまま移植しても同じような効果は得られないだろう。そこで日本企業における実現度を探ってみよう。

◆「No Ratings」とは何を指すのか?

「No Ratings」は、制度上は2つのポイントに分けられる。「年次査定の廃止」と、「定期評価の廃止」だ。この2つは必ずしもセットで導入しなければならないものではない。導入の是非を検討する際も、この2つを分けて論じたい。

「年次査定」は昇給や賞与に反映され、相対評価で決められている場合が多い。例えばS~Dの5段階査定であれば、成績上位5%がS評価、10%がA評価……という具合だ。「定期評価」は評価基準にもとづいて、評価者が一定時期に一斉に評価を実施することだ。「定期評価」の結果をもとにして、「年次査定」が決まるという関係だ。

 この2つのうち、仕組みのうえで先に立つ「定期評価の廃止」にフォーカスを当ててみよう。

◆なぜ評価は「定期」で行われるのか

 そもそも、なぜ多くの企業で半期や1年などの「定期」で一斉に評価が行われているのか。それは、評価制度が賃金決定システムに従属しているためである。

 日本の企業では賞与支給は年2回、昇給は年1回実施されるのが一般的だ。それらを決めるために評価が存在しているため、毎年同じ時期に全社一斉に評価を実施することになる。

 しかし、読者の皆さんは、自身が評価される側として、あるいは評価をする側として、このように感じたことはないだろうか?

「正直なところ1年前の面談でどんな話をしたかなんて覚えていない。どうせならもっとタイムリーに面談を実施しないと意味がないのでは?」「今のビジネススピードに、半年や1年という目標設定スパンは適しているのか?期中の目標修正のたびに評価上の目標も修正しなければならず、手間がかかってしょうがない」

◆「定期評価」はすでに評価制度の足枷となっている

 成果主義の導入で「個別のパフォーマンスに基づいた評価」を宣言した結果、その「個別」の理由を説明することが必要となった。いわゆる「評価フィードバック」の実施である。さらにMBO(目標管理制度)を導入した企業では、目標設定・進捗管理・達成後の振り返り面談も実施されている。

 また、年功序列・終身雇用を前提とした会社と社員の関係が再定義されるに従い、大企業を中心に社員のキャリアサポートを目的とした面談も導入された。キャリアディベロップメントプログラム(CDP)である。評価面談との連携を進めている企業もある。

 人事評価=「賃金決定システム」だった時代には、賃金決定時期と評価時期とが一致していることに合理性があった。しかし人事評価の目的が拡大した結果、その合理性は薄れつつある。

 もし本当に評価制度をMBOやCDPと連携させて全体の目的を果たすのであれば、最適な評価とフィードバックのタイミングを、人事ではなく現場マネージャーがそれぞれ決めて実施すべきだ。いまや「定期評価」は、人事制度の足枷となっていると言っても過言ではない。

◆評価スパンは現場が決めよ

 つまり成果主義とMBOを導入済の企業では、「定期評価」をやめて随時評価に移行することで評価の目的と運用実態のミスマッチを解消できる可能性があるということだ。

 ただ、懸念点もある。評価者に評価とフィードバックの頻度を委ねて公平な運用がなされるのか。マネージャーの負荷は増大しないのか。そして、賃金査定に支障はきたさないのか。

 まず、完全に随時評価に移行するのではなく、職場や年次によって評価サイクルのパターンを分けることから始めるのが現実的なスタートではないか。こまめな評価を実施しない評価者が放置されると公平感は損なわれてしまう。しかし日本の多くの企業はマネージャーの降格には慎重である。最初は会社が一定の枠組みを提供したほうがよいだろう。

 そして、評価サイクルのパターンは現場主導で決めてもらうことだ。できればマネジメント上の進捗確認ミーティングと連動させて実施する。毎週~毎月実施している確認ミーティングのうち、何回かに1回が評価のフィードバックや目標すりあわせになるイメージだ。

◆評価をマネジメントに組み込む

 つまり、「評価とフィードバック」という作業を余分な「負荷」として追加するではなく、通常業務の一環に組み込むということだ。

 実際に、当社のクライアントにも評価頻度を増やした企業は何社か存在するが、しばらく経過すると、マネージャーが日常のマネジメントフローに組み入れて実施できるようになった。うち1社で導入数年後にアンケートを採ると、およそ8割の社員が「今の頻度が良い」と回答した。

 別に人事主導でなくとも、現場部門が自部門で最も効果のあがる評価スパンを試行錯誤してみてもいい。そして、それを人事に提案してはどうだろうか。腰の重い人事部門でも、社内で成功事例があれば腰を上げるかもしれない。

 随時評価を賃金・賞与に反映する方法については「年次査定」の是非とともに別途議論が必要だ。しかし、各現場の事情と評価制度との整合性を取る役割から人事部門が解放され、評価結果をどう活用するかという検討に集中できるのは大きなメリットではないか。

 成果主義評価の運用は手間がかかる。上司にはフィードバックスキルが求められる。しかしフィードバックの頻度が上がることで現場リーダーが鍛えられ、組織の成果創出スピードが上がる。どうせ手間がかかるなら、現場マネジメントの役に立つ運用をしたほうがよい。

 評価もフィードバックも、主体者は人事ではなく現場のマネージャーである。人事評価を現場の手に取り戻すことが、次世代の評価制度の潮流となるのではないか。

<文/新井杏里(リブ・コンサルティング)>

新井 杏里(あらい あんり)●株式会社リブ・コンサルティング。組織開発コンサルティング事業部チーフコンサルタント専門は、人事評価・賃金制度構築・改定、人事制度統合、女性社員活用。京都大学経済学部卒

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