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各地の大型施設が「耐震化」でピンチに……身売りするリゾートホテル、閉店する百貨店も

4/13(木) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 昨年4月に発生した熊本地震で震度6弱の揺れを記録した大分県別府市。地震の爪痕も消えつつある中心部では、4月はじめに「別府八湯温泉まつり」が開催された。今年の祭りではディズニーパレードも開催され7万5千人が詰めかけるなど、大いに賑わった。

 祭りのなか、中心部の宿泊施設もさぞかし繁盛したことだろう…と思いきや、旅館街には大きな異変が起きていた。なんと、賑わう祭りの最中であるにも関わらず、灯りの点いていないホテルがいくつもあるのである。

 実は4月現在で、別府市中心部(JR別府駅周辺の別府温泉地区)にある大型温泉リゾートホテルのうち3社5館が休業中。もちろん、休業するに至った一番の原因は1年前に起きた熊本地震だった。

◆耐震費用かさむ大型リゾートホテル、地方資本で相次ぐ「身売り」

 別府市中心部で休業中となっている大型の温泉リゾートホテルは、全て高度成長期に建設されたものだ。いずれも本館は10階建て以上の規模で、オーシャンビューの温泉を備え、非常に大きな集客を誇った人気ホテルであった。しかし、5館ともに大規模な耐震補強工事は行われておらず、熊本地震で建物の一部が損傷したこと、もしくは、被害は少なかったものの今後同規模の地震が起きた場合に安全性が保障できないことを休業のおもな原因としている。

 こうした大型ホテルの耐震化対応が進むきっかけとなったのが、2013年に施行された「改正耐震改修促進法」だ。この法律では、耐震対策の早期実施を促すため、自治体が1981年以前の旧耐震基準で建てられた大規模建築物の耐震診断結果と耐震化計画をまとめて公表することが義務付けられており、2016年からは各自治体で結果の公表がおこなわれている。

 同法は耐震改修を義務化するものではなく、耐震改修については努力義務としているものの、宿泊施設、商業施設などといった不特定多数の客が出入りする施設は建物の安全性が保障できないと信用問題に繋がり、客足にも影響を及ぼすことは必至で、早期の耐震化工事が不可欠なものとなった。

 もちろん、大型ホテルが耐震化を進めるという動きは東日本大震災を経て改正耐震改修促進法の制定前後から起きていたが、とくに九州各地では熊本地震後に「当事者意識」が働いたため、耐震改修の動きが活発化することとなった。

◆外資や大手資本が買収

 こうした宿泊施設の耐震化では、できるだけ客室窓からの展望を損なわずに耐震補強をおこなう必要があり、公共施設などよりも補強費が高額になってしまうことが多い。

 先述の別府市中心部で休業している大型ホテル3社5館のうち、自社で耐震化に踏み切ることができたものは、地震直後の5月に建て替えを発表した1社1館のみ。このホテルの運営企業は他県でボートピア(競艇の場外舟券発売場)などの経営をおこなっており、ホテルの休業中も収益を確保することが可能であったことが早期の建て替え決定に繋がったとみられる。しかし、残る2社4館は、いずれも別府市内でのホテル経営を中核事業とする会社が運営するもので、自社の力のみで耐震化することは難しく、身売りすることになってしまった。この2社は、いずれも戦前から営業している老舗であり、惜しまれつつの閉館となった。

 こうした状況に目を付けたのが、大手温泉旅館チェーンであった。

 2社4館のうち「別府ホテル清風」(1931年創業、161室、650人収容)の2館は全国各地で温泉旅館を経営する「大江戸温泉物語」(江東区)が買収し、大規模改修をおこなった上で2017年中に「大江戸温泉物語 別府」として営業を再開することが発表された。

 一方、隣接する「花菱ホテル」(1904年創業、143室、400人収容)が運営する2館は、同じく全国各地で温泉旅館を経営する「星野リゾート」(軽井沢町)が買収。こちらは全面建て替えをおこなうため、休業期間は数年間にわたると見られている。

 このように、耐震改修を契機に、大手ホテルチェーンや投資ファンドなどが老朽化した地方の老舗ホテルを買収し、全面リニューアルした上で再オープンさせる動きは全国各地で起きており、特に別府と同様に築年数の高い大型温泉リゾートホテルが多い熱海・伊豆でも、大江戸温泉物語と星野リゾートという、今や温泉ホテル業界の覇権を争う「2大企業」による老舗ホテルの買収が相次いでいる。

 こうした地方企業単独では難しいような老朽ホテルの買収による大型改修や建て替えは、地域に新たな競合を生むものの、温泉街に全体にとってみれば新しい風を吹き込むという働きもあり、観光活性化にも繋がるとして地元からは歓迎の声が上がっている。

◆ホテルよりも深刻な大型店の耐震改修――「黒字なのに閉店」も

 もちろん、こうした耐震化問題を抱えているのはホテルだけではない。

 これまで挙げたように、大型リゾートホテルでは大手企業からの「救いの手」が差し伸べられる例も多い一方で、より深刻な問題となっているのが、大型店の耐震化だ。

 百貨店や総合スーパーの閉店が続く昨今であるが、近年の閉店事例では「建物の老朽化」「耐震性の低さ」を閉店理由の1つに挙げている店舗も少なくない。とくに、都市中心部の大型店は高度成長期に建設されたものが非常に多く、たとえ現在は黒字を計上している店舗だとしても「今後の耐震改修費用と照らし合わせると閉店するしかない」という例も多いのだ。

 例えば「耐震性の低さ」を閉店理由の1つとして挙げた百貨店「伊万里玉屋」(佐賀県伊万里市、2016年1月閉店)の場合、築50年の店舗(5階建て、売場面積8,312㎡)を耐震化するためにかかる費用は3億円以上と見積もられた。一方で伊万里玉屋の年商は約8億円。到底、耐震化費用を捻出することはできず、閉店するに至ったという。

 国は改正耐震改修促進法の施行とともに、民間の建物に対しても耐震改修費用の11.5%を補助する制度を作ったが、僅か1割程度の補助では「資金の足しにもならない」と感じる企業も多い。また、地方自治体でも独自にこうした補助制度を設けているところがあるものの、民間の建物への「税金投入」には慎重な自治体も多く、制度が上手く活用できていない例もあるという。

 また、たとえ金銭的にある程度の余裕がある企業の店舗であっても、大手チェーン店でもない限り、店舗の大部分を営業しながら耐震工事をおこなわなければ経営に甚大な影響が出ることは必至だ。

 耐震改修では建物を支える下層階ほど大規模な工事がおこなわれることが多いが、とくに百貨店ではこうした下層部分でブランド品、宝飾品、化粧品、婦人服などといった「高額商品」「売れすじ商品」が販売されており、店舗の顔である下層階の営業を休止すれば経営に大きな影響が出てしまう。そのため、少しずつ耐震改修をおこなうことを余儀なくされる店舗が多いが、そのぶん工期は非常に長期化してしまい、また、工事を複数回に分けて行うとなれば補助金の申請も難しいものとなる。

 すでに自治体により耐震診断結果が公表された大型店や大型ホテルのなかには、その都市で唯一の百貨店やシティホテルでありながら、「耐震性が非常に低い」と診断されたにも関わらず「今後の耐震計画は未定」と発表されているものも少なくない。

 長年に亘って「街の顔」として、人生の節目や日々のくらしを彩ってきた大型ホテルや大型店。経営者側も「安心・安全な建物で営業を続けたい」という思いは大きいであろうが、各地の災害復興需要に加え、耐震診断結果の公表義務化による「耐震化工事の駆け込み需要」もあって工事費はさらに高騰しつつあるといい、今後数年間で全国各地の「街の顔」が次々と姿を消していく可能性も高い。

<取材・文・撮影/都市商業研究所>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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