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Reliqが“Serphとの差別化”を始めた理由 「ダンス・ミュージックに限界を感じてきた」

4/15(土) 19:00配信

リアルサウンド

 Serphの別名義として活動するReliqが、4月15日にアルバム『Life Prismic』をリリースした。リアルサウンドでは今回、音楽評論家の小野島大氏を聞き手に迎えてインタビューを行ない、作品の生まれたきっかけや彼が別名義で音楽を作る理由、モチベーションの維持など、様々な角度から語ってもらった。なお、記事の前半には小野島氏による序文も掲載する。

<音楽評論家・小野島大氏による序文>

 日本を代表するエレクトロニック・ミュージックのアーティストSerphの別名義Reliqの3年ぶりの新作『Life Prismic』が4月15日にリリースされる。Serph、N-qiaといった名義を使い分け、2009年のデビュー以降はほぼ毎年作品を送り出す多作家だが、本作は2016年秋にリリースされたSerph名義のアルバム『イルカの星 オリジナル・サウンドトラック』以来の作品である。

 1年ほど前にSoundCloudにて本作収録の「morocco drive」を公開したところ大きな反響があり、次に「voynich soundscript」が完成し、この2曲をキーにしたアルバム全体の流れを意識するようになった。さらにDoze Greenというニューヨークのアーティストの「Black Swan Mystery of Babylon」という作品に出会うことで、イメージが定まったという。「Black Swan Mystery of Babylon」は今作のジャケットに採用されている。

 これまでReliq名義の作品はSerphよりもダンサブルで、ミニマルでフィジカルでカッティング・エッジな作風という位置づけだった。だが『Life Prismic』では、Serphのダンス・バージョンというようなシンプルなものではなく、もっと幾重にもレイヤーが重なったような複雑で奥深いイメージの音像を聴くことができる。時に実験的でアバンギャルドだが、しかし優しくメロディアスでカラフルで陽気で、そして美しい。ヨーロッパから中近東、アフリカ、中南米からアジア、そして日本へ。音楽で世界を旅しているようなエキゾティックで多国籍的な音でもある。異文化を排斥し純血化を押し進めるのでなく、むしろ積極的に混じり合っていく。単なる興味本位の異国情緒ではなく、我々の生きるリアリティの中で息づく音楽。単なるグローバリズムともかつてのワールド・ミュージックとも違う、エクレクティックでヴァーサタイルなフュージョン・ミュージックが展開されているのだ。

 タイトルの『Life Prismic』には、生命的な複雑さを持った音楽、カラフルできらびやかな音楽、人間の多面性みたいなものをイメージした、という。アルバムのテーマを見事に言い表している。(小野島大)

・「(ダンス・ミュージックが)マニアックになりすぎて、閉じてる世界になってきてる」

ーー素晴らしいアルバムが完成しました。このアルバムはどんなところから構想が始まったんでしょうか。

Reliq:ReliqはそもそもSerphでできないことをやろうと思ってたプロジェクトで、セカンド・アルバム『Metatropics』(2014年)まではダンス・ミュージックを軸にしてたんですけど、ちょっとダンス・ミュージックに限界を感じてきたところがあって。

ーー限界、ですか。

Reliq:限界というか、リズム・パターンとか音響の遊びみたいなものがマニアックになりすぎてて、もはや閉じてる世界になってきてる感じがしたんです。それよりは、もっと肉づけをした、いろんなものをミクスチャーした音楽をやろうと。あと、Serphでは出せないようなジャズ感を出したかった。ジャズとかロー・ビートの感じっていうか。あまり国籍を特定しがたい雰囲気みたいなものを出したかったんです。

ーーダンス・ミュージックに行き詰まりを感じた、というあたりを詳しく説明していただけますか。

Reliq:海外のダンス・ミュージック……ダブステップにせよグライムにせよ、もともと好きなんですけど、どうしてもこじんまりまとまってきてしまう。特にミニマル・テクノみたいなものに顕著なんですが、その曲を元にDJがリバーブかけたりエフェクトかけたりするのに適した音作りみたいなものに……。

ーーDJ向けの素材としての音楽。

Reliq:素材としての音作りみたいなものにこじんまりとまとまってしまって、作り手のキャラクターが見えてこない。もちろんそうじゃないダンス・ミュージックもたくさんありますが、自分はどうやらそういう(素材としての音楽)方向ではないな、と思ったんです。自分のエゴ……じゃないけど個としてのこだわりみたいなものを凝縮させた曲を作っていきたい。そのこだわりの中の要素としてダンスとか、いろんな音楽が入ってるような。

ーー今までは、Serphは別として、Reliqはダンス・フロア向けということを意識して作られてきたわけですね。

Reliq:セカンドまではありました。ダンス・ミュージック的な音数の少なさとかビートの強さなどは意識してましたね。

ーーしかしテクノみたいなエレクトロニックなダンス・ミュージックは、もともとそういう機能的な道具としての面も強く持っていると思うんです。DJのための素材というか。そういうことを大なり小なり意識してクリエイターは作っている。Reliqさんもそうだったと思うんですが、今になってそれが気になり始めたというのはどうしてでしょうか。

Reliq:やはり物足りなくなってきたんだと思います。こういうところでまとまってしまうのかっていう残念感があって。

ーー聴くものではなく使うもの。

Reliq:そう。スペースとDJがあって初めて映えるものじゃないかなと。

ーー作品として自立しているものじゃないと面白くないと。

Reliq:そうですね、うん。その通りだと思います。

ーーなるほど。一方にSerphとしての活動がある中で、Reliqの位置づけも少し変わってきたんでしょうじか。

Reliq:そうですね。ハーモニーにしてもコード進行にしても、Serphでは出せない引き出しはまだあると思ってるし……Prefuse73の初期が好きなんですよ。ジャズをサンプルしたロー・ビートみたいなの。それで展開があって、単なるループとかラッパーのためのトラックじゃないものを作ってる。そういう流れを自分なりに追いたかったのかもしれないですね。

ーーそれはSerphの名義ではやりにくいことだった。

Reliq:そうです。Serphはなんか……日本人の心の琴線に響くようなエモーショナルな部分っていうか。

ーーちょっとウエットな感じ。

Reliq:そうですね。Serphでは日本人の素直さみたいなものに光を当てるみたいなサウンドにしたいんですけど、Reliqに関しては、日本人が出しにくい音みたいなもの、言葉にすることができない部分の感情の広がりとか。そういうイメージを出したかったんです。

ーーそれはご自分の内面の2つの対照的な部分が、SerphとReliqで表されているということでそしょうか。

Reliq:うーん……これはあまり楽しい話じゃないですけど、ポップとして成立しているもの……メジャー進行で明るくカタルシスをもたらしてくれるみたいなものを続けていかないと、Serphはもうダメなんじゃないか、みたいな強迫観念があるっていうか……。

ーーうーん……。

Reliq:それ以外の遊びや実験の部分をReliqでやるっていうか。

ーーああ、なるほど。

Reliq:Serphが多少なりともヒットして、イメージがかなり固まってるし、外れたことをやりすぎても、それはそれでやってる意味がないってところもあるんです。

ーーじゃあSerphをやっている時は、結構プレッシャーを感じている。

Reliq:やっぱり感じますねえ。Serph名義の今までのリリースの中でも、わりとエッジーな、単なるポップじゃないアイディアを詰め込んだ曲もあるんですけど、そんなに反応なかったんです。それはすごく寂しい。

ーーやっぱり反応ないと寂しいですか。

Reliq:寂しいですねえ(笑)。やっぱり聴いてもらいたいっていうのが一番強い……。

ーー反応がないっていうのはセールスだったり……

Reliq:セールスだったりブログだったりTwitterだったり……。

ーーああ。じゃあエゴサーチとか結構やるほうですか。

Reliq:してますね(笑)。

ーーもちろんSerphも最初は、ご自分で純粋にやりたいものとして始められたのが、だんだん縛られるような感覚になってきた。

Reliq:そうですね。あります。

ーーそうですか。ちょっと意外でした。もっと自由にやっておられるイメージがあったので。

Reliq:うーん……自由にはやってると思うんです。でもアルバムを作るにしても候補曲が100曲ぐらいあって、そこからまた12、3曲に落とし込む作業があるので……。

ーー作る段階では自由にやってるけど、選ぶ段階で……。

Reliq:選ぶ段階でまとめてしまうんです。

ーー実験的だったり尖ってたり外れた曲調のものはどうしても落ちてしまう。

Reliq:そうですね。明るい感じでクオリティの高い曲がSerphらしいので、どうしてもそこに寄ってしまう。

ーーなるほど。今回Reliqの新作を聴いて、去年出たSerphのベスト盤『PLUS ULTRA』(2016年)など改めて聴き直すと、ずいぶんポップでスウィートな音楽だと感じました。

Reliq:そうそう、そうなんですよ。

ーーじゃあ今回の『Life Prismic』に関してはそういった制約もなく、楽しく、好き放題にできた。

Reliq:そうですね。今まで出せなかったアイディアをがっつり詰め込んで。

・「本名でごちゃまぜのアルバムを作ることも、いつかはしてみたい」

ーー今作の構想は「morocco drive」をサウンドクラウドにアップしたのがきっかけとお聞きしました.

Reliq:この曲のモロッコ感というか異国感……中近東ぽい音を使って、あまり見ないようなエキゾティシズムを出せた曲だと思ったんですけど、自分としてはそんなに反応がくるとは思ってなかったんです。ほんとにマニアだけが喜ぶんだろうと思ってたんですけど、意外に再生数が伸びたんですよ。

ーーSerphともReliqとも違う実験的な作風だから、出してどうなんだろうという迷いも最初あった。

Reliq:ありましたね。でも出さないでいるのはもったいないし。

ーーじゃあ特に〆切りとかなくても曲はどんどん作るほうですか。

Reliq:もう、ひたすら作ってます(笑)。作ってないともう……ダメですね。

ーー多作ですよね。毎年必ずアルバムを出してるし。

Reliq:その日その日の記録みたいな感じで。日記のように。早いものはその日のうちに、そうでないものも1週間ぐらいで完成させますね。

ーーじゃあ大量の未発表音源はハードディスクに埋もれているという……

Reliq:そうですね。

ーー自分で聞き返すことはありますか。

Reliq:してますね。でもリリースするには弱いかな、とか。

ーーそのリリースに値する納得の基準というのは……。

Reliq:最近は聴きやすさというか。スッと入ってきてスッと流れていくような、イージー・リスニングというか、頭でっかちじゃないんだけど、アイディアが一杯詰まっていて、聴きやすいもの。

ーー聴きやすさの判断基準って難しいですよね。

Reliq:そうなんですよね……聴きやすいだけの音楽って無数にあるから、Serphを聴いて良かったな、と思えるような。この人じゃないと、というものがないと。聴きやすさがありつつも、濃さみたいなものがあるような。

ーーそれは「個性」という言葉で言い換えられると思うんですが、その個性はSerphにもReliqにも共通するものなんでしょうか。それともまったく別?

Reliq:理想としては、SerphもReliqもなしで、本名でごちゃまぜのアルバムを作ることも、いつかはしてみたいですね。

ーーああ、じゃあ音楽性によって名義を使い分けていくのではなく、ひとつの名義でもっとトータルな自分自身というものを打ち出していきたい。

Reliq:いつかはやりたいですね。

ーーそれは「自分を知ってくれ、わかってくれ」という思いの表れなんでしょうか。

Reliq:ああ、そうですね。あまりプライベートまで晒したくないですけど(笑)。

ーーなるほど。話を戻すと、「morocco drive」が思いのほか好評で手応えがあって……

Reliq:もともとジャズなんだか民俗音楽なんだかテクノなんだかわかんない、ごちゃまぜのサウンドが好きだし作っていて楽しいんです。音楽マニアとういうか、聞き込んでる人しか作れないようなマニアックな曲がけっこう詰まってるんじゃないかな。ビートの重さもそうだし、上モノも……クラシックなんだかジャズなんだかミニマルだか、よくわからない、そのすべてが混ざっている。遊び心っていうんですかね。

ーー音楽的な埋蔵量の豊かさみたいな。

Reliq:そうですね。それを出したかった。

ーーそして「voynich soundscript」という曲が完成してアルバムの全体像が見えてきたというわけですね。

Reliq:「voynich soundscript」は謎めいたというか、作ってる本人も掴み所がないような怪しい雰囲気に持っていかれる感じに統一したかったんです。ハープの音色を使ってるんですけど、コードやメロディに持っていかれる世界が妖しいなと。高揚感があるんだけど、新しい種類の高揚感というか。

ーー作ってるご自身にも予期しないようなものが出てくるわけですか。

Reliq:そうですね。それまでの流れに沿って作っていくというよりは、途中で思いつく閃きをそのまま取り入れたりする。それは事前に予期してないことなんですが、それが面白い。作り始めの時にイメージを固めてやるんじゃなくて、その場の流れやインスピレーションでどんどん変わっていくので。

ーーそういう思わぬインスピレーションやイマジネーションの広がりが、今作では特にあったということですね。

Reliq:そうですね。Serphの『Hyperion Suites』(2015年)では結構遊んだんですけど、ベスト盤ではポップで聴きやすいものに特化したので。……でも正直言うとまだまだ足りないんですよ。アイディアの出しっぷりというか。まだまだ未熟だし出したりない。もっと完成度をあげていきたい。

ーー自分の理想とする音楽が100として、今どれぐらいまで到達してます?

Reliq:……70ぐらいですかね。

ーー残りの30はなんですか?

Reliq:残りの30は死ぬまで埋まらないっていうか。死ぬまでずっと追いかけていくものだと思いますけど。

ーー残り30を埋めるために何が必要だと思いますか

Reliq:ライブの現場で得られる盛り上がりみたいなものを体得したいですね。なのでライヴもこれからはやっていきたいです。それもちゃんと作り込んだ形で、きちんと見せていきたい。

ーー100に近い音楽を作ってる人って、誰か思い浮かびますか?

Reliq:The Beatlesですかね。というかジョン・レノン。

ーーへえ。どういう意味で?

Reliq:単純に好きなんですけどね。ほんとにピースな状態が好きなんだけど、でも外界とのギャップにすごく悩んでて、それをちゃんとわかりやすい形でシェアしよう、みたいな。

ーーアーティストの内面の葛藤がちゃんと音に描かれ、それがポップ・ミュージックとしてきちんと成立している。

Reliq:あと、Prefuse 73の『Extinguished』ってアルバムは理想に近いですね。

ーーただキレイなだけではなく、すごく変則的で実験的な電子音楽。

Reliq:一番多感なころにそういうのを聴いて、吸収したなっていう。

ーー一番最後の「miyako」という曲はタイトルからして日本的な情緒を感じる曲で、YMOや坂本龍一を思い起こします。

Reliq:ああもう、大好きですね。坂本龍一に取り憑かれてますね、日々。ピアノ・ベースで曲を作る時は、その前に聴いて。ああ、ピアノだけでこれだけ成立するんだって。心の師匠じゃないですけど、そんな感じで。ポップで、しかも深くてスピリチュアルなポップというか。クラシックのいいとこ取りみたいな。

ーー細野さんでも幸宏さんでもなく坂本さんなんですね。

Reliq:でも細野さんのサイケデリックなアンビエント感みたいなものもすごく好きです。一回夢に出てきたことがあって。

ーー夢?

Reliq:「君は自由にやりなさい」と言われました(笑)。

ーーお告げ!

Reliq:(笑)。細野さんが夢枕に立って。

ーーそりゃ言うこと聞くしかないですね(笑)。今おいくつでしたっけ?

Reliq:35歳です。

ーーその年齢だったらもっとEDMとかポップ・ハウスとか、もっと脂っこい方向にいってもいかしくなさそうですが、ストイックですね。

Reliq:たとえばハドソン・モホークとか、最初に<Warp Records>で出したアルバム(『Butter』2009年)はサンプリングをバリバリに使ってすごいポップで、でもポップと言っても最近の若い子に向けてのポップじゃなくて、すごくアナログな温かい感じで、ほんとうに本人が楽しんで作ってるなというのがわかるんですけど、最近はもう、それこそ商業的な芸能音楽だったり、CMだったり、完全に世の中に合わせる方に行っちゃったっていうか。打ち込みのアーティストとしてのスキルはすごく高いだけど、もったいないなと思う。リスナーとしては面白くない。リスナーとして面白いSerph/Reliqというのを考えていきたいんですよね。一口にリスナーといっても、保守的な人も、新しい刺激を求める人もいるでしょうけど、どっちも納得させたい。

ーーあ、どっちもですか。今作はどちらかといえばアーティスティックなあり方に近いと思うんですけど、もっと幅広い層にアピールしたいということですか。

Reliq:うーん、あんまり幅広すぎるエリアをターゲットにしちゃうとあんまり……ああ、でもそれは言い訳だな。うん、最終的には全世界的に認められたい。承認欲求ですね。でもそこで自分の美学というか音楽的な経歴みたいなものも、ちゃんと反映させた音楽にしたい。

ーー両方を実現したいと。

Reliq:ジャズの世界、ポップの世界、ヒップホップの世界、テクノの世界……という線引きの外にいたい。カテゴライズされたくない。

ーー今作の肝となる多国籍、無国籍というコンセプトですが、そういう単一の価値観や世界観に縛られたくない。異文化を排除していくトランプ的な価値観への反対の意思が込められているのかな、とも感じました。

Reliq:それは大いにありますね。日本にしても目に見えないファシズム、同調圧力的なものがある。若い子がSNSに縛られて何もできなくなってるとかね。そういうことに代表されるような相互監視社会的な生きづらさや息苦しさはとても感じます。

ーーSerphの音楽を作っていて、縛られるような息苦しさを感じていたことと通じるものがある?

Reliq:そうですね。せめて音楽はもっと自由で多様なものであってほしい。人々の生活や文化や社会や人生だって、いろいろな刺激があった方が楽しいと思うし。コスモポリタン的な人間でいたい、みたいな欲求があるかもしれないですね。

ーーあまりエゴサーチしない方がいいんじゃないですか(笑)。

Reliq:(笑)。そうですね。縛られちゃいますもんね。

(小野島大)

小野島大

最終更新:4/15(土) 19:00
リアルサウンド