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【連載】蹴球百景 vol.15「『自己責任』の時代」

4/18(火) 11:00配信

SOCCER DIGEST Web

サッカーがテロの標的になってしまう悲しき現実。

 ロシア・ワールドカップを翌年に控え、今年はコンフェデレーションズカップ(ロシア)やU-20ワールドカップ(韓国)、そしてU-17ワールドカップ(インド)と、FIFAの大会が目白押しである。
 
 私も韓国とロシアの取材に向けて、粛々と準備をしているが、ここに来て朝鮮半島情勢の雲行きが怪しくなってきた。ミサイル発射や核実験など、国際社会への挑発行為が続いた北朝鮮であったが、アメリカがトランプ政権に代わってから一気に緊張感は高まっている。今後の展開次第では「第二次朝鮮戦争」の勃発さえ懸念される状況だ。
 
 U-20ワールドカップは、5月20日から6月11日まで、韓国の仁川、水原、天安、大田、全州、西帰浦で開催される。最も北にある仁川から北朝鮮との国境までは40キロ弱。おおよそ東京駅から横浜駅くらいの距離だ。アメリカが北朝鮮を攻撃すれば、戦火が韓国にも拡大するのは必至。こうした状況の中、FIFAがどのような判断を下すのか注目されるが、今のところ特段のアナウンスはない。こちらも取材パスの許可は下りたものの、宿や飛行機の予約をどうするべきか、いろいろ思案する日々が続いている。
 
 個人的な経験則で言えば、FIFAという組織が一度決めたことは、よほどのことがない限り覆ることがない。とりわけ顕著なのが、ワールドカップの開催地だ。確かに1986年大会は、コロンビアが財政的な理由から開催権を返上したためメキシコでの代替開催となった。しかし、治安悪化が不安視された2010年の南アフリカも、財政難とスタジアム建設の遅れが憂慮された14年のブラジルも、何度となく「開催地変更」が囁かれながらもFIFAの決定は遵守された。よって今回も、ギリギリまでFIFAは粘ることだろう。
 
 結局のところ、取材者である我々にできることは限られている。とりあえず宿泊の予約はキャンセル可のものをチョイスし、エアチケットの購入は(多少高くなるが)直前まで我慢。状況に変化がないまま開幕となったら、常に有事に備えて外務省からの情報をチェックし、最悪の事態に備えて自力で釜山まで逃れるルートは頭に入れておきたいところだ。要するに「自己責任」という話である。気が付けば、我々の取材は「戦場ジャーナリスト」のそれと変わりなくなってしまった。実に恐ろしいことである。
 
 4月3日には、コンフェデの会場のひとつであるサンクトペテルブルクの地下鉄で爆弾テロが発生した。11日には、ボルシア・ドルトムントの選手を乗せたバスを標的にしたテロも起こっている。2年前のパリで発生した同時多発テロ以降、サッカーを含むスポーツは完全にテロリストの標的となってしまった。一方で、普段はJリーグを楽しんでいるファンの間でも、ACLで韓国や中国に遠征することは当たり前のこととなっている。「自己責任」が求められるのが、私たち取材者だけではなくなっているところに、事態の深刻さを見る思いがする。

 宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。http://www.targma.jp/tetsumaga/
 

最終更新:4/18(火) 14:41
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