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磐田・中村俊輔が模索する“化学反応”。「見えすぎる」ことでの葛藤。難局をエネルギーに

4/19(水) 10:20配信

フットボールチャンネル

 サックスブルーのユニフォームをまとう中村俊輔は、王様ではなく、チームの歯車として献身的なプレーを続けている。その胸中にはどのような思いがあるのか。5月6日発売の『フットボール批評issue16』では中村俊輔の深遠なサッカー観に迫るロングインタビューを敢行。先行して、その一端を公開する。(取材・文:西部謙司)

【動画】一瞬たりとも見逃せない中村俊輔のスーパープレーが半端ない

チームの歯車として、葛藤の先にある成長

 清水エスパルスとの静岡ダービーを3-1で制した後なのに、中村俊輔はさほど満足そうには見えなかった。前半の2ゴールは自らのFKから、後半の3点目も狙いすましたパスから決定機をセットアップ、その左足が叩き出した勝利にもかかわらずだ。

「化学反応がね、起こらないんですよ」

 このゲームで、中村のポジションは右サイドに固定されていた。いつもならDFのすぐ側までボールを預かりに下がり、そうかと思えばサイドで起点になり、さらに最後の仕上げをすべくゴール近くへ入っていく…清水戦ではそんな自由な動きがほとんどなかった。禁じられたわけではない。右のポジションを言い渡されたことで、流行の言葉なら「忖度」したのだ。

「キャンプのときからやってきたんだけどね」

 中村の言う「化学反応」とは、ポジションをズラすことで起きるポジティブな変化である。中村が自らのポジションを動かすことで、味方は空いたスペースへ移動し、さらにまた移動が生じる。そうした少しずつ起きるフィールド上のズレ、変化を利用して攻撃を作り上げるつもりだった。ところが、期待したほどの効果がない。

 横浜F・マリノスのときにも、これがいつも上手くいっていたわけではない。中村が下がればビルドアップはスムーズに流れるが、ゴール近くで仕上げをする人がいなくなる。逆に中村が前で待つとボールが来ない…たぶん「中村俊輔」が2人いれば万事上手く回るのだろうが、生憎そんなプレーヤーはなかなかいないのだ。

もし、自分が監督だとしたら、中村俊輔をどう使いますか?

 ポジションを自在に越境できるプレーヤーは滅多にいない。二手三手先を読む能力、フィールドを俯瞰できる眼、敵味方両方への観察力、なにより絶対的な技術、味方からの絶大な信頼。中村俊輔はそのすべてを持っているが、それでも常に効果が保証されるわけでないのはサッカーがチームプレーだからだ。チームとの相性がある。

「ポジションを固定すれば、基本的には1対1の戦いになる。それでは強い相手には勝てない。でも、このチーム(ジュビロ磐田)はそうしたプレースタイルに慣れているし、その中で成長していくのかもしれないと思った」

 中村は右サイドのプレーヤーとして振る舞い、そのせいでチームへ与える影響力は“フリーマン”のときに比べるとかなり限定された。それでも伝家の宝刀であるセットプレーからゴールを生み出した。チームメートもそれぞれの持ち場で生き生きとプレーできた。自分の100パーセントを出せていないから不満は残る、しかしそれがチームのためになるなら、自分の力を封印することにも納得していた。

 横浜F・マリノスとの“俊輔ダービー”でも、右サイドでプレーした。何度かはポジションを変えていたが、基本的には清水戦と同じである。

 フィールド上の監督としての資質を持つ中村俊輔は、監督そのものの視点を持つに至ったようだ。実際、監督になるための準備もすでに始めている。ただ、彼はまだプレーヤーなのだ。そんなに物わかりが良いのは果たして本当に良いことなのだろうか。

 もし、自分が監督だとしたら、中村俊輔をどう使いますか?

 この質問に対して、“中村監督”は即答だった。

「トップ下!」

 全然諦めていない。というより、この答えはむしろ選手・中村俊輔そのもののような気もするのだが。ともあれ、トップ下から自由に動いて攻撃にプラスアルファを与えること、チーム全体に大きな影響力を行使することを諦めたわけではなさそうだ。いろいろ見えすぎることでの葛藤は続きそうだが、本人が言うように難局はウェルカム。あらゆることをエネルギーに替えて、この先も自らを動かし続けるのだろう。

(取材・文:西部謙司)

※中村俊輔選手のロングインタビューは5月6日発売の『フットボール批評issue16』に掲載されます

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