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日本で暮らす「朝鮮籍」=北朝鮮国籍、ではないという事実―なぜ彼らは「朝鮮籍」にこだわったのか?

ダ・ヴィンチニュース 4/19(水) 6:30配信

 彼ら彼女らの声を聞きとるべく東奔西走したのは、フリージャーナリストの中村一成(いるそん)さんだ。中村さんは祖国とは何かを相手に問うことで、「国民国家では割り切れない、人間としての実存」を描き出している。

 この本に登場する6人はいずれも、1920~40年代に生まれている。いわば植民地時代に帝国日本の「臣民」として生まれた朝鮮籍者なのだが、日本人教師による壮絶な虐待や学校でのいじめ、アイデンティティの危機や暴力をともなうイデオロギー闘争などをくぐり抜けている。しかし決して、彼ら彼女らの人生は悲惨なだけではない。

 たとえば『生きることの意味』(筑摩書房)で日本児童文学者協会賞を受賞した作家の高史明(コ・サミョン)さんは、極貧の中で彼を必死に育てた父や、創氏改名の時代にもかかわらず民族名で呼び続けた日本人教師など、自身に愛情を注ぐ相手と出会えている。喧嘩と悪さに明けくれ、「ゴロツキ生活」を送った朴鐘鳴(パク・チョンミン)さんは、民族教育の現場で教鞭を執る中で、「私自身がそんな清冽で立派な人間でないけれど、せめて考えることはきちっと考える自分でありたい」と思うようになる。ここでは詳しくは触れないものの、それぞれが誰かや何かに依存することなく自身で道を切り拓いていく過程の、コントラストの鮮やかさには目を奪われる。

 しかし同時に、ほんの少しだが不安も感じた。DPRKへの悪意が渦巻く現在の日本では、彼らの真意が伝わらないのではないかと勝手な危惧を抱いてしまったからだ。1人でも多くの人に届いてほしい半面、彼らが毀損されてしまうぐらいなら書店の片隅にひっそりしていてほしい。こんな矛盾した思いを抱えてしまうほど読む者を惹きつけ、大事にしたくなる人生がこの本には描かれている。

 大声で主張する者の声を拾うのはたやすい。しかしともすれば語らないまま去ってしまうかもしれない人たちの言葉を集め、文章に刻む作業は根気がいる。その根気を保ち続けて1冊にまとめた、中村さんに心からの敬意を表したい。

取材・文=碓氷連太郎

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最終更新:4/19(水) 6:30

ダ・ヴィンチニュース