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直木賞・芥川賞 Wノミネートで注目を集める作家・宮内悠介インタビュー!新作は<20世紀最大の環境破壊>の現場から生まれたエンタメ小説

4/21(金) 17:00配信

otoCoto

デビュー作でいきなり直木賞にノミネートされただけでなく、昨年は『カブールの園』(文藝春秋)が芥川賞にノミネート、先月は『彼女がエスパーだったころ』(講談社)で吉川英治文学新人賞に輝き、いまもっとも期待される若手作家といえば、宮内悠介だ。

本日リリースされた新刊『あとは野となれ大和撫子』(KADOKAWA)では、中央アジア・アラル地域を舞台に、ある事件によって崩壊寸前に陥った国で、日本人少女・ナツキが仲間と一緒に暫定政権を立ち上げる――という壮大なエンターテイメント小説。「国家、やってみよう」と立ち上がった少女たちの青春譚をベースに、内紛で崩壊寸前の他民族国家を平和な共同体へ“テラフォーミングする”という思考実験かつ意欲的な試みは、いかにしてロジックから物語へと変貌を遂げたのか。


――“国家をつくる”という壮大な思考実験であり、エンターテイメント小説ですね。着想はどこにあったのでしょうか。

数年前に、たまたまある夢を見たのでした。それというのも、アラビアンナイト的な世界で内紛が起きて、後宮の女性達を残して、根性のない男たちが国外逃亡をしてしまう。そこで残された女性たちが「自分たちが頑張らなくては」と国を運営していくという、そのものズバリの夢でした。

――実際に“これは小説になる”という手ごたえを感じられたのはどのタイミングでしたか。

実は、アラル海という今回の舞台に、ずっと憧れを抱いていたのでした。「いつかその海を見てみたい、そして書いてみたい」と。それが、後宮の女性たちが国を立ち上げるという夢と重なってからです。

――アラル海は本作で大きなモチーフになっていますね。どんなところに魅かれたのでしょうか。

かつてアラル海は、世界第4位の広さを誇る湖だったのですが、スターリンの大規模灌漑政策で干上がりつつあります。塩害が畑を荒らしたり、数多の漁村が廃墟となっただけでなく、濃縮された農薬や、ソビエト時代に建造された生物兵器工場の汚染などが舞い上がって、<20世紀最大の環境破壊>とまで呼ばれていました。ですが、今は北のほうに小さくですがダムを作りまして、その北側は水位が戻ってきて、魚も戻ってきています。南側はほとんど干上がりつつあるのですが。

――深読みかもしれませんが、なんだか世界の縮図みたいですね。

そうなのです。北側は水が戻って来て、あたかも南北それぞれに絶望と希望があるようで。それがとても象徴的だと思いましたので、いつかここを舞台に小説を書いてみたいと。また、南北に分断されたアラル海の両方を実際に見てみたいとも思っていました。

――実際に干上がった水がまた戻ってきているというのが、本作の中で印象的なモチーフになっていました。実際に取材に行かれたのですか?

2015年に、1か月をかけて、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、そしてタジキスタンと、ロシア語の会話帳を片手にひとりで中央アジア諸国を周りました。南側が干上がってしまう前に目にすることができたアラル海は、透明度の高い、静かな海でした。ゴミひとつない、きれいな海でもありました。私は膝小僧まで浸かっただけですが、塩分濃度が現状で海水の5倍、死海の5分の1ということで、あとから来た観光客が奥まで浸かっていったところ、身体がぷかりと浮かんでいました。

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最終更新:4/21(金) 17:00
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