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自殺と保険と景気の“悲しい関係”

4/22(土) 5:00配信

オトナンサー

「自殺では生命保険の保険金は支払われない」

 そう思っている方が多いようですが、これは正解でも、誤りでもあります。多くの保険会社には、2年もしくは3年の「自殺免責」というものがあり、加入後、この期間内に自殺した場合、保険金は原則支払われません。しかし、この免責期間を過ぎれば支払いに応じてくれます。

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延長と短縮を繰り返す免責期間

 実は、この免責期間については、過去に何度も変更されています。戦前までは「1年」でしたが、戦争末期に「2年」になり、それが1970(昭和45)年ごろまで続きます。そして同年から保険各社が続々と「1年」に短縮しました。ところが2000(平成12)年前後には再び「2年もしくは3年」に延長され、現在に至っています。

 自殺免責は、「時間の経過によって気が変わるだろう」という発想に基づいています。つまり、自殺して多額の現金を家族に残そうと思い立っても、2年か3年、待つ間に状況が変わる可能性があり、また、その期間ずっと「死にたい」と思い続けることも困難です。自殺によって、すぐに高額の現金を得たい人にとって、2年、3年は高いハードルであり、自殺の抑止力となります。

 免責期間1年と2年、3年でどれくらい抑止力が異なるかを示すデータはありませんが、実際に、長ければ長いほど「保険金目当ての自殺」を防ぐ効果は高いと思われます。

 なお、この免責期間の延長・短縮は自殺者数の推移と関連があります。厚生労働省の「人口動態統計」によると、終戦間もない頃に年間1万3000人ほどだった自殺者はその後、増え続け、1958(昭和33)年には2万4000人前後になります。

 それをピークに、急激に減少へと転じ、昭和40年代初頭に1万5000人前後まで減ります。これは1954(昭和29)年に始まった高度成長によって、日本全体が裕福さを実感できるようになったことが要因でしょう。

保険金が自殺を後押しする可能性

 生命保険業界は1970年ごろから、免責期間を2年から1年に短縮していますが、実はこの頃から自殺者数は増え始め、昭和50年代に再び2万人台、1998(平成10)年には、年間の自殺者が初めて3万人を超えました。これは前年の山一証券破綻に象徴される「平成の大不況」の影響と思われます。

 1997(平成9)年に年間2万3494人だった自殺者は、翌1998年には3万1755万人と一気に増え、その後10年以上、毎年3万人を数えることになります。日本が「自殺大国」と言われる所以です。

 こうした動向に関連して、生命保険業界でも2000年前後に、免責期間を2年もしくは3年に延長しています。しかし、まさか保険各社がこれらのデータだけを見て免責期間を決めているわけはなく、2000年から数年間で、「1年待っても自殺して保険金を」という事例が増えたと推測できます。

 自殺目当ての契約は保険会社の収益を悪化させ、ほかの契約者への不利益にもなるため、保険会社としては何らかの対処をせざるをえない、ということでしょう。筆者自身も、「免責中」の自殺で保険金を支払えなかったことも、「免責後」の自殺で保険金を支払ったこともあります。あくまで個人的な見解ですが、免責期間中とはいえ、残されたご家族に「支払えない」と告げるのはとても心苦しく、つらい仕事です。

 また、当人の自殺とその後の家族の生活は別物です。万が一の時、家族を支えるために入った「保険」ですから、亡くなった以上は、支払うことが保険会社の存在意義なのではと思います。

 その半面、何もルールがなければ保険金目当ての加入が増えることは明白で、特に借金苦などお金が絡んだ悩みの場合、保険金が自殺を後押ししてしまう可能性すらあります。このバランスは極めて難しく、現状では免責2年、3年に落ち着いているのです。

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最終更新:4/22(土) 5:00
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