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文芸界の注目ジャンル!この春読みたい日本人作家のゾンビ小説5選

4/23(日) 8:30配信

@DIME

ゾンビ映画の発祥の地は米国だが、ゾンビを題材とした書籍も主に米国で生み出されてきた。映画と違い、出版界にゾンビが地歩を占めるようになった時期は意外と最近のことで、21世紀に入ってからである。コミックの『ウォーキング・デッド』(R・カークマン)が大当たりして、多くのゾンビものコミックが刊行されたが、もう1つの大きな潮流がユーモアやパロディのカテゴリーに入る、様々雑多な読み物。その先駆けとなったのが『ゾンビ・サバイバルガイド』(M・ブルックス)で、200万部を超えるベストセラーとなった。本書は、ゾンビが発生した時の避難方法や戦闘術について解説した、エンタテイメント性豊かな「実用書」で、これもあまたの類似図書が出回るほどのブームを巻き起こした。今では、『ゾンビ俳句』とか『ゾンビの生態学』など斜め上を行く企画物も含め、400点以上が刊行される売れ筋ジャンルとなっている。

【写真】文芸界の注目ジャンル!この春読みたい日本人作家のゾンビ小説5選

処女作である『ゾンビ・サバイバルガイド』の数年後、M・ブルックスが満を持して上梓したのが『World War Z』である。これはゾンビの世界的なパンデミックが鎮静してから10年後、国連職員が生き残った人々へのインタビューを書きとった「オーラルヒストリー」という形式の小説である。「あまり売れない」と予想した担当編集者の読みははずれ、世界的なメガヒットを記録し、のちに映画にもなった。『World War Z』は、「ゾンビ文学」という文芸界の新たな分野を生み出し、例によって多くの作家がゾンビ小説を世に送り出しはじめた。

米国のこうしたトレンドを受けて、日本の出版界がゾンビ小説を出し始めたのは、ここ数年のことである。現状、本格的なゾンビ小説はまだまだ少ないが、芥川賞・直木賞作家も参入するなど、大きなうねりとなりつつある。今回は、日本人作家によるゾンビ小説の中から5本をピックアップし、おすすめとして紹介したい。

●『アイアムアヒーロー THE NOVEL』(朝井リョウ、中山七里、藤野可織、下村敦史、葉真中顕、佐藤友哉、島本理生/小学館)

ゾンビもののコミックとして最も成功した『アイアムアヒーロー』の映画版公開に合わせて刊行されたアンソロジー。気鋭の作家7人が参加して、原作のスピンオフ的な内容の短編小説が収録されている。原作の主人公である鈴木英雄ほか、主要登場人物が出てくる作品もあれば、まったく異なるキャラと舞台設定のもと、「ZQN」(原作でのゾンビの呼称)に支配されようとしている世界を描いた作品もある。基本的に原作コミックを読んで背景知識を持っていることが前提だが、そうでなくともそれなりに楽しめる。スプラッター表現は抑制されているが、独特の文体とストーリーラインに引き込まれることうけあい。

●『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』(羽田圭介/講談社)

『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞した羽田圭介の次の作品が本作で、初出は文芸誌『群像』の連載である。それをまとめたハードカバー版は、400ページ超のボリュームがある。読み始める前は、何らかの社会現象をゾンビパンデミックに仮託した、理屈っぽい純文学かと半ば予想するものの、実際はゾンビ小説の王道をゆくエンタメ作品であることに驚く。世界中でゾンビが発生し始めてから1か月ほど経った日本が舞台で、主要登場人物は10年以上も鳴かず飛ばずの小説家K(あきらかに著者本人がモデル)、大手出版社の編集者須賀、寡作小説家の桃咲カヲル、小説家を目指すも自作持ち込みが全敗の南雲晶、区役所の生活保護相談窓口の新垣といった面々。

本作は、ゾンビに噛まれてからかなり長い日数が経たないと、ゾンビ化しないという設定が肝。そのためゾンビが増殖し社会秩序が崩壊するまでの期間が長く、あちこちでゾンビが徘徊していながら、人々は日々の生活に忙殺されているという奇妙な世界が描かれる。冒頭で、小説出版界の赤裸々な実態が語られるが、やがてそれは鳴りをひそめ、ゾンビとの攻防戦がメインとなってくる。かつての生活保護申請者がゾンビ化し、大挙して区役所に押し寄せ、区役所職員と壮絶なバトルを繰り広げるところなど、手に汗にぎる展開があり、無人のスーパーで食料品を漁ったり、生き残りの強者がちょっとした王国を築いているなど、ゾンビ作品のお約束がしっかり盛り込まれているところなど、ゾンビファンに嬉しい展開となっている。

●『キッド・ザ・ラビット ナイト・オブ・ザ・ホッピング・デッド』(東山彰良/双葉社)

長編『流』で直木賞を受賞する少し前に書かれた作品だが、受賞作品とは全く異なるトーンの小説。擬人化された野ウサギたちの世界でゾンビウサギが集団発生し、生き残ったウサギがサバイバルを繰り広げるというもの。『カエルの楽園』(百田尚樹)のような寓話性はなく、グロ表現がかなりあるため児童文学でもない不思議な作品だが、妙にハードボイルド的な表現が散りばめられているので、大沢在昌や大藪春彦といった作家を好む層を狙ったのかもしれない。一方で、主人公のウサギが病室で昏睡から目覚めるところから始まるシーンがあったりと、『ウォーキング・デッド』へのオマージュもあるなど芸が細かい。

●『不死症』(周木律/実業之日本社文庫)

2013年に『眼球堂の殺人』(講談社)でメフィスト賞を受賞し鮮烈なデビューを飾った、新進作家による野心作。

廃村跡地に建てられた製薬会社の臨床試験棟が何者かによって爆破されるが、生き残った女性研究員をはじめとする少数の人たちは、新たな危機に直面する。その危機とは、ゾンビ化して生ける者を食らう、かつての製薬会社の同僚職員たちで、しかも敷地の外は自衛隊の戦車によって封鎖されているという、閉ざされた空間でのサバイバルが活写される。

ありきたりなゾンビとの戦いは最初のうちだけで、途中から今までのゾンビ小説にはない、ストーリーラインへと移行するため新鮮味がある。『ウォーキング・デッド』的な、正統派の展開に飽き足らない人におすすめ。

ただ、登場人物が、瓦礫と化した建物にいるかもしれない生存者を捜さない、誰もスマホを使わないといった、不自然さが散見されるのが残念。こうしたプロットの詰めの甘さが、ラノベファンの賛否両論を巻き起こすのだが、ヤングアダルト向けの小説として、個人的には許容範囲だと思う。

●『ゾンビ百人一首』上・下巻(青蓮/文芸社)

日本最大級の小説投稿サイト『小説家になろう』に投稿されていた作品を、2巻の書籍にまとめたもの。米国では、ゾンビの立場になって読んだ異色の俳句集が何冊か出ているが、こちらは百人一首の中身はそのままに、各短歌の解説文がゾンビアポカリプス下の世界で起きている事象を描いたものとなっている。例えば持統天皇の詠んだ「春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山」の解説が、「奴らが最初に現れたのは、まだ桜が咲いていた頃だろうか。そして桜の花が木を埋め尽くすように、街は奴らで埋め尽くされた(以下略)」となっている。

解説文自体が、ちょっとしたショートショート小説になっているが、惜しむらくはあまり百人一首との文脈的なからみがない点がマイナス。しかし、このくらいの短さのゾンビ小説集は他に存在しないので、希少性の面で評価したい。

文/鈴木拓也

@DIME編集部

最終更新:4/23(日) 8:30
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