ここから本文です

環境・資源・社会の危機を救う、新たな“脱成長”の経済学「自然資本経営」とは!?

4/24(月) 16:20配信

HARBOR BUSINESS Online

 いま「自然資本経営」という新たな経済学が、環境破壊や資源枯渇、格差拡大などの諸問題を解決する一つの方法として注目されている。その分野で日本の第一人者と言われる、資源・環境ジャーナリストの谷口正次氏に話を聞いた。

◆自然を“資本”とみなし、バランスシートに組み入れる

――谷口さんが提唱されている「自然資本経営」とはどういうものですか?

谷口:西洋化された近代産業社会では、自然は支配・利用すべき単なる“もの”として扱われ、自然から与えられた恵みは人間の“所得”とみなされます。本来、人類の生存基盤である自然という“資本”の消耗が進んで限界(破産)が近づいているということは、人類にとって重大な問題のはずです。この資本が欠如して経済成長など望めるはずがありません。そうだとすれば、“自然という資本”を浪費して消耗することなく、賢く経営していかなければならないはずです。

 その賢い経営の方法とは、企業経営(Business Management)という狭義の経営ではなく、自然を資本とみなし、バランスシートに組み入れた経済を築くこと(Building a Natural Capital Economy)なのです。そのためには新しい経済学、すなわち「自然資本経済学」が必要だと考えています。

 自然を“資本”とみなすことに対して違和感、抵抗感を持つ人は多いかもしれません。しかし、もうそうは言ってはいられないほど世界では資源や環境そして社会の危機が進行しています。

――いつ頃からこういった考え方が出てきたのですか。

谷口:最初に「自然資本」という言葉を使ったのは、エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハーが1973年に書いた『スモール・イズ・ビューティフル』の中だと言われています。最近になって、この「自然資本」という言葉が持続可能な発展の論議の中でよく聞かれるようになってきました。

◆自然資本には、経済学が捨て去った「人間性」も含まれる

――「自然資本」の定義とは何ですか?

谷口:経済学では、いまだはっきりした定義はなされていません。私は、人工物と労働力としての「人的資本」以外のすべてと考えています。地球上の生物圏にあるものと地殻にあるもの。前者は「環境」、後者は「資源」と呼ぶこともできると思います。水、土地、土壌はもちろん、地球の大気圏にある風力や太陽光といったものも自然資本とみなしてよいと思います。そしてもう一つ重要な自然資本として、シューマッハーのいう「人間性」(human substance)とその文化・伝統・精神性を、生物圏の中の一員として加えたいのです。これらは、経済成長ばかりを目指すいまの主流派経済学からは「価値のないもの」として無視されてきました。

◆主流派経済学者はいまだに経済成長を煽り立てている

――谷口さんはその自然資本の消耗を、これまで現場で見続けてきたわけですね。

谷口:資源採取の現場で破壊される環境、その土地の住民あるいは先住民族の伝統文化や人権問題等、もういやというほど見てきています。これからは、人類の貴重な生命維持装置である自然資本を無制限に消耗して人工資本に変えてしまうのではなく、賢く利用しなければなりません。すなわち自然資本の“経営”を行い、ストックを「富」として殖やしていかなければならない時代にきています。

 自然資本経営を行うということは「これまでの物質主義、成長至上主義の消費拡大文明から脱出する」ということです。つまり、産業革命以降約300年続いてきた古典的な産業資本主義、そして近現代の金融帝国主義やマネー資本主義から脱却しようということなのです。

 それにもかかわらず、世界を支配している主流派経済学者はいまだに自然資本(資源と環境)ストック(資産)の有限性を認めようとしません。それどころか、いまだに「経済成長が必要だ」と煽りたてています。そこには「将来世代のための持続可能な消費」などという考え方はまったくない。「脱成長」こそ自然資本経営の目的ですが、世界を支配している経済学中心主義・経済発展主義そして進歩史観を生み出す全体主義によって阻まれているのです。

◆日本は「富」の棚おろしを

――そんな時代に、日本はどうしていくべきとお考えですか。

 日本は2015年にいよいよ人口減少に転じ、さらに少子高齢化が拍車をかけています。好むと好まざるとにかかわらず、これまでの成長至上主義、経済発展主義路線にしがみついて、経済大国だと大見栄を切り続けたところで持続不可能なことは、多くの人が感じ始めているはずです。

 いまこそわが国の「富」の棚おろしをして、国家戦略として最適な自然資本主義経済モデルに向かって経済、社会システムを再構築するときではないでしょうか。その「富」とは、生物多様性・生態系、水資源、土地、風土・景観、海洋資源などの自然資本。教育・技能・暗黙知・健康など高品質の人的資本。そして高度経済成長期からこれまでに蓄積された膨大な人工資本。すなわち包括的な「富」です。それに、縄文時代から1万年続く文化・伝統・人間性も大切な資本です。

 もう、外国の自然資本に依存して、自国の地理的な扶養力をはるかに超える経済を持続・成長させるというのは無理なことなのです。このことに早く気づかなければ、経済的な破滅どころか、人類社会の破滅がくることは避けられないでしょう。

<取材・文/HBO取材班>

【谷口正次】資源・環境ジャーナリスト。NPO法人 ものづくり生命文明機構副理事長、サステナビリティ日本フォーラム理事。小野田セメント(現太平洋セメント)専務取締役時代に循環型社会を目指して環境事業部を立ち上げ、産業廃棄物・一般廃棄物をセメント原・燃料とするなどの事業を推進。その後は屋久島電工社長として水素社会への転換を推進、国連大学でゼロエミッション・フォーラム産業界代表理事を務めるなど、一貫して地球環境問題に取り組んできた。2014~2016年には京都大学大学院経済学研究科特任教授として「自然資本経営論」を共同研究。4月30日に『経済学が世界を殺す~「成長の限界」を忘れた倫理なき資本主義』(扶桑社新書)を上梓の予定。

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:4/24(月) 16:20
HARBOR BUSINESS Online