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いま世界でいちばんイカしているクルマ

4/27(木) 21:31配信

GQ JAPAN

大量生産された古いクルマが、転じて最新のアイコンに。唯一無二。ある意味究極の解体サービス。改造再生車製作スタジオを訪ねてカリフォルニアへ。(『GQ』UKより転載)

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Words: Matthew Jones
Photos: Scott Dukes
Translation: Keita Mori

■棄てられたクルマこそイケてる

”遺棄系”のクルマがすごくアツい。ウォール・ストリートやシリコン・ヴァレーの方面で注目されているし、一部の超イケてるマインドの人たちも興味湧きまくりだ。中身は最新テクノロジーとはいえ、ずっと長いこと棄てられっぱなしみたいな外観は、投資対象になるクラスのクルマのなかではアンチテーゼもいいところ。でもそのワケのわからない感じもふくめて、いま世界でいちばんイカしている。楽勝で最高。

”遺棄系”のクルマを作っているのは「アイコン」。ロサンゼルスのチャッツワースにある。そこはカルデサックのローライズをはいたやつらが住んでいるようなところだ。アダルト産業地域もすぐ近くにある。アイコンは、トヨタの古いランドクルーザーを新しいイメージでリサイクルしたブランドとして有名になった。名声を得た。年式はヴィンテージでも、メカニカル系はいまのもの。インテリアもアップグレードしてある。コンディションは新車そのもの。いわゆるレストモッド系だ。だがCEOのジョナサン・ウォードにいわせると、レストモッド系にはちょっと難点がある。「バリバリにキレイに仕上がったクルマにキズをつけるのがこわくて、おいそれとは乗れないんです。それはちょっと……」ということで、
”遺棄系”。21世紀のクルマの感覚でドライブできて、でも見た目は年代モノ、時代モノ。それもボロくなればボロくなるほどかっこいい。

どこかの納屋で古いクルマを見つけてきて、それに新しいエンジンを載せる。そういうとまあ簡単なことのように思えるが、アイコンの仕事をナメてはいけない。なにしろ発見されたときから一切なにも手をつけなかったかのように見えるクルマに仕上げるというのだから、ハンパではない。写真の1946年型オールズモビルもそんな”遺棄系”の1台で、仕入れたその足ですぐに立体スキャナーにかけられた。で、3Dのワイアフレームのデータを作製。それから走りのメカニカル系やデジタルオーディオやエアコンを組みこむ。もちろん、すべていまのものだ。コネクティヴィティも重量配分もバッチリで、しかもどこから見ても古いまま、ボロいまま。最新の機器類は奥のほうの隙間に詰め込まれる。見えてしまったら台なし。見事なお手並みだ。

アイコンの作ったクルマは、眺めると、時代のついたステキな彫刻作品である。でも機能は完璧。細部の細部まで考え抜かれた仕事だ。この46年型のオーナーはアップルの上級技術者で、それこそエアコンのスイッチのノブにいたるまで「こうでないといけない」という明確なヴィジョンをもってクルマを発注してきた。そのエアコンのノブは、回すとクリック感がある。実現するための研究開発に6000ドル(約67万円)かかったという。「商売のことだけを考えたら、こんな仕事は最悪ですよ。でも、それをやったからこそ、ウチが注目されたんですけどね」。

■ナイキ、J.クルーなどなど

”遺棄系”の第1号は1952年型のクライスラー・タウン&カントリーで、ウォードは「ジョークのつもり」で作ったという。ところがそのクルマがカリフォルニア・アートセンター・デザイン大学賞をとってしまい、それがナイキの目に止まった。ナイキは常時、新たなクラシック物件を探してまわっている。そして見つけたら、製品開発部門に知らせる。ということで、お呼びがかかった。デザインショーにアイコンのクルマを展示させてほしい。独自の考えかたにもとづいてインダストリアル・デザインをやっているナイキのお眼鏡にかなった逸品として。「”遺棄系”に乗っているかたが、ナイキにも1人。我が社の顧客リストはなんとも広汎なものになっているというわけです」。

アイコンの顧客リストのなかにはJ.クルーのデザイナーの名前がある。ウォール・ストリートの金融会社の役員もいれば、外国の王族もいる。それと、州知事が「少なくとも2人」。いろんな職業の人がいるわけだが、いずれにせよ、稼ぎがよくないとアイコンからクルマを買うことはできない。なぜなら”遺棄系”
は安くないから。スタート価格は25万ドル(20万500ユーロ/約2800万円)で、ここに写真が出ている1946年型だと35万ドル(28万ユーロ/約3900万円)。ウォードによると、100万ドル(80万ユーロ/約1億1200万円)も「別に全然」普通だという。「お客さんのなかにはセレブリティや有名スポーツ選手もいますが、でもそのテの人たちはたいがい、まだフェラーリやランボを買っていますね」。

”遺棄系”のクルマがオシャレ界のリーダーたちの性感帯をビンビンに刺激しているかというと、必ずしもそうではない。どちらかというと、ポストモダンなラグジュアリーのお手本や規範となるものとして注目されている。他をもって代えがたいところやその完成度の高さが何にも勝るということで、高い評価を獲得している。ベゼルの色あせたロレックス・サブマリーナのほうが、ピカピカにレストアされたのよりも価値がある。そういうのと同じく”遺棄系”のクルマは1台1台どれもが唯一無二の存在で、時代がかった感じを完璧に複製することはできない。だから全体として、パーツ代を合計したよりもはるかに高い価値がある。スーパーカーを買ったところで、そのスーパーカーはオーナーの人となりに関してほとんどなにひとつ語ってはくれない。周囲に金持ちだとわからせるだけ。でも”遺棄系”は違う。もっと雄弁だし、そうでありながらも露骨な見せびらかしにはなっていない。スーパーカーよりも控えめ。だからポストモダン・ラグジュアリーの規範となりうる。

とはいえ、錆びた古いクルマならなんでもいいというわけではない。そしてウォードによると、顧客がベースの車両を持ち込むケースは「まずない」という。彼らはコンセプトを決めてくる。アールデコ様式の自宅に似合うクルマをというわかりやすいコンセプトもあるが、なかにはもっと抽象的なのもある。「クリスマスのときの祖父母を思い出させてくれるクルマを作ってほしい、なんていうお客さんもいましたよ」。アイディアが決まると、全国規模のネットワークを駆使して”ハンター”を動員する。建築家だったりガソリンスタンドのメカニックだったり農場主だったりUPSの宅配ドライバーだったり、普段の仕事はいろいろだが、彼らがしかるべきクルマを見つけてくる。「車種はなんでもかまいません。ただし、それを見て自分が燃えられるようなのじゃないとダメですね。どういうクルマに仕上げるかのヴィジョンは、個々のベース車次第で決まってきます。だから1台1台、違うんですよ」。

■マスタングよりマーキュリー・エイト

アイコンで取り扱うのは古いクルマだが、ウォードの考えかたはある意味進んでいる。「年代が新しくてベタなクルマ、たとえばマスタングとかは、ウチではやりません。もっとこう、ビジュアルだけでもすでに興奮モノで、乗ればさらにサプライズがあるような。そういうクルマなら、降参しちゃいますよね」。次のプロジェクトは納屋で眠っていた系の1949年型マーキュリー・エイトで、なんと動力機関を電化するという。ロングレンジのバッテリーや回生ブレーキをふくめてテスラ用で、2つの駆動モーターの最高出力は合わせて800bhp……ということは、テスラのモデルSよりも110bhpアップ。「そこまでやって、でも見た目は内外とも、まんま49年型マーキュリー。停めてあるのを眺めたって、電気自動車だなんてわかりません」。

中身がハイテクでちゃんと実用になるクルマとはいえ、冷静に考えたら”遺棄系”はなしだろう。なにしろ、それ1台の値段でスーパーカーとステキなクラシックカーが買えてしまう。それがわかっていてもなお、最先端のアンティークがいい。世の中に同じものが2台とないクルマがほしい。ラグジュアリーとはそういうものだし、アイコン製の”遺棄系”再生車は、納屋から原石を引っ張り出してくるのが間に合わないぐらいよく売れている。

最終更新:4/27(木) 21:31
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