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サイコロを振って北朝鮮問題を考える(後編) - パトリック・ハーラン パックンのちょっとマジメな話

4/28(金) 17:40配信

ニューズウィーク日本版

<北朝鮮問題をシミュレーションで考える、その後編。米軍から先制攻撃をしないケースでも北朝鮮の核開発を阻止するという目的ははっきりしている。しかし問題を先送りにすればそれだけリスクは高くなる>

前回は、アメリカが北朝鮮に対して先制攻撃を行った場合の成功と失敗のシナリオをサイコロを投げながら考えた(お読みになっていない方はこちらからどうぞ)。

今回は先制攻撃をしなかった場合のシミュレーションに取り掛かろう。まず、攻撃以外の手段を使っても、対北朝鮮政策の目的ははっきりしている。

◆経済制裁や外交の働きで北朝鮮のミサイル・核開発を凍結させることができる

大当たり! サイコロを投げてこれが出たら、宝くじに2度当たった気分だ。しかし、クリントン、ブッシュ、オバマと、アメリカの3政権にわたってこのサイコロを投げ続けてきたが、いまだに当たり目は出てこない。

軽水炉の建設、重油の供給や支援金の提供などの「アメ」も、経済制裁、国際社会からの孤立化、最新鋭迎撃システム「THAAD(高高度防衛ミサイル)」の配備などの「ムチ」も効いていない。もちろん、米国側が合意の内容を守らなかったという指摘もあるが、交渉の結果はいつも空しいものだ。このサイコロは裏目しかないのかと思うほど。

もしかしたら、トランプの強硬な姿勢や予測不可能な言動は「狂人論」の作戦通り、中国に重い腰を上げさせる効果はあるかもしれない。北朝鮮の生命線を握る中国が本腰を入れれば結果は変わるはずだ。そう期待している人は多い。ただ、この「制裁・外交のサイコロ」を繰り返し投げている間、ミサイルと核の開発は進む一方だ。

【参考記事】サイコロを振って北朝鮮問題を考える(前編)

そこで考えないといけないのは、金正恩がゴールとして挙げている核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイルができ上がった後のこと。実はこの段階にも救いのチャンスがある。

◆冷戦時代でおなじみの「相互確証破壊」状態になり、勢力均衡がとれる。つまり北朝鮮はアメリカを敵対視しても、核保有国同士として対等な立場を獲得し、脅威に感じなくなることで平和主義に舵を切って国際社会への復帰に努める

絵空事に聞こえるかもしれないが、可能性はある。北朝鮮側もこれが狙いだと見る人もいる。核ミサイルが完成したら、このサイコロを投げてみるしかないのかもしれないが、外れた時の展開は実に恐ろしい。

◆北朝鮮が核ミサイルをシリアやイランなどの国へ輸出する
◆北朝鮮が核ミサイルをISIS、アルカイダ、ハマスなどのテロ組織に売却する
◆アメリカが無力に見える上に、核保有国の数が増えることで一極体制の国際情勢が崩壊する

アメリカはこんな展開を最も恐れているはず。「核ミサイルを開発途中の国が1つある」という現状と、「核ミサイルを保有する敵国や敵対組織が複数ある」というシナリオとの脅威度は全く違うもの。



しかも、その時点で北朝鮮の反社会的行為を正す手段はほとんどない。核ミサイルを持つ相手に、軍事行動だけではなく、強硬な制裁もなかなか実施できない。第二次大戦前にアメリカが日本への石油供給を止めた歴史をみてもわかるように、経済制裁も戦争のもとになりうるからだ。

そうしたら、北朝鮮の暴走を止めるため、またアメリカが単独で武力行使を考えないといけない日がくるかもしれない。しかし、北朝鮮の核武装が完成した後に攻撃をした場合、いま先制攻撃するよりも成果を得る確率が低くなり、失敗したときの被害は想像を絶するほど恐ろしいものになる。報復攻撃から始まるのは戦争ではなく、核戦争になるからだ。

現段階での先制攻撃は数百万人もの命をかけるギャンブルになるが、後で同様の攻撃を行うと何千万人もの命をかけることになる。しかも今なら北朝鮮だけだが、先送りにした後は同じ賭けをシリアでもイランでも繰り返さないといけない可能性もある。どの段階でも「リスク対リターン」の計算になるが、「朝鮮半島の安定と非核化」というリターンは変わらず、先送りすればするほどリスクが高まるのだ。先送りすることも大きなギャンブルだろう。

これがタカ派の主張だ。

【参考記事】北朝鮮危機のさなか、米空軍がICBM発射実験

ハト派は(僕自身もその1人だが)この見方を理解しておかないと、議論が罵り合いで終わってしまう。トランプは非常識人ではあるが、常識人であったとしても早い段階の先制攻撃を進める可能性がある。

あなただったら、どのタイミングでどのサイコロを投げますか?

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パトリック・ハーラン

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