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奇想天外でユーモアたっぷりの日常系忍者小説! 現代人が学ぶべき忍者の心得とは?

4/28(金) 16:40配信

Book Bang

引きこもりの青年が忍者一家に婿入り!?
仁木英之さんの新刊は、
奇想天外でユーモアたっぷりの日常系忍者小説です。
忍者研究家の一面を持つ中島篤巳さんとの対談から見えてきた、
現代人が本作に学ぶべき忍者の心得とは。

忍者の世界に迷い込むという“受け皿”があったら

仁木 中島先生が現代語訳された『完本 万川集海』の刊行は、ちょうど『立川忍びより』の連載が始まる直前で、情報を得たときは「ついに!」と飛びつきました。

中島 光栄です。思いのほか反響が大きく、ありがたいことに現在四刷だそうです。

仁木 忍者ファンならば誰もが待ち望んでいた一冊ですからね。忍者の生態について総合的にまとめた資料というのは、これまで実はあるようでなかった。忍者小説を書くにあたって、中島先生のほかに、忍者研究家の川上仁一先生、山田雄司先生の本を読ませていただいたんですが、やっぱり『万川集海』は伊賀・甲賀忍術の集大成なので、その全容がわかるのは大変ありがたかったです。しかも完訳のみならず原文も掲載されているという。

中島 それはね、逃げです(笑)。私一人ではすべてを理解しきれませんから、原本もあわせてご自身で解釈なさってくださいという。当時の生活には非科学的な習慣や思想も入っていますし、本当はどうだったかなんて、なかなかわからないんですよ。

仁木 新刊『忍者の兵法 三大秘伝書を読む』では、『万川集海』と『正忍記』にくわえ『忍秘伝』もひもといてらっしゃいます。これで三大秘伝書が現代の世に出そろうわけで、大変意義深いことだと思います。先生はそもそも、どういうきっかけで忍者研究の道に入られたんですか? 

中島 子供の頃、杉浦茂さんの漫画『猿飛佐助』に出会い、感銘を受けました。四十歳になり、自分は社会に何を返せるだろうかと考えたとき、「人生でいちばん世話になったともいえる佐助が口にくわえていた、あの巻物をひもといてやろう」と思いついたんです。古文書なんて触ったこともなかったのに、いきなり『正忍記』を訳し始めたので、髪が真っ白になりましたよ。

仁木 『猿飛佐助』のどういうところに感銘を受けたんですか? 

中島 言霊ですね。あのまるっこくて可愛い絵と、その中で紡がれる物語に宿っていた言霊が、私に夢を与えてくれた。先生の作品も同じです。今回、新刊を読ませていただいて、似た思いを抱きました。

仁木 わあ、ほんとですか。嬉しいです。

中島 主人公の多聞はブラック企業勤めで心の折れた青年で、親の借金のカタに藤林家に婿入りすることになりますね。相手は友人・三太の妹で、実は彼らは忍者一家だったわけですが、現実社会と、忍者と関わる不可思議な世界を行ったり来たりしている多聞の描写が実に見事で。二つの世界の境界が自然に溶け合いながら物語が進んでいく。大変面白く拝読いたしました。

仁木 会社勤めをしていると、心が折れていなくなってしまう方が時々います。会社を去った彼らに、忍者の世界に迷い込むという受け皿があったらどんなに楽しいだろうと思ったんですよね。忍者の末裔が、生業を変えずに現代も息づいているとしたら、きっと僕らの目には見えない道を歩んでいるはずですし、社会人として挫折してしまった多聞が忍者稼業に足を踏み入れるというのはどうだろう、と。

中島 私は外科医なんですが、多聞のような方を診ることもままあります。彼らは会社から逃げ出せたとしても、簡単には立ち直れないんです。家庭からは逃れられませんからね。「夕飯に何を食べたい?」という質問さえも心に負荷をかけてしまうので、とにかく何も考えないことが大事なんですが、それがなかなか難しい。その点、多聞はあれよあれよという間に藤林家に飲み込まれ、考える暇もなく道を示される。だから静かに立ち直っていけるんです。自分はこれでいいのだ、と。その結果迎えたあのラストには、心を打たれました。

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最終更新:4/28(金) 16:40
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