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復讐を、煽るか、消すか――『鎮憎師』刊行エッセイ 石持浅海

4/28(金) 8:00配信

Book Bang

ミステリにおいて、最もよく使われる殺人の動機は「復讐」でしょう。復讐には奇妙な説得力があって「やめろ、復讐は何も生み出さないぞ」といった否定の科白すらも、読者の復讐への共感を生み出す道具になります。実際僕も、殺害動機のかなりの部分を復讐に受け持ってもらっています。

 黄門様の印籠のような復讐を、新しい切り口で描けないか。そんなことを考えたときに、最初に浮かんだのは復讐の正規化です。現代社会に仇討ち許可制というルールをひとつ加えて、親しい人を殺された復讐者が仇討ちするための環境を整えてあげる「仇討ちコーディネーター」というキャラクターを作れば、面白い話が書けるのではないか。意気揚々と物語作りに取り組んだのですが、うまく進みません。考えてみたら仇討ちコーディネーターは復讐者に復讐対象を紹介する仕事になるので、結局は犯人捜しの探偵役になってしまうんですね。これでは普通のミステリと、何の変わりもありません。まずい。企画を変更しなければ。

 色々考えた挙げ句に辿り着いたのは、復讐の全否定でした。ここまで復讐がミステリ読者に浸透しているのであれば、復讐させないことが、かえって新鮮に映るのではないか。とはいえ、復讐者を主人公にして、いろいろあった挙げ句に復讐をあきらめる話なら、過去にいくらでもあります。逆に復讐者を徹底的に茶化して邪魔する話も、読者が不快になりそうで、よくありません。そこで復讐者の復讐心を尊重したうえで、復讐を自主的にあきらめさせるキャラクターを作ることにしました。最初に考えた仇討ちコーディネーターと真逆の行動を取る人物。犯人捜しする探偵役ではなく、復讐心を消す職人。それが鎮憎師です。

 復讐にまつわる普通のミステリと思って読んでいたら、いつの間にか違う話になっていた。読後そのように感じていただければ嬉しいです。

[レビュアー]石持浅海
1966年愛媛県生まれ。九州大学理学部卒。2002年『アイルランドの薔薇』で「KAPPA-ONE」より本格デビュー。近著に『パレードの明暗』『殺し屋、やってます。』など。

光文社 小説宝石 2017年5月号 掲載

光文社

最終更新:4/28(金) 8:00
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