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23時の赤坂で会う「ご飯友だち」ナンバーワンの男。私はなぜ、彼を好きになれない?

4/28(金) 5:20配信

東京カレンダー

夜更けの赤坂で、男はいつも考える。

大切なものができると、なぜこんなに怖くなるのだろう。

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僕はいつも同じところで立ち止まり、苦しみ、前を向こうとして、またつまずく。

41歳、テレビ局のプロデューサーである井上は、ひとりの女と出会う。

彼女の名前はハナ、29歳。ひと回りも年下の女だった。

井上の部屋に行っても、お茶だけ飲んで帰るハナ。あくる日、親友の葵と会った後、「お鮨が食べたい」とまた井上を呼び出した。

結局、井上が赤坂に着いたのは23時頃だった。

ハナが「鮨を食べたい」と言うので、井上の知る限りの鮨屋を当たったが、この時間に入れる店は少なく、深夜営業している店にも空きがないと断られてしまった。

仕方なく、ハナに「お鮨じゃなくてもいい?」と聞くと、

「やだ」

ときっぱり断られた。

井上の生活の中で、ハナの「やだ」に勝るものは今のところ、ない。

自分がハナよりひと回り年上だからといって、振り回されたくはない。ハナが優位に立つような力関係にしたくないのだ。だから、ハナに「やだ」と言われても、井上は一応の抵抗を試みる。

「…まったく。ハナはわがままだな」

そう言うと、ハナは決まってこう返す。

「わがままじゃないの。私は、自分の気持ちを正直に言ってるだけ。だって、井上さんにこうして、ああしてとは言ってないでしょう」

そのめちゃくちゃな論理に、思わず苦笑してしまう。

しかし結局、ハナは突然「焼肉が食べたくなった」と言い出し、深夜3時まで営業している『炭火焼ホルモン かぶん』にその場で電話した。

「空いてるって」

そう言って目を輝かせるハナのことを、井上は「悪魔だ」と思いながら、それでも文句も言わずについていくのだった。

店に着き、ハナはいつも通り旺盛な食欲を見せた。特製キムチに塩サラダ、厚切りのタン塩とカルビ、ハラミ、ショウチョウ、上ミノ、そして白いご飯。テーブルの上には、収まりきらないほどの皿が乗っている。

食べている間、ハナはほとんど喋らない。喋るのは、ほぼ井上だけだ。

仕事中はにこりともしない井上だが、プライベートは全く違う。歳の離れた姉が2人いることが影響しているのかもしれないが、実家の食卓は普段、とても賑やかだった。

一方のハナは喋らないだけではなく、基本的に何もしない。注文は井上に任せ、サラダが取り分けられるのを待ち、肉が焼かれるのを待つ。

しかし今日は、いつにも増してしゃべらなように思えた。いつもなら、井上の話に神経質なほどにきちんと相槌を打つのに、今日はどこか上の空だ。

「今日は、全然しゃべらないな。疲れちゃったか?」

そう聞いてもハナは何も答えず、大ぶりのシマチョウを口の中に入れた。

「…今日、葵と昼ごはん食べたの」
「葵ちゃん?あぁ、広告代理店の」

葵とは会ったことはないが、ハナの話に度々出てくるので覚えていた。

ハナは、極端に友だちが少ない。正確に言うと、友だちはそれなりにいるのかもしれないが、滅多に心を許さない質で、“親友”と呼べるのはきっと葵一人だけなのだ。

普段井上が何を言っても動じないのに、ハナは葵の言葉にはいちいち動揺するのだ。

「もう29歳なんだから、ちゃんとしろって言われた」

そういうことを言われるくらいだったら会わなければいいのに、と思いながらも口に出すわけにはいかなかったので、「女の友情は厄介だ」という無難な結論に落とし込んだ。

しかも、「ちゃんとしろ」って自分のことも含まれてるのかと思うと少し虚しい気分になり、それ以上その話題には触れなかった。

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最終更新:4/28(金) 5:20
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