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【テレビの開拓者たち(8)遊川和彦】「ドラマは脚本が一番大事。“逃げ恥”にはやられた」

4/29(土) 11:00配信

ザテレビジョン

'87年に「うちの子にかぎって…スペシャルII」(TBS系)で脚本家としてデビューし、以来30年間、ほぼ毎年、話題のドラマを手がけてきた遊川和彦。もともとは映画監督志望で、ことし1月に公開された映画「恋妻家宮本(こいさいかみやもと)」では、念願の長編映画監督デビューを果たした。そんな遊川に第一線にいるドラマの作り手として今、考えていることを語ってもらった。

【写真を見る】「主役がどんなにスターでも、脚本が悪かったら視聴率は落ちる」

■ 新しい挑戦をすれば新しい自分を発見して、そこからまた頑張れる

――映画「恋妻家宮本」には、ドラマ「女王の教室」('05年日本テレビ系)、「演歌の女王」、('07年日本テレビ系)、「偽装の夫婦」('15年日本テレビ系)でも組んできた天海祐希さんが出演されています。今回、なぜ天海さんを普通の主婦役にキャスティングしたのですか?

普通は頼まないですよね(笑)。僕も「偽装の夫婦」がなかったら、オファーする勇気がなかったかもしれない。でも、「偽装の夫婦」で、天海さんに沢村一樹さん演じる元カレと偽装結婚する孤独な女性を演じてもらったとき、どうしてもかっこよくなっちゃうんじゃないかと思ったら、その女性の弱さはかなさがすごく出ていたし、色気もあったので「これは主婦役でもいける」と確信しました。10年前、僕が「女王の教室」で異色の教師役をお願いしたように、天海さんはどうしてもスーパーキャラになってしまうので、彼女にとっての未知の分野である、“市井の人”という役どころで魅力を発揮してほしかったんです。

――「恋妻家宮本」のもうひとりの主演、阿部寛さんにも「これまで見たことのない阿部さんを」とオファーされたそうですが、俳優さんにあえてイメージにない役を演じてもらうということにこだわってらっしゃいますね。

よく映画でもドラマでも、「また同じような役をやっているな」と思う俳優さんがいますよね。あれはどうもオファーする側、オファーを受ける側の両方がさぼっている気がする。作り手は「この人にはこういう役が安全だから」、演じる方は「こういう役ならできるから」って…。これまでやったことのない難しい役をやったほうが、お互いに新しいものが発見できるのに。今は、手近に数字(視聴率)がほしい時代だからって、そうやって手近にやっているうちに、ドラマはどんどん衰退していく。そういう危機感があるので、活性化するために僕はあえて突進してやっていますけどね。自分の仕事として考えても、なぁなぁでやっていると、どうしても停滞してしまう。そうではなく、新しい挑戦をすれば新しい自分を発見して、そこからまた頑張れる。人間ってそうじゃないですか。僕は還暦を迎えましたが、年取ってもこの業界にいるので先陣切って新しいことをやるしかない。正直しんどいです(笑)。

■ まず「何のために作るのか」「何を伝えたいのか」が大事

――現在は、連続ドラマの平均視聴率が下がり、“ドラマ冬の時代”と言われています。その原因をどうお考えになっていますか?

だって、作り手が視聴者に背を向けて、上層部や芸能事務所の顔色ばかりうかがっているんだもの。それで「さぁ、ドラマを作りました」と言ったって数字は出ないですよ。身内である業界の方ばかり向いているんだから。逆に、視聴者の方を向き、上から言われて背後からバシバシ叩かれても、「うるさい。伝えたいことがあるからこれをやるんだ」と抵抗できる人こそが良いドラマを作れる。今のテレビ局員はエリートばかりで、失敗をしたがらないものだけれど、まず「何のために作るのか」、「何を伝えたいのか」ということが大事なんだって分かってほしいですね。

――そんな遊川さんから見て、伝えたいことを伝えようという心意気を感じるドラマはありますか?

'16年10月クールの「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)。あれは誰もが面白いって言うじゃないですか。正直、やられた感がありました。今の人間関係をリアルに描いていましたよね。今の人って、誰に対しても失礼がないようにはするけれど、自分のこととなると「これ以上入ってくるな」という感じになるじゃないですか。主人公のふたりが微妙に少しずつ近づいていくのが、うまかったですね。だから、見る人はみんな、自分の物語だと思って感情移入できる。あのTBSのチームは、その前に「重版出来!」を作って、あれも面白かったですね。「重版出来!」は視聴率が高くなかったけれど、見ている人には一生懸命作っていることが分かってもらえたから、次も見てもらえる。だから、新しい挑戰をしていったん数字悪いからってめげて、また視聴者にケツ向けて作ったらダメなんですよ。

――「逃げるは恥だが役に立つ」は、野木亜希子さんの脚本・脚色も高く評価されました。

やっぱり脚本が大事なんですよ。ドラマを作る人には、それを分かってほしいんだけど、なかなか分かってもらえない。脚本よりキャスティングのほうが大事だと思っている人が多いんです。でも、主役がどんなにスターでも、脚本が悪かったら視聴率は落ちますよ。逆に、どんなにキャストが地味でも、脚本が素晴らしく面白かったら、数字はそこから下がることはない。そして、「逃げ恥」のように次につながっていく。どっちが投資として正しいですかって、テレビ局の人に、特に社長に訴えたいですね。

■ 僕はどうしても悪いクセがあって、激しい過去とか激しいエンディングにしてしまう

――”逃げ恥”の内容を考えると、遊川さんが書いた「偽装の夫婦」も偽装結婚やセクシャル・マイノリティという題材で、共通するところが多いですね。

「偽装の夫婦」と「○○妻」は、僕なりに新しい結婚の形、今の人間関係ということを考えて作った。だけど”逃げ恥”を見ると、こうしたほうが若い人は見てくれたんだと思います。僕はどうしても悪いクセがあって、激しい過去とか激しいエンディングにしてしまうので(笑)。それで、「純と愛」で叩かれ、「○○妻」で叩かれ…。それらの作品は「現実はそんなきれいごとで終わらないんだ」ってことを言いたくて作ったドラマだったけれど、視聴者に嫌だと思われちゃうと伝わりもしないので、うまく最後まで見てもらった上でじっくりと伝わる方法も考えなきゃいけない。きっとドラマの神様がそう言っているんですね。

――作品に対する批判、感想などはチェックされているんですね。

自分がなんと言われているかは分かっていますよ。日々、勉強しているつもりです。だから、自分が問題意識を持つことと見る人を不快な気分にさせることはまた別の問題かなと、考えるようになりました。その意味で、「恋妻家宮本」は僕の新たな始まりでもあるし、原点に立ち戻った作品でもある。もともとは連ドラデビュー作である「オヨビでないやつ!」のようなコメディーをやりたかったんですから。だから、「恋妻家宮本」を見た人が「遊川さんらしくない」って言ってくれるのは、むしろ良いこと。心地悪い裏切り方をすると「また遊川が…」って叩かれるけれど、今回は心地良い裏切り方しかしていないつもりです。やっぱりドラマや映画を作るのは、知らない人を幸せにする仕事なので、そこは大事に考えつつ、でも、自分の中でやりたいことは表現できるように、これからはもっと洗練されたものを作っていこうと思います。

最終更新:5/8(月) 17:02
ザテレビジョン

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