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学校教育をめぐる誤解と謎(23)――行き過ぎは弊害も多い? 民間的手法の学校への導入

4/29(土) 11:01配信

教員養成セミナー

■更新が滞りがちな学校のホームページ
 全国各地の学校の大半は、自校のホームページを持っています。公開している情報は、学校の教育目標、校長先生の挨拶、学校の所在地、児童生徒数、年間行事予定、沿革などで、学校によっては日々の教育活動の様子などを写真入りでアップしている所もあります。そうした情報の数々は、その学校の保護者にとってはもちろん、これから保護者となる人たちにとっても、有益なものでしょう。

 ところで、学校のホームページを更新しているのは誰なのでしょうか。自治体や学校によって異なりますが、最もポピュラーなのは、ICTに詳しい先生が担当しているようなケースです。そのため、その先生が別の学校に異動してしまうと、誰も更新方法が分からず、古い情報のまま放置される…といったことが、以前は少なからずありました。中には、1年以上前の公開研究会の案内が「参加申込、受け付け中!」となったままの学校もあったほどです。

 最近は、ブラウザ上で簡単に更新できる仕組みが整えられつつあることから、1年以上未更新の学校はほとんどなくなりましたが、それでも更新が滞るケースは少なくありません。特に年度初めは何かと慌ただしいため、諸々の情報が前年度のままになっている学校も少なからずあります。

 忙しいのは分かりますが、この状況が望ましいはずはありません。一般企業を見れば、自社の社長が代わったのに、ホームページの社長挨拶が前任のままというケースは極めて稀です。自社の商品やサービスも然り、発売されればすぐに掲載されます。それは、「販売促進」という視点からも、「説明責任」という視点からも、当然のことです。「学校は営利団体ではないから…」と言う人がいるかもしれませんが、住民の税金で運営されていることを考えれば、ホームページの情報を最新にしておく責任はあることでしょう。


■学校に取り入れられる民間のマネジメント手法
 学校をはじめとする公的機関は、もっと民間企業に学ぶべき点があるのではないか――そんな指摘を受け、現在では民間で行われていた多くのマネジメント手法が、公立学校などに取り入れられています。例えば、中央教育審議会の答申において、カリキュラムマネジメントの手法として挙げられている「PDCAサイクル※」も、もともとは民間企業等の業務改善メソッドとして用いられていたものです。また、学校教育分野で最近よく使われる「コンプライアンス」「リスクマネジメント」「持続可能性」「(授業の)ユニバーサルデザイン」などの用語も、もともとは一般企業で使われていた言葉です。

 こうした民間→学校への流れは、最近になって始まったものではありません。もう20年近く前から続いている、長期的なトレンドと言えます。

 例えば、学校評価や教員への勤務評定等も、以前の学校では行われていませんでした。理由は、教育活動の成果は、企業の売上・利益のように、目に見えるものではないからです。もちろん、高等学校の場合は、大学合格者数や就職率などが数値として表れますが、その指標が学校の良し悪しのすべてを決めるわけではありません。小学校や中学校の評価は、さらに難しいものがあります。そのため、教育を評価するという行為は、長年に渡りタブー視されてきました。

 しかし、評価されないことが、ぬるま湯的な組織風土を生んでいるのではないかとの指摘を受け、近年は学校や教員の教育活動を評価するようになっています。

 「評価されるとなれば、どの先生も頑張り、学校も良くなるに違いない。」そう思う人もいるでしょう。しかし、教員個人に対する評価については、そうとは言い切れない部分も少なからずあります。

 理由の一つは、何をもって良い教員とするかの基準が曖昧な点です。教育は、成果の数値化が難しいだけに、場合によっては管理職の「好き」「嫌い」が評価に影響する可能性もあります。もう一つは、良き同僚性の喪失です。教員間での「相対評価」が行われれば、良い授業、良い実践を共有し合う組織風土が、職員室から消えてしまう可能性もあるでしょう。

 教員の多くは、損得勘定なく、子供の成長のために惜しみなく時間を使っています。サービス残業の時間は相当量に上ります。そうした人たちに、勤務実績の優劣をつけて賃金に反映させることに、果たしてどれだけのインセンティブがあるのか。そんな指摘も、一方では的を射ているように思います。


■成果検証が必要な「民間人校長」
 民間の手法を学校経営に取り入れるという点で、究極の施策は「民間人校長」でしょう。民間企業に在籍している教員免許非保持者を、教育委員会が公立学校の校長として任用できる制度で、2000 年に導入されました。

 「民間人校長」という言葉のインパクトもあって、導入当初から何かと話題を呼んだこの制度ですが、うまく機能しているかと言えば、微妙なところです。そもそも、学校管理職が行うマネジメントの多くは、教育課程編成や学級編成をはじめ、教育的専門性を必要とするものです。加えて、学習指導要領や自治体の施策・方針などに、縛られる部分もあります。「ヒト・カネ・モノ」を自由に使って成果を上げる民間企業のマネジメントとは、性格を異にします。

 2013年には、大阪市内の小学校に着任した民間人校長が、わずか3カ月で自主退職するという出来事がありました。「私の経験やスキルが生かせる学校ではなかった。」退職会見で校長が語った言葉が、制度的な矛盾をよく物語っています。2003年には広島県尾道市で、教職員との軋轢に悩んだ民間人校長が、任用1年後に自殺するという事件も起きています。

 もちろん、民間人校長の中にも、自身の経験を生かし、周囲と上手に折り合いながら、一定の成果を収めている人はいることでしょう。しかし、総体的な成果が上がっているかどうかは、検証が必要だと思います。また、任用するならば、どこの学校に、どのような形で赴任させるのか、十分な配慮も求められます。

 民間企業の良いところを真似するのは、何ら悪いことではありません。しかし、教育現場の事情を何ら考慮せず、安易な発想で導入してしまうと、「骨折り損のくたびれもうけ」になりかねないことは、覚えておきたいところです。

※ Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字を並べた言葉。企業の業務改善のサイクルとして、広く活用されている。



※「教員養成セミナー2017年5月号」より

佐藤 明彦(『教員養成セミナー』編集長)

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