ここから本文です

脳に操られる「自分」が起こす犯罪は、誰の責任なのか?

4/29(土) 12:30配信

Wedge

 就職活動でも結婚活動でも、昨今まず求められるのが自己分析である。しかし、私たちは「自分」を知っているのだろうか? そもそも「本当の自分」などというものが存在するのだろうか?

 自己分析してわかる「自分」、意識に上る「自分」は、脳の活動という巨大な氷山の一角に過ぎず、大部分は水面下に隠れていて意識に上らない。脳科学者たちは近年、そう主張するようになった。

 本書の言葉を借りれば、「自分が見聞きするもの、やること、考えること、信じることさえも、意識のあずかりしらない脳の活動によって決まる」というのだ。

 急速に進歩しつつある脳科学の知見をもとに、脳と「自分」との関係を、実際にあった事件や実験を織り交ぜながら、深く考察したのが、本書である。

「名前の最初の文字が同じ夫婦」は多い!?

 著者のデイヴィッド・イーグルマンは、スタンフォード大学准教授を務める神経科学者。英米でベストセラーになった本書(原題「INCOGNITO」)をはじめとする著作のほか、テレビ番組The Brain with David Eaglemanのプレゼンターも務める。

 読者の興味をそそるような有名人のゴシップやテレビドラマのなかの会話に出てきそうな「トリビア」ふうの話題を散りばめつつ、科学的な説明を積み上げていく手法は、さすがだ。

 たとえば、潜在的な偏見や無意識の自己愛(「潜在的自己中心性」)のおよぼす影響について、こんな話がある。

<友だちのジョエルにばったり会って、彼が生涯の恋人としてジェニーという名の女性を見つけたと話してくれたとしよう。それはおかしい、とあなたは思う。友人のアレックスはエミーと結婚したばかりで、ドニーはデージーにぞっこんなのだ。この同じイニシャルのペアには何か意味があるのか? そんなばかな、とあなたは断定する。生涯を誰と過ごすかというような人生の重要な決定が、名前の最初の文字のような気まぐれに影響されるはずがない。>

 しかし、これは偶然ではない、と著者はいう。

 2004年、心理学者のチームがアメリカの二つの州で婚姻の公的記録1万5000件を調べたところ、「名前の最初の文字が自分と同じ人と結婚している人の数は、偶然の一致にしては多すぎることがわかった」。

 別の心理学者のチームは、職業人名簿を分析して、デニースやデニスという名前の人はデンティスト(歯医者)に、ローラやローレンスという名前の人はロイヤー(弁護士)に、ジョージやジョージーナという名前の人はジェオロジスト(地理学者)になる可能性が高いことを発見している。

 いやいや、日本人の名前でそんな話聞いたことがないし・・・と眉に唾をつけたくなる。が、「これらの発見はすべて、統計的な有意性の閾値を越えている。影響は大きくないが検証できる。私たちは自分ではアクセスできない動因、統計が暴かなければ信じないような動因に影響されているのだ」と、著者は主張する。

 だとすれば、「あなたの脳をさりげなく操って、あなたの将来の行動を変えることができる」はずで、それを裏づける実験や事例の数々も紹介される。

 数ページの文章を読んだあとで、不完全な単語の空白を埋めるようにいうと、被験者は、最近その単語を見たという明確な記憶があってもなくても、その単語を選ぶ可能性が高い。これは「プライミング」と呼ばれる効果で、潜在記憶のシステムが基本的に顕在記憶のシステムと別々であることを裏づけるものだという。

 すなわち、「顕在記憶がデータをなくしても、潜在記憶はしっかりしまい込んでいる」わけで、その証拠に、重い健忘症の患者は、最初に何らかの文章を示されたことを意識的には覚えていなくても、プライミングによって不完全な単語の空白を埋めるのだという。

 このように、私たちの「思考」すらも、自分では直接アクセスできないメカニズムによって生成されている、と著者は語る。

1/2ページ

最終更新:4/29(土) 12:30
Wedge

記事提供社からのご案内(外部サイト)

月刊Wedge

株式会社ウェッジ

2017年9月号
8月19日発売

定価500円(税込)

■特集  捨てられる土地
・所有者不明だらけの日本国土
・所有者不明土地が招く空き家問題
・登記義務化と利用権制限 次世代のための制度改革を