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カーボンプライシングについて考える --- GEPR

4/29(土) 7:13配信

アゴラ

有馬純 東京大学公共政策大学院教授

今春、中央環境審議会長期低炭素ビジョン小委員会がとりまとめた報告書では、長期の脱炭素化に向けた施策の中核としてカーボンプライシングを挙げている。この問題については、今後、国内的にも様々な議論が行われることになるだろう。その際に留意すべき論点をいくつか紹介したい。

まず頭の整理が必要なのはカーボンプライシングの定義である。環境関係者は「カーボンプライシング=排出量取引や炭素税等、政府が人為的に炭素に価格付けをする施策」と論ずる傾向があるが、これはミスリーディングである。

炭素の価格付けとは、炭素排出に伴ってコストを負担させることと同義であり、例えばエネルギー課税はエネルギー消費に伴うCO2排出に負担をもたらすものであるため、これも「立派な」カーボンプライシングである。固定価格購入制度(FIT)に伴うコストを、それによって削減されるCO2で割り戻せば1トン当たりのコストを計算することが可能だ。省エネ基準等の規制的措置、政府によるグリーン調達活動や省エネラベル等を含む情報提供、エネルギー環境分野の研究開発投資等に加え、産業界の自主行動計画も温室効果ガス削減をもたらしており、これらの施策に伴う炭素1トン当たりの削減コストもカーボンプライシングに含めることができる。排出量取引や炭素税は専ら温室効果ガス削減のために政府が人為的に炭素に価格付けを行う施策であり、「明示的カーボンプライシング施策」と呼ばれるのに対し、エネルギー課税や各種補助金、規制、産業界の自主的措置等は、それ自体が温室効果ガス削減のみを目的とするものでなくとも、温室効果ガス削減のコストをもたらしているという点において「暗示的カーボンプライシング」と呼ばれる。「カーボンプライシング」を論ずるに両方のカーボンプライシングに着目する必要がある。更に、家計や企業等、民間経済主体がエネルギー消費に当たって考慮するシグナルは政策や自主的措置によって上乗せされたコストではなく、本体のエネルギー価格を含めた全体のエネルギーコストである。これは当該エネルギーの消費に伴って発生する温室効果ガス排出量で割り戻せば、全体としてのカーボンプライスになる。人為的なコストの上乗せは「カーボンプライシング」であるが、本体のエネルギー価格は政府の施策によって価格付けされたものではないため、これを含めて温室効果ガスのコスト水準をとらえる場合は「カーボンプライス」と呼ぶことが適切である。

したがってカーボンプライス全体の一部でしかない排出量取引、炭素税のみをとりあげて「日本のカーボンプライスは低すぎる。日本は遅れている」云々と議論することは合理性を欠いている。

カーボンプライシングが様々な論議を呼ぶ最大の理由は、地球全体の巨大な外部不経済である地球温暖化問題に対応するには本来、地球レベルでのカーボンプライシングが必要なのだが、これは絵に描いた餅であり、現実は各国まちまちの対応になっていることにある。政策介入によって他国よりも過重な排出負担を負うことになれば、産業競争力、経済、雇用に影響が出ることは避けられない。エネルギーコストは国際競争力に影響を与える諸要因の一部であるとはいえ、政府の政策介入によって炭素に価格をつける場合、それが産業競争力や経済に与える影響をきちんと考慮することは政府の責務であろう。

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最終更新:4/29(土) 7:13
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