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音楽未経験のコムアイをなぜスカウト? 水曜日のカンパネラ Dir.Fが語る、“ 原石を見つける方法

4/29(土) 15:28配信

リアルサウンド

 『逃げるは恥だが役に立つ』、『この世界の片隅に』、『FAKE』など、近年、大きな話題となった作品やアーティストの仕掛け人たちへの取材を通して、“プロデュースワーク”の重要性や面白さを探っていく書籍『PRODUCERS' THINKING “衝撃作“を成功に導いた仕掛け人たちの発想法』が、4月28日に発売された。同書を執筆したのは、『フラッシュバックメモリーズ 3D』、『劇場版 BiSキャノンボール2014』、『私たちのハァハァ』などのプロデュースを手がけてきた、スペースシャワーTVプロデューサーの高根順次。リアルサウンド映画部にて、高根順次が連載してきた「映画業界のキーマン直撃!!」を体系的に再編集した記事に加え、新たに音楽業界やアート業界の仕掛け人にも取材を行い、さらに高根自身の“プロデュース論”をまとめた、エンターテイメント業界の裏側に迫る一冊だ。リアルサウンド映画部が編集を担当し、株式会社blueprintから発行される。

 同書の発売を記念して、リアルサウンド映画部では14章『“ダイヤの原石”を見つけ出す方法』より、音楽ユニット・水曜日のカンパネラのメンバー兼プロデューサー兼マネージャーを務める福永泰朋氏(Dir.F)の録り下ろしインタビューの一部を掲載する。

■何かを探しているような人だった

――福永さんが、つばさレコーズで自ら立ち上げたアーティストは、水曜日のカンパネラが初めてですか?

福永:そうですね。最初は上司と一緒に番組タイアップソングのプロモーションから始まって、 その後は川嶋あいのマネージャーやA&Rもやっていたのですが、当時つばさレコーズに所属していた渡辺淳之介氏がアイドルグループのBiSを始めて、徐々に軌道に乗り始めた頃に、水曜日のカンパネラのプロジェクトをスタートしました。コムアイは、とある映像作家が海外から戻って来た時に開いたホームパーティーでたまたま出会ったんですけれど、当時の彼女は自分の生き方を探している感じで、大人が開いている催し物にちょこちょこ顔を出していたみたい。いろんなところに顔を出して大人の話を聞くのが好きなタイプなんですよね。世の中に物申したい気持ちを胸に、何かを探しているような人で、とにかく好奇心が強く世の中をすべて知り尽くすぞ的な謎の勢いもある感じで、まだ当時は表には出ていま せんでしたが“とにかく何かを表現したい”みたいな沸々とした部分を持っていたので、興味を持ち、水曜日のカンパネラに誘いました。

――でも、彼女は当時、まったく音楽活動などはしていなかったんですよね? 普通なら声をかけないと思うのですが......。

福永:実は、水曜日のカンパネラのプロジェクト自体はすでに立ち上がっていた時期で、ケンモ チヒデフミさんが曲を作ってくれることは決まっていたし、歌がなんとなく歌える子と、踊りがなんとなく踊れる子はすでにスカウト済みだったんですよ。構成自体はPerfumeのようであり、音楽性やイメージはちょっと違う3人組のユニットを想定していて、あとはとにかく個性的なキャラクター、ダンスや歌以外の部分での重要な部分を担える人が必要だなと考えていたところで、コムアイに出会ったんです。彼女が独自に積んできた経験はもちろん魅力的だったし、学校に馴染めなかった感じや、発信したいけれど吐き出す場所が見つからない感じもすごく良かった。それに、醸し出す雰囲気も、僕やケンモチさんがイメージしていた路線とぴったりで、人気が出そうだという直感がありました。

――たしかにコムアイさんは独特の存在感を持っていますよね。いろいろなカルチャーを幅広く知っているし趣味も良いんだけれど、そういう女の子にしては珍しく、僕らみたいなスタッフにもものすごく積極的に話しかけてくれる。圧倒的にやる気に溢れているというか。

福永:気になったことに関しては確実に首を突っ込みたいタイプですね(笑)。そのバイタリティの強さを見て、こんなに面白い逸材はいないって感じました。世の中にはいろんな職業や活動があるけれど、アーティストほどユーザーから個人が直接評価される職業はないと僕は思っていて。出した作品やパフォーマンスで評価されるし、世の中にも記録される。たとえばタレントだと、なにか不祥事があったらテレビから降ろされて次に出るためにはかなりの体力が必要になるけれど、アーティストは作品を出し続けて、それが評価されればずっと残っていられる(もちろん不祥事は良いことではないけれど)。 アーティスト活動自体は極めて主観的なものだとしても広く評価される活動で、タレントは比較的客観的な観点を重要視した職種なような気がします。どちらが良いという話ではないのですが。

 そういう意味で、コムアイには圧倒的なアーティストらしさを感じました。ミュージシャンとしてではなく、アーティストとしてのポテンシャル、奥深さが垣間見えたのが、彼女に声をかけた一番の理由かもしれません。ポップミュージックの世界では、ミュージシャンももちろん偉大な存在だけれど、音楽以外の部分で人を惹きつける何かを持っていることが絶対に必要で、それをコムアイは持っていました。彼女が広範に抱いている興味や好奇心は、そのままアーティストとしての魅力に繋がっていると思います。

――コムアイさんは、とあるインタビューで「消費されることに対する自覚はめちゃくちゃあって、そこから逃げることにかけては誰よりもうまい」って断言していました。興味の幅広さと積極性があって、しかも地頭が良いからこそ成立するスタンスで、そのバランス感覚にこそ彼女の才能があるのかもしれません。トラックメイカーのケンモチヒデフミさんとはどのように出会ったんですか?

福永:僕がDJをやっていた時に、民族系ハウスの流れでHydeout Productionsにたどり着いて、 そのレーベルに所属していたケンモチヒデフミさんのエスニックでセンセーショナルなサウンドに惹かれたのが、最初のきっかけです。ある時、ケンモチさんがデザインフェスタというアート系のイベントでブースを出しているのを見つけてしまって、「僕も一応、音楽系の仕事をしているんです」ってお声がけして知り合いました。そこからだんだんと話が進んでいき、先述の3人組ユニットについて話し合いました。

 でも、最初のふたりは活動前に抜けちゃいました(笑)。コムアイが入って、3人揃った アーティスト写真を撮ろうとした段階でひとりが「こんなに本気だと思いませんでした」って抜けて。その後、コムアイがスペイン留学している最中に、もうひとりの子を先にソロでライブに出したのですがうまくいかず、彼女も「1回実家帰ります」って連絡があったきりでいなくなっちゃいました。でも、コムアイは「ひとりでも全然やります!」という感じだったので、そのままライブをやったりレコーディングをしたりして、のらりくらりと今に至っています(笑)。

――なるほど(笑)。でも今の3人組だからこそ非常にうまく行っている印象を受けています。ケンモチさんのサウンドメイクも、どんどん水曜日のカンパネラ向きになってきていて、コムアイの歌とうまく融合してきている。

福永:ケンモチさんは、その辺のバランス感覚が素晴らしいんですよ。作曲家の方って、普通なら自我をもっと出すと思うんです。でも、ケンモチさんは僕らの無茶振りに対しても嫌な顔ひとつせずに対応してくれます。

 たとえば、もうほとんど出来かけている楽曲に対して、僕らが「1回、リズムを全部カッ トしてください」とか言うんですけれど、ちゃんとやってくれる。せっかく作り込んだものでも、メンバーが納得いかないなら、すぐに壊してブラッシュアップできてしまうところが、 彼のすごさかもしれません。自分のスタイルはあるけれど、そこに固執してはいなくて、だからこそ新しい音楽が作れるんだと思います。

――3人の役回りは明確に分かれていますか?

福永:最初の頃は、僕とケンモチさんが中心になっていろいろと考えていたんですけれど、だんだんと売り方に関しては僕、作詞作曲はケンモチさんが担当するようになっていきました。「ジパング」くらいからはコムアイも積極的に意見を出すようになって、今の感じになっています。コムアイは楽曲についての意見も言いますし、2017年2月にリリースしたアルバム『SUPERMAN』に関しては、コンセプトもいち早く彼女が考え、プレゼン資料を持ち込んでくれました。

――福永さんは、マネージャーであり、プロデューサーであり、メンバーのひとりでもあります。このポジションについてはどう捉えていますか?

福永:僕自身は、メンバーの一員になる気はなかったんですけれど、これもコムアイの意見で。 彼女は正直者だから、全部を自分で作っているわけではないのに、自分だけがステージに上がるということに抵抗があるのかもしれません。「僕らはいいよ」って言い続けていたんですが、コムアイが「ダメです」って、折れてくれなくて。

 それで、Chim ↑ Pom みたいなアート集団をイメージして、今の3人組ということになりました。僕の立ち位置的には、マネージャー業がメインかなと。人とお金を集めるのがプロデュース業だとすると、そこに関してはコムアイが参加することもあります。でも、肩書きについてはあまりこだわっていませんし、うまくチームが進めるような一員として参加しているイメージです。

――分業がうまくいっているからこそ、良い意味でお互いに割り切って仕事ができているのかもしれません。それに分業は、信頼があるからこそできることです。最近の良い作品の多くは、チームで作り上げたものが多い気がします。

福永:そうかもしれません。僕もやっぱり、自分のイメージの範疇を超えていかない限り、良い作品は生まれないと思っていて。だからこそコムアイが意見を出してくれるようになったことはすごく良いことだと捉えています。コムアイが成長したことで、水曜日のカンパネラは一歩前に進めたんじゃないかな。「桃太郎」の終わりぐらいから、彼女は意識が変わりました。

ケンモチさんにも常にチャレンジしてほしいので、毎回新しい刺激がある仕事をお願いしています。自分たちでも、次に何が起こるかわからないようにしているのは、このユニットのポイントですね。

――しかし、コンセプトなど、舵取りに関わる部分で意見を出し合うと、ぶつかり合うこともあるのでは?

福永:3人とも自分だけの意見で何かを作り上げようとするワンマンタイプではないので、そこに関して衝突することはほとんどありません。作品を面白くするための意見は、どんどん言い合ってますが。もちろん売るためのプランとして、今の時期はこういうやり方をした方が良いとか、僕が意見を通すことも多いです。でも、結局は出来上がってきたものをどう良く見せて、売るかが僕の仕事だと捉えています。


 続きは、発売中の『PRODUCERS' THINKING “衝撃作“を成功に導いた仕掛け人たちの発想法』にて。なお、リアルサウンド映画部では近日、高根順次と藤井健太郎氏、そして楽器を持たないパンクバンド・BiSHのアイナ・ジ・エンドによる「プロデュース鼎談」を行う予定だ。

最終更新:4/29(土) 15:28
リアルサウンド