ここから本文です

【テレビの開拓者たち(10) 水野雅之】「プレバト」「初耳学」演出家が明かすヒット番組の作り方

4/30(日) 17:00配信

ザテレビジョン

芸能人が俳句や生け花といった課題に挑戦し、その作品をその道のプロが厳しく審査する“才能査定ランキング番組”「プレバト!!」(TBS系)。世の中であまり知られていない事実や雑学を“賢人”の林修に出題する、知的バラエティー「林先生が驚く初耳学!」(TBS系)。テレビの総世帯視聴率が低下している中にあって、いずれも高い視聴率を誇るこの2番組を総合演出として手掛けているのが毎日放送の水野雅之氏だ。番組誕生のきっかけや番組の好調をキープし続けられる秘訣を語ってもらった。

芸能人が特定のテーマに沿って俳句や生け花などに挑戦、その道の専門家が才能やセンスをランキングで発表する、知的エンターテインメント番組「プレバト!!」

■ 配属から1カ月後にはチーフディレクターを任されていました

――初めてテレビマンとして携わった番組を教えてください。

「関西で今も放送されている、お昼の生放送の情報番組『ちちんぷいぷい』('99年~MBS)です。僕は入社してから6年間、東京支社の営業局でCM枠をスポンサーに買ってもらう仕事をしていました。制作デビューは28歳だったので、その遅れを取り戻すべく、プロデューサーからビシビシしごかれました。

VTRを製作することになったのは配属された初日。『東京から大阪に引っ越してきて驚いたこと』を1週間後にVTRしてオンエアするようにいきなり言われました。しかもADもリサーチャーも作家もいない中、たった一人で、撮影や編集のノウハウも何もないまま、ディレクターとしてロケVTRを作ったんです。結果的に、その一発目のVが認めてもらえて、ADを経験することなく、僕の制作人生はディレクターからスタート。とはいえ、そこから1年間は超ハードな実践教育(笑)。毎週欠かさず出し続けたVTRは、ネタを探すのも自分一人でしたし、ロケ先の仕込みも自分でした。しかも…」

――いきなりの実践教育はまだあったんですか?

「このスパルタ教育はロケ以外にもあって(笑)、配属から1カ月後には生放送を仕切るチーフディレクターを任されました。プロデューサーは、僕がどこでギブアップするかを確かめていたんだと思います(笑)。『ちちんぷいぷい』って、4時間もある生放送番組なのに、台本らしい台本がないんですよ。どこでCMに行くかも決まっていない。チーフディレクターの大きな役割のひとつは、CMへ行くために、出演者のみなさんのトークを強制終了するタイミングを判断すること。初日は完全に圧倒されて、最初のCMボタンを押すまでにいきなり10分押しという事態になりました(笑)」

――「10分押し」というのは、どのくらい大変なことなんですか?

「生放送なんで、致命的ですね(笑)。でも素人にはムリな話ですよ。だって、桂ざこばさんや、なるみさんのような、しゃべりのプロのトークを、関西人じゃない僕がぶった切るなんてこと、日常生活ではありえないじゃないですか。でも、あのスパルタ教育でついた地力は今の仕事にも活かされています。制作デビューが遅かった僕を追い込んでくれた当時のプロデューサーには、本当に感謝しています」

――その後、全国ネットのゴールデン番組を制作する東京支社制作部に異動するわけですか。

「そうです。東京へ出てきてしばらくは『チェック!ザ・No.1』('08~'09年)や、『(地球感動配達人)走れ!ポストマン』('08~'09年)などの番組にディレクターとして参加しながら経験を積んで、全国ネットでも通用する制作のノウハウと人脈をゼロから築きました」

■ 「プレバト!!」が好調な理由は“リアル”だから 

――「プレバト!!」が始まったのは'12年。この企画はどういう経緯で生まれたのでしょうか?

「僕は与えられた放送枠に最適な“商品”が何なのかを最初に考えます。決して自分がやりたい企画が先ではないし、枠を決めてもらわないと全く企画が思いつかないんです(笑)。『プレバト!!』の場合は、木曜の夜7時という放送時間と、メーンの出演者は浜田雅功さん、ということが先に決まっていて、ついては、この枠を水野に任せるぞ、となったんです。平日夜7時の主な視聴層は主婦ですから、まずは主婦の方々に楽しんでもらえる番組でなければならない。つまり、刺激的なお笑いよりも情報性が求められます。なおかつ裏には『VS嵐』(フジ系)や『いきなり!黄金伝説。』('98~'16年テレビ朝日系)といった華やかな人気番組ばかりが並んでいたので、それに埋没しないようにするには、敢えて狭いジャンルの企画にしないと勝負できない。そう考えて、どんどん突き詰めていった結果、“浜田さん×知的バラエティー”という路線にたどり着いたんです」

――とても明解で論理的な考え方ですね。

「テレビの制作を志望していたのに入社から6年間も営業マンとして働いた演出家って、他の局にもあまりいないんですよね。制作に配属されてからも生え抜きの後輩たちにコンプレックスもありましたし。でもこの異色ともいえる経歴が、番組を“商品”として捉える意識を高めてくれたと思います」

――「プレバト!!」では、芸能人のみなさんが作ってきた俳句に対する、“毒舌俳句先生”こと夏井いつきさんの辛口コメントも話題に。講師の方々による的確かつ意外な添削は番組の名物となって好調を維持しています。

「好調な理由は“リアル”だからだと思います。先生たちは全く妥協しないし、芸能人も真剣に取り組んで作った作品だから、講師の方々の辛口コメントやランキングの結果に対して、一喜一憂するわけですよね。そして、それを浜田さんが煽ってくれるわけだからスタジオは絶対に盛り上がります。だからインターネットなんかではよく、『この番組は、出演者が面白くしてくれるから、スタッフはラクでいいよね』っていう感想を目にするんです。でも、実はこれが僕の理想(笑)。それって裏を返せば、出演者の個性が100%発揮できてる企画ってことですからね。設定だけを用意して、あとは出演者任せ、という風に見えるのが一番いいと思うんです」

――実際は、スタッフの皆さんは綿密な準備をされているんですよね?

「……どうでしょう(笑)。でも、特に『プレバト!!』は、出演者が強力だからスタッフの演出は目立つ必要はないんです。作り手の計算が見えちゃうと、リアルじゃなくなるような気がするんです。僕らがやるべきことは、スタジオの“ライブ感”を視聴者に届けること。だから収録も、ほぼ生放送のようなスタイルを心がけています」

――確かに『プレバト!!』は収録時間が短くて、段取りよく進行していきますもんね。

「浜田さんの番組に漂う、あの生放送のようなライブ感は、浜田さん、そして浜田さんと長年番組を作ってきた先輩方が築き上げてきた“偉大な職人芸”だと思うんです。それを僕もしっかり叩き込まれてきました(笑)。今は編集技術やCGがどんどん進化していますけど、出演者のむき出しになった感情には絶対に勝てない。バラエティーは現場の空気が最も重要だと思っています」

■ 誰にも負けない個性で勝負しないといけないんです 

――「林先生が驚く初耳学!」ではどんなことを重視しているんでしょうか?

「『プレバト!!』と同じく出演者の個性が100%発揮できる番組を目指しています。『初耳学』もよく『林先生が知ってるか、初耳かだけで番組が成立するなんてすごいね』と言われるので、それを聞くと気分が良いです(笑)。林先生が“どや顔”で知識をひけらかしたり、『初耳ボタン』を押すときの悔しそうな表情は、やはりリアルなので視聴者にも伝わると思っています」

――現在、人気番組を2本並行して手掛けられているわけですが、今後はどんな番組を手がけてみたいと考えていますか?

「この考え方は林先生の影響を受けているんですけど…勝負は“自分の得意な土俵”でやるべきだと思います。自分が“勝負したい土俵”にこだわってはいけないんです。例えば、僕は情報性の強い番組よりも笑いの要素の強い番組が好きなんですけど、ここ数年、笑いを誘うようなナレーションを一切入れていませんし、ただひたすら笑えるという番組を企画するのもやめました。なぜかというと、その手法でズバ抜けた才能を発揮している制作者が他にいるからです。今は視聴者の目がシビアなので、演出手法が他の番組と近かったりすると、“No.1”と“その他”という風に、簡単に仕分けられてしまう。だから、誰にも負けない個性で勝負しないといけないんです。『プレバト!!』と『初耳学!』に共通する要素は、“NHKのEテレみたいな教養の要素”と“一見タレントさん頼みっぽいバラエティー”の二つ。これらを上手にハイブリッドするのが、やはり僕の得意とするところだと思うので、今後もそうした方向性の番組を作っていくことになるでしょうね」

最終更新:5/8(月) 17:00
ザテレビジョン

記事提供社からのご案内(外部サイト)