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凧と羽子板

4/30(日) 12:30配信

Wedge

 空に凧(たこ)があがっています。羽根つきの羽根が飛んでいます。雪の富士山がすっきりと描かれているこの場所は……?

お江戸のお正月「松・竹・梅」

 お江戸でも真ん中辺り「名所江戸百景 山下町日比谷外(やましたちょうひびやそと)さくら田」(1)。歌川広重さん(9)が安政4年(1857)に描いた、のどかなお江戸のお正月風景です。

 日比谷の山下御門の横にあった御堀越しに、大名屋敷の正門を眺めている絵です。山下町は、今でいうと、銀座の泰明(たいめい)小学校の辺り。そこから東京宝塚劇場と帝国ホテル東京の間を通って日比谷公園に向かう道路とJRが交差する近辺に山下御門がありました。

 正面に見えるのは35万7000石を有する肥前佐賀藩(通称鍋島藩)の上屋敷の赤い御門(2)。立派な表門の左右には門松が飾られ、真ん中にはしめ縄飾りが見えますが、ちょっと見慣れない形のしめ縄です。およそ200年前、鍋島藩は島原の乱のとき、抜け駆けをして手柄をあげたものの、「軍法違反」に問われ、幕府より蟄居(ちっきょ)を命じられます。それが解けたのが寛永15年(1638)の12月29日。お正月の準備など何もしていなかったため、急遽、藩邸内にあった俵をほぐして真ん中を藁(わら)で縛り上げて作ったのが「鼓(つづみ)の胴のしめ縄飾り」だったのです。以降、鍋島藩の幸運の印になったとか。赤い御門の場所は、現在の日比谷公園の噴水が見える日比谷門付近です。

 富士山の手前、松飾りの枝に隠れてほんの少し見える板塀の建物は、陸奥白河藩の上屋敷(3)。今なら帝国ホテルの近辺です。帝国ホテルといえば、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライト(1867~1959)が旧本館の設計に関わったことで知られています。建築家のライトさんは、帝国ホテルの設計に取り掛かる以前から、その優れた審美眼により浮世絵を日本でも買い集めていました。それらを購入したのがスポルディング兄弟です。そしてのちにボストン美術館の「スポルディング・コレクション」となりました。この浮世絵を描いた絵師、広重さんが知ったら、さぞかしびっくりすることでしょう。

 お正月とあって、空には奴凧(4)をはじめ、南風に乗ったいくつもの凧があがっています。中には糸が絡んでいるものも(5)。そして衝羽根(つくばね)と呼ばれる羽根つきの羽根(6)が勢いよく空に舞っています。この羽根の丸い部分は、無患子(むくろじ)という植物の種を用いています。「子が患わない」という意味合いから、羽根には無病息災、厄除けの願いが込められているのだとか。

 左側の羽子板に描かれているのは竹で、その横に門松(7)。松の芽も描かれていますが、これは「芽でたい」とかけた広重さんの遊びかもしれません。もう一方の羽子板は、役者絵のようです(8)。尾上梅幸さんでしょうか。これで三役揃って「松・竹・梅」。

 「こいつぁ~、春から縁起がいいわぇ!」

【牧野健太郎】ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプ ロモーション プロデューサー。浅草「アミューズミュージアム」にてお江戸にタイムスリップするような「浮世絵ナイト」が好評。

【近藤俊子】編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。

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●ボストン美術館蔵「浮世絵版画」
「ビゲロー・コレクション」と「スポルディング・コレクション」
ボストン美術館は多数の浮世絵版画を所有。多くは、1911年に米国の大富豪ウィリアム・スタージス・ビゲローが寄贈したコレクションで、美術品を含めると数万点に上る。また、1921年には同じく米国の大富豪スポルディング兄弟が約6,500点の浮世絵を寄贈。このコレクションは、一般公開しないという寄贈条件により、今も色鮮やかに保たれている。

牧野健太郎(読み解き),近藤俊子(構成/文)

最終更新:4/30(日) 12:30
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