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フレンチ・パラドックスが生み落とす「親EU大統領」マクロン - 木村正人 欧州インサイドReport

5/2(火) 18:15配信

ニューズウィーク日本版

<反EUの風が吹き荒れるなか、EU統合の深化を訴えてフランス大統領になろうとしているマクロン。その矛盾と分断を、マクロンは超越できるのか>

[パリ、ロンドン発]フランス大統領選の第1回投票で「四つ巴」の激戦を抜け出し、首位で5月7日の決選投票に進んだエマニュエル・マクロン(39)。財閥系ロスチャイルド投資銀行で企業のM&A(合併・買収)を成功させ、社会党の現職大統領フランソワ・オランドの下で経済産業デジタル相を務めた期待の新星は、中道政治運動「前進!」を率い、旧態依然としたフランス政治の伝統と文化を改革する「アウトサイダー」を自認する。

史上最年少の大統領

決選投票に向けた世論調査で、マクロンは、右翼ナショナリスト政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン(48)をおおよそ60%対40%で引き離す。第1回投票で台風の目となった急進左派・左翼党共同党首ジャン=リュック・メランション(65)を除く、主要政党、大物政治家はすべてマクロン支持を呼びかけており、「マクロン大統領」が誕生するのは確実な情勢となっている。

【参考記事】仏大統領選、中道マクロンの「右でも左でもない」苦悩

マクロンのどこが「アウトサイダー」なのか。主要政党の社会党や共和党の候補ではなく、とにかく若い。第二共和制の時代、40歳で大統領になったナポレオン三世よりも若く、フランス史上最年少の大統領になる。一時、社会党に属したとは言え、政策を担当する「エリート党官僚(テクノクラート)」で、選挙は今回の大統領選が初めてだ。

【参考記事】極右、トランプという暗黒が生んだフランスの新星マクロンの魅力とは

第二次大戦でナチス・ドイツに占領された苦い歴史を持つフランスには、戦時下レジスタンスを率い、現在の第五共和制を築いたシャルル・ドゴール(1890~1970年)のドゴール主義が脈々と受け継がれている。欧州経済共同体(EEC)や北大西洋条約機構(NATO)と一線を画し、独自の核抑止力を保有するなど、ドゴールは「強い大統領」の指導力の下で「強い国家」「独自の国家」を築こうとした。

欧州連合(EU)やNATOからの離脱を唱えるルペンはある意味、ドゴール主義(フランス至上主義)への回帰とも言えよう。

欧州懐疑主義が急激に広がる中、共和党候補の元首相フランソワ・フィヨン(63)も、社会党候補ブノワ・アモン(49)もEUに関しては「控え目」だった。一方、マクロンは公の場で英語を話すのをためらわず、大統領選でただ1人、EU統合の推進を高らかに唱えた。選挙集会ではフランス国旗とともにEU旗が振られた。自由貿易、グローバリズム、コスモポリタン、そして欧州が前向きに語られた。

【参考記事】フランス大統領選挙―ルペンとマクロンの対決の構図を読み解く



シンクタンクの欧州外交評議会(ECFR)の上級政策研究員フランソワ・ゴッドメントによると、フランスの歴代大統領は大統領選で欧州を語る時、常に慎重さを求められてきた。

ジャック・シラクは「欧州の中でフランスの地位を最大限に守る」と強調し、ジスカール・デスタンやフランソワ・ミッテランはドゴール主義の伝統に基づき「フランスの平和と安全を守るには仏独関係が重要だ」と唱えた。世界金融危機と欧州債務危機に苛まれたニコラ・サルコジとフランソワ・オランドは大統領選では、欧州についてほとんど語らなかった。

故郷でブーイング

フランス人は喫煙率が高く、バター、肉といった動物性脂肪の摂取量が多いのに、心疾患による死亡率が低い。「フレンチ・パラドックス(矛盾)」と呼ばれるこの現象は、赤ワインの飲酒によって起きると考えられている。反EUのルペン、メランションが合計で40%を超える支持を集める中、EU統合の深化を唱える「マクロン大統領」が誕生するのは「フレンチ・パラドックス」そのものだ。

マクロンという「上質の赤ワイン」は、グローバリゼーションやデジタイゼーションを拒絶するフランスのブルーワーカーや農業従事者の心を解きほぐし、スマートフォンのアプリを利用した自動車配車サービス、Uber(ウーバー)や外食配達サービス、deliveroo(デリバルー)などの新しい形態のエコノミーを受け入れるよう説得できるのだろうか。

マクロンの生まれ故郷、フランス北部アミアンでは、アメリカの家庭用電化製品メーカー、ワールプールの工場が来年6月に閉鎖され、労働賃金の安いポーランドに移転されることが決まった。600人以上が職を失う恐れがある。第1回投票後の4月下旬、アミアンを訪れたルペンは歓迎され、マクロンは激しいブーイングに見舞われた。フランスはグローバリゼーションやデジタイゼーションによって完全に分断されている。

フランスの大統領には強い権限が与えられているとは言え、政党の基盤も持たないマクロン1人にすべてを期待するのは過剰というものだ。

木村正人

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