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本当は誰も損していない北朝鮮ミサイル狂騒曲 当事国、関係国それぞれが得たものとは

5/3(水) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 4月、日本は北朝鮮のミサイル狂騒曲に踊った。

 アメリカのトランプ大統領が「ミサイルを撃てば攻撃をする」と息巻けば、北朝鮮は「先制攻撃を行えば、アメリカ本土にミサイルを落とす」などの威嚇のチキンレースが展開され、米朝で開戦されれば(正確には休戦協定が破棄されれば)戦禍に巻き込まれる可能性のある日本は、メディアを通じその緊迫した状況をリアルタイムで伝えた。

 結論から言えば、アメリカは北朝鮮を爆撃することなく、北朝鮮もアメリカや日本に向けたミサイルを発射してはいない。北朝鮮がミサイル実験を行ったとの報道がなされてはいるが、「失敗」との評価だからなのか、それ自体で米朝間の緊張が一層高まることも無かった。また4月30日で、米韓合同軍事演習フォールイーグルも終了したことから、米朝間の緊張は劇的に沈静化されるであろう。

 今回の米朝間の軍事的緊張とは一体何だったのか。今回の一連の騒動は、アメリカ、中国、韓国、日本、北朝鮮にそれぞれどのような影響をもたらしたのか。結果論として簡潔にまとめてみた。

◆アメリカが得たものは軍事マネー

 今回のミサイル狂騒曲の当事者であるアメリカと北朝鮮の「結果」について考えてみる。

 まず、アメリカが得たもの、それは莫大な軍事マネーである。

 トランプ大統領の就任前後から軍事関連株は好調であったが、今回のシリア爆撃から、北朝鮮が絡む東アジア危機に至る期間、例えば売上高の80%は軍事関連が占める、ロッキード・マーチン社や、航空機製造の最大手ノースロップ・グラマン社の株価は急騰している。

 更には、標的を大気圏外から狙う弾道ミサイルを大気圏に再突入するタイミングで破壊できるTHADD(高高度防衛ミサイル)を韓国に配置したことにも注目だ。トランプ大統領は、このTHADD配備の費用10億ドルを韓国に求めた。(4月30日、マクマスター米大統領補佐官が費用は米国が支払うと訂正)

 これは単に費用負担の問題ではない。文在寅(ムン・ジェイン)氏の当選が有力と言われている韓国の大統領選であるが、ハト派の文氏に軍事費の削減に舵を切らせないための牽制であったと推測出来る。また今回の北朝鮮危機により、日本の防衛省もTHADDの配備の検討をスピードアップさせた。これにより、また莫大な軍事マネーがアメリカに転がり込む。結果論で言えば、トランプ大統領のビジネスマンとしての商才が発揮されたと言える。

 一方、北朝鮮は何を得たのか。

 北朝鮮は今回の一連の騒動で、アメリカのレッドラインを確認することに成功した。アメリカが金正恩委員長の暴発を恐れるのと同様、北朝鮮にとってもトランプ大統領の暴発には未知数な部分があったはず。北朝鮮が求めているのは、核カードをちらつかせながら、アメリカを交渉のテーブルにつかすことである。

 さすがにそこまでの戦果を得ることは出来なかったが、このレベルであればアメリカの攻撃を受けることはないという、セーフティーな前例を作ることには成功した。

◆日中韓それぞれが得たものは?

 今回の北朝鮮危機に対し、アメリカが注目したのが、中国の北朝鮮に対する影響力である。

 トランプ大統領は、幾度となく中国が北朝鮮に自制を求めるよう要求した。中国としては自国の防衛戦略における緩衝地域として北朝鮮を重視している一方、米中会談中のシリア攻撃により面子を潰された恨みもある。

 アメリカの度重なるお願いをいなしながら、結果として、トランプ大統領から「北朝鮮の核・ミサイル問題の解決に向けて中国が影響力を行使してくれるなら、見返りとして貿易不均衡など米中の通商交渉で米側が譲歩する用意がある」(4月30日、CBSテレビインタビュー)との言葉を引き出すことに成功した。

 朴槿恵大統領の弾劾による大統領選の真最中である韓国はどうか。

 実際に朝鮮半島で戦争が勃発すれば、一番の害を被るのが韓国である。

 しかし北朝鮮狂騒曲に踊った日本とは対照的に、韓国の報道は連日大統領選一色で、一時、THADD配備の費用負担を突然迫られたことは報道されたが、北朝鮮危機に関しては殆ど語られることはなかった。結果論でいえば、独走態勢を築く文候補に対抗する、安哲秀(アン・チョルス)候補や洪準杓(ホン・ジュンピョ)候補が、北韓(北朝鮮)強硬論の保守層の票を取り込んだ程度。

 あとは、釜山領事館前に設置された慰安婦像の一件で引き揚げた長嶺安政日本大使が、今回の騒動に関わる情報収集を優先させるとの口実で、約3カ月ぶりに帰任したのも、面倒な外交交渉を一つ減らせた韓国側のメリットとも言えるか。

 そして、日本が北朝鮮危機で得たものは? 結果から言えば、内閣が危機を回避した。森友学園問題や不適切な発言で辞任した大臣の任命責任問題等、安倍内閣を揺るがす事態が頻発したタイミングでの北朝鮮危機。安倍首相が得意とする「北風外交」により、国民の関心を一気に国会から逸らすことに成功した。

 ただ今回の「危機」により日本が得た最大の利は、日米安保の効力を確認できたことである。

 就任前は、日米安保の見直しにまで踏み込むかのような言葉を発していたトランプ大統領。

 安倍首相は、どの国の首班よりいち早くアメリカに駆けつけ、日米の信頼関係について確認を行ってきた。そこに今回の北風である。アメリカとの軍事的な関係性をより一層深化させる一方で、安全保障関連法に基づく実任務として、太平洋沖を航行するアメリカ軍補給艦の防護に付いた。これは南スーダンでのPKO活動における「駆けつけ警護」に続く安保法適用事案で、今後のアメリカ軍との協力体制を維持するうえでの大事な実績となる。

 振り返れば、今回の北朝鮮危機はそれぞれの国の、それぞれの思惑によって作られた出来レースであった可能性が高い。

 韓国本土における米韓軍事演習は毎年行われ、それに対し北朝鮮は毎年反発している。ただ今回はそこに「トランプ大統領」という新たなカードが加わった。そのカードの効力を、関係する周辺国が確認をした。そして、それぞれの国が必要なものを得て終息した。言わば、誰も損をしていない一件であったと言える。

<文・安達 夕>

ハーバー・ビジネス・オンライン

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