ここから本文です

ペップ、失望と落胆ばかりのプレミア1季目。キャリア最大の正念場。信念の貫徹が裏目に

5/4(木) 10:01配信

フットボールチャンネル

 バルセロナとバイエルン・ミュンヘンで一時代を築き、大きな期待を背負ってマンチェスター・シティの監督に就任したジョゼップ・グアルディオラ。シーズン序盤こそチームは好調を維持していたが、現在ではチャンピオンズリーグ出場権獲得すら危ぶまれる状況に。稀代の戦術家は監督キャリア最大の正念場に直面している。(取材・文:Kozo Matsuzawa / 松澤浩三)

2位には元バルサの天才司令塔 チャンピオンズリーグ歴代出場ランキング 1位は…

●思い描いていたシナリオとかけ離れた現状

「ペップ、アウト、アウト(出ていけ)!」

「ペップ政権にはもう飽き飽きだ」

「信頼が毎試合ごとに薄れていく。きょうの戦術も完全に間違っていた」

「自惚ればかりで、プレミアを分かっていない」

「1年目でリーグに慣れたはずだから、来季が楽しみだ」

「ペップは最高の監督。選手たちがプレーできていないだけだ」

「真のブルーズ(シティファンの愛称)なら分かっているし、ペップをサポートしている」

「今季は試行錯誤のシーズン。ペップなら必ず成功する」

 上記のコメントは、2-2で引き分けた4月30日のプレミアリーグ(PL)、降格寸前のミドルズブラ戦後のマンチェスター・シティサポーターの反応である。端的にいえば、シティファンはペップ・グアルディオラ監督指揮下のクラブを複雑な心境で見守っている。

「ペップを信じたいが、無理なのではないか」

 確実に言えるのは、シーズン開幕前、さらにシーズン開幕直後に連勝を重ねていた頃に彼らが思い描いていたシナリオと、現在クラブの置かれた状況は大きくかけ離れているということだ。

 ときを遡ること15ヶ月前の2016年2月1日、シティファンにとって待ちに待ったニュースが舞い込んだ。クラブが、稀代の戦術家と評されるグアルディオラの新監督就任を発表したのである。

 2012年には、当時ニューヨークで浪人生活を送っていたグアルディオラにアプローチをかけ、実際に交渉のテーブルにもついていた。しかし最終的には、同年冬にドイツの名門バイエルン・ミュンヘンが契約を発表。シティのサポーターは大きく失望させられた。

 そう、グラルディオラの監督就任は、4年越しのラブコールのすえに実ったのである。バルセロナ退任直後も含めると、3度にわたり招聘に乗り出した大物だ。そして最終的には、三国志に登場する諸葛亮孔明さながら、「三顧の礼」にて天才軍師を迎えることに成功した。ファンの喜びと期待がさらに増幅したのは間違いない。

●シーズン序盤はペップ流が効果的だったが…

 そしてグアルディオラ監督率いる新生シティは、開幕前には「大きく変貌を遂げた」と称賛され、優勝の筆頭候補として2016-17シーズンに臨むことになる。プレーする選手たちも偉大な指揮官に尊敬の眼差しを送り、イルカイ・ギュンドアンが「選手のレベルを引き上げてくれる監督」といえば、ジョン・ストーンズも「練習初日から目から鱗が落ちた」と語った。

 またアレックス・コラロフやラヒーム・スターリングは、無駄な肉をすべてそぎ落として見違えるようなシャープさで新シーズンに入り、切れのある動きを見せた。チーム全体が高い位置でプレッシングをかけてボールを奪い、圧倒的なポゼッション・サッカーでゴールに襲い掛かる。万事がうまくいった開幕直後は、全公式戦を通じて10連勝を飾るなど、ペップ流の効果は一目瞭然だった。

 しかし9月28日のチャンピオンズリーグ(CL)、敵地でのセルティック戦を3-3で引き分けて連勝が止まり、さらに直後のPL、対トットナム戦を0-2で落とすと暗雲が立ちこめてくる。

 その後は、0-4で惨敗を喫した10月19日のCLのバルセロナ戦を挟んで、リーグ戦でも2戦連続引き分け。26日のリーグカップのマンチェスターダービーでも0-1で負けるなど、9月24日に勝利して以来、最終的に勝利にたどり着いたのは10月29日のことだった。だが以降、シーズンを通じて再び開幕直後のような進撃を見せることはなかった。

 先日、現在解説者を務める元選手と話をする機会があったが、その際に「ペップは偉大ない監督だ」と前置きしたうえで、「PLの激しさと消耗性は予想以上だったに違いない。だが彼は、Tweak(微調整)を怠った」と分析していた。これは多くの解説者も賛同する意見である。

 引き分けでも準々決勝進出が決まったはずのCLモナコ戦の敗戦後がそうだった。ロイ・キーンが「シティには守備的な選手が少なかった」と話し、リオ・ファーディナンドも「セットプレーの準備ができていなかった」とした。


●過信とも思えるほどに貫く信念。だが結果に結びつかず

 とはいえ、微調整をしないわけではない。例えば11月のホームでのバルセロナ戦は、試合途中からポゼッションとロングボールを織り交ぜた試合をして、バルサの誇る中盤を完全に分断することに成功、3-1で完勝した。また体重オーバーや、代理人の暴言などを理由に起用しなかったヤヤ・トゥーレを11月中旬から使い始めて、一時チームのパフォーマンスが向上してもいる。

 自分が必要だと感じれば、調整は施すのである。ただ意固地になっているのではないだろうか。今季のグアルディオラ采配を見ていて感じる最大の問題は、過信とも思わせるほどに自身の信念を貫き、逆にそれが結果につながっていないところだ。それが上記のモナコ戦であり、冒頭のミドルズブラ戦でもある。

 モナコ戦では攻撃的なサッカーを演じたいあまりに結果を反故にした。後者では、守備を3バックにしてウィングバックにヘスス・ナバスとガエル・クリシと配置して失敗した。その3日前に行われたマンチェスター・ユナイテッドとのダービーを見ても、このような変更の必要性は感じなかった。だからこそ、ファンが期待していたのは継続であり、スターリングとレロイ・サネといったスピード豊かなウィングを使うことだった。

 ほかにも、失点と凡ミスを繰り返し続けるクラウディオ・ブラーボを使い続けるのも、これに当てはまる。前述のダービーの際にも不安定なパフォーマンスを見せて、解説のガリー・ネビルが「周りがまるで見えておらず、ああいったところが問題」とばっさり切った。それでも固執し続けてしまう。つまり、現在のグアルディオラ監督はバランス感覚が少し鈍っているのではないだろうか。

●バルサとバイエルンでの実績。上がっていたハードル

 反グアルディオラの人間は、「バルセロナ時代は素晴らしい選手たちに恵まれただけ」、「バイエルン時代にリーグ3連覇を果たしたものの、CLでは勝てなかったし、結局はハインケスの遺産を使っただけ」と揶揄する。

 ミドルズブラ戦後にマンチェスター・イブニング・ニュースに寄せられたシティファンの中からも以下のコメントを見つけた。

「7シーズンで21個のタイトルを獲得したといっても、バルセロナとバイエルンではすでにチームが完成していた。今はレトルト食品のような出来上がったチームではないから、化けの皮がはがれたんだ。

 リオネル・メッシやアンドレス・イニエスタがいるチームだったら、誰でも優勝できる。チームを作ることができないし、ペップの本当の能力が分かる。3バックは一度も成功していないのに、このタイミングで使うなんてまるでお笑いだ」

 辛辣な言葉からは、ペップの限界が見えたと考えているのが分かる。だが果たしてそうなのか。チェルシーで1年目から成功を収めているアントニオ・コンテは、開幕直後に調子が上がらずに、一時はブックメーカーが「解任の筆頭候補」に挙げていた。それが今はどうだろうか。コンテは早い段階で修正に着手して、優勝の2文字が目の前まで迫っている。

 翻ってペップは、PLではCL出場権獲得となる4位に入るか否かのギリギリの戦いをしていて、国内・欧州カップ戦もすでにすべて敗退。3月の時点で、指揮官自身も「トロフィーがなければ、いいシーズンではない。監督はすべて結果次第。私の場合は過去のスタンダードが高く、求められるものが大きいのも分かっている」と語っている。

 この言葉どおり、プレミアデビューシーズンは、彼のスタンダードからすれば、決して成功とはいえない。チームのパフォーマンスにフラストレーションが募り、マスコミとの関係も悪かった。1月上旬の対バーンリー戦後。2-1で勝利したにも関わらずフェルナンジーニョの退場が気に食わずに、試合後のインタビューでは苦笑いを繰り返し、頭をかき、鼻をいじってばかりのおかしな対応を見せている。

●2年目はさらにハードに? 識者が口を揃える修正ポイント

 シティの番記者の一人も、「特にシーズン途中からだが、ペップの対応にはがっかりしている」と明かしていた。筆者も今季現場で数回取材をして、それに賛同してしまう。以前バルセロナやバイエルンの監督時代にCLの試合でイングランドにやってきた際には、ふてぶてしかったとはいえ、自信が漲るスタイリッシュなカリスマだった。だが今季は、偏屈で不機嫌な中年にしか映らない。

 だが、実際は違う。ペップ・グアルディオラはフットボール史に残るべき智将である。長かった10ヶ月を終えて、PL挑戦1年目を振り返ればきっと気が付くはずだ。自分の持つ信念と修正の必要性のバランスを保てれば、待っているのは上昇だけである、と。

 ネビルとファーディナンド、さらにティエリ・アンリなど、現在イングランドで解説者として活躍する元選手たちは口を揃えていう。

「ペップは夏に何をすべきか分かっているはずだ。すべてプラン立てていて、自分に不必要な選手とは契約延長しない、もしくは放出して、必要な選手を獲得してくるはずだ」

 そしてネビルは付け加える。「おそらくGK、DF3、4人、中盤で1、2人を刷新するに違いない。ペップは今季を長い旅の中にある過渡期として考えている」。

 さらに今季のグアルディオラ監督はバルセロナやバイエルン時代のように、若手を抜擢していないが、若手の登用と世代交代はオーナーのシェイク・マンスールが出した大きな課題の一つでもある。

 イングランドでの1年目は、監督としてペップ・グアルディオラが初めて直面した大きな壁となった。だがその2年目は、さらにハードになることは間違いない。これまでに自分が経験したことのないほどの大きな正念場が待ち受けているのである。

 若き名将は実力を示すことはできるのか。すべては来季に持ち越された。

(取材・文:Kozo Matsuzawa / 松澤浩三)

フットボールチャンネル

記事提供社からのご案内(外部サイト)