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15歳久保建英。J1デビューで見えた「天才」の成長に必要な2つの課題。底知れぬ才能潰さぬために

5/4(木) 10:50配信

フットボールチャンネル

 ルヴァンカップでトップチームデビューを飾った久保建英。FKを獲得し、自らそれを蹴るなど才能の片鱗を見せつけた。だが、彼はまだ15歳。ポテンシャルを十分に引き出すためには、成り行きに任せるのではなく、しっかりとしたプランとそれに合わせた努力が必要だ。この試合の短い時間でもそのポイントは見つかった。(取材・文:元川悦子)

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●堂々たるデビューを飾った久保。小野、高萩らも賛辞

 大型連休真っ只中の3日に行われたJリーグルヴァンカップ、FC東京対北海道コンサドーレ札幌戦。1万9123人を動員した東京・味の素スタジアムの熱気と興奮が最高潮に達したのが後半21分だった。

 背番号41をつけた久保建英が、前半31分に移籍後初ゴールを挙げた永井謙佑と代わってピッチに登場。森本貴幸(川崎)が2004年3月13日のジュビロ磐田戦でマークした15歳10か月6日というJ最年少出場記録を5ヶ月5日更新するという偉業を達成したのである。

 単に新記録を作っただけではない。この日の久保はファーストタッチでいきなり思い切りのよいシュートを放ち、ボールに絡もうという貪欲さを押し出した。中盤でボールを持てば、得意のドリブルで持ち上がって阿部拓馬やピーター・ウタカにパスを出し、自らリターンを受けようと前線に走り込み、積極的プレスでボールを奪いに行くなど、「ゴールに直結する仕事をしたい」という強い意志を鮮明にしていたのだ。

 最大の見せ場は後半41分の直接FK。自らのドリブシュートで札幌DF進藤亮佑のファウルを誘い、ペナルティエリアやや外側で得た絶好のチャンス。阿部や高萩洋次郎、東慶悟は「蹴りたい人が蹴ればいい」と久保にチャンスを与えたという。

「『蹴っていいよ』と周りの人に後押ししてもらったんで、『じゃあ行きます』と。ニア上を狙えたらいいなと思って蹴りました」と15歳のテクニシャンは虎視眈々と点を取りに行ったが、ボールは惜しくも枠の上。昨年9月のAFC・U-16選手権(インド)初戦・ベトナム戦の先制弾再現はならなかった。「ボール2個分くらいズレちゃった。残念です」と本人も悔しさを吐露していた。

 しかし、対戦相手の大ベテラン・小野伸二は「見ていてゴールしちゃうんじゃないかっていうオーラが出ていた。あそこでFKを蹴らせてもらえるってことは、FC東京の選手たちも彼に対してリスペクトしているんじゃないかと思った」と22歳年下の若武者の風格に驚きを覚えた様子。

 直接FKを勧めた高萩も「今日見た感じだと特に問題ない。普通にプレーしていたし、注文をつけるような選手じゃないと思うから」と違和感なくプロでやれるレベルだと太鼓判を押していた。

●先を読み、周りも見えていた久保。本当の勝負はこれから

「ボールスピードもあったし、ワンタッチプレーっていうのが同じJリーグでも明らかにJ3に比べて多かった。J3の方が球際(のバトル)が多いけど、J1はそこをスルスルとかわしていく。なかなかボール取れなくて苦労したところがありました。まだ1試合なんで、自分に何ができたのかもあまり分からないし、今日はちょっと出し切れなかった」と久保本人は不完全燃焼感を口にする。

 だが、視察に訪れた日本サッカー協会の西野朗技術委員長が「物怖じしないし、堂々としていた。相変わらずの久保がいたっていう印象」と語ったように、彼の冷静沈着さと老獪さはプロ経験豊富な選手にも負けていなかった。

 例えば、FK奪取のシーンにしても、普通の若手ならボールを持って一目散にゴールに向かうことに目が行き、周りのことが見えなくなりがちだ。けれども、久保は「相手が来るのは見えていて、『あ、倒れるな』ってのは感じていた。『どうせ倒れるならシュート打っとこう』と思って打ったらファウルをもらえた」と先を読んでプレーしていた。それが直接FKにつながったのだ。

 3日前のJ3・長野パルセイロ戦では左足への執拗なマークを避けるために、あえて右足でのシュートにトライしていたが、今回は「相手が疲れていてそこまでマークもしつこくなかったんで、左だけで行けちゃった感じ」と余裕すら漂わせていたほど。

 今回の札幌が若手中心で、森重真人や高萩といった日本代表クラスを並べたFC東京とは実力差があったとはいえ、15歳の新人がそこまで的確な状況判断をしながらプレーしたのは特筆に値する。久保自身にとっても、FC東京にとっても、日本サッカー界にとっても、非常に大きな一歩だったのは間違いない。

 ただ、本当の勝負はここから先。久保の前のJ最年少出場記録保持者である森本は10代でイタリア・カターニャへ移籍し、22歳で2010年南アフリカW杯メンバーにも選ばれたが、10~20代にかけての成長曲線は想定より停滞した感が強い。

 16歳でデビューした阿部勇樹(浦和)は成功例と言えるが、17歳でデビューした小松原学(ブランデュー弘前)、飯尾一慶(沖縄SV)にしてもA代表に上り詰めることができなかった。彼らを筆頭に15歳の段階でその世代のトップを走っていた選手が日本のエース級になった例は皆無に近いだけに、久保も輝かしい未来が保証されたわけではない。

●成長に必要な普段の環境面の改善

 ジュニア時代を名門・バルセロナの下部組織で過ごした久保は、サッカー界の厳しい現実を熟知している。だからこそ「今の時点で、自分は他の同年代の選手より半歩くらい前にはいれているかなとは思っているんで、スタートが早いだけじゃなくて、失速せずにこのまま上に行きたいなと思っています」と自戒を込めて語ったのだろう。

 久保が順調に成長していくためにまず必要なのは、日常的にレベルの高いプレー環境だ。彼は目下、FC東京U-18所属であり、普段はユース年代の選手と一緒にプレーしている。今回のルヴァンカップに向けて1週間だけトップチームに合流したものの、それは大型連休中の特例。5月11日からはU-20W杯に向けた強化合宿に入ることもあって、FC東京での今後の練習環境がどうなるかは、現時点で未知数だという。

「久保の場合はU-16、U-20と主に代表の中で揉まれてここまで来ている。自分がガンバ大阪時代に宇佐美(貴史=アウグスブルク)や家長(昭博=川崎)を17、18歳でトップに上げた時は、日頃のトレーニングの中で判断してきた」と西野技術委員長も言うように、指揮官は日常の練習をきちんと見なければ確証を得られない。

 チームメートにしても、ともに時間を過ごさなければ連携面の改善は難しい。「彼は技術が高いし、よく見えているんで、一緒にやっていく時間が増えればコンビネーションもよくなると思う」と高萩も期待を込めて話すだけに、学業面との兼ね合いを考えながら、トップ合流時間を可能な限り増やしてほしい。

 もう1つは重要なことがある。

●小野からの金言。体づくりへ惜しまぬ努力を

 それは、ケガ回避の努力を惜しまないことだ。

 18歳で98年フランスW杯出場、19歳で99年ワールドユース(ナイジェリア)準優勝を経験しながら、同年夏のシドニー五輪アジア予選で大けがを負い、キャリアのシナリオが狂った小野は「久保選手が順調に成長していくために必要なこと? ケガをしないことじゃないですか。そのままやっていけばきっとすごい選手になる。それだけ気を付ければいいと思います」と神妙な面持ちで語ったのも、自身の苦い経験があるからだ。

 同年代の市川大祐(清水普及部スタッフ)、平山相太(仙台)、家長、梅崎司(浦和)らも早い時期に頭角を現しながら、相次ぐケガで飛躍のチャンスを逃している。

 久保には同じ轍を踏んでほしくない。ゆえに代表活動の制限はやはり必要だ。U-20代表入りした選手をカテゴリー下の代表にまで入れて過剰な負荷をかけるのはナンセンス。そのあたりはしっかり線引きをすべきだろう。加えて、彼自身もケガをしない体づくりにより努めるべき。今、力を入れている体幹強化はもちろん、当たり負けしないフィジカルを養うことが肝心である。

 今回の記念すべき札幌戦デビューを機に、15歳の逸材がどんな進化を遂げるのか。過去に例のない爆発的成長を期待してやまない。

(取材・文:元川悦子)

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