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久保建英から見えたバルサのDNA。小野伸二やウタカが絶賛する“左利きのイニエスタ”の才能

5/4(木) 12:01配信

フットボールチャンネル

 ついに久保建英が、J1公式戦の舞台に立った。3日に行われたYBCルヴァン杯のFC東京対北海道コンサドーレ札幌に途中出場し、サポーターから「タケフサ!」コールを浴びる。バルセロナの下部組織出身の15歳が観る者を魅了するわけとは。一つひとつのプレーの根幹には“バルサのDNA”が染み付いていた。(取材・文:舩木渉)

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●「そのままやっていけばすごい選手になる」(小野伸二)

 北海道コンサドーレ札幌に所属する小野伸二は、15歳でJ1公式戦デビューを飾った久保建英と自身の同時期を「全然比べ物にならないくらい」と評した。

 かつて13歳でU-16日本代表に招集され、18歳でA代表デビューを飾るなど「天才」と呼ばれてきた男の言葉には重みがある。「そのままやっていけばきっとすごい選手になるだろうし、怪我だけ気をつければいいんじゃないか」という指摘も含めて。

 1万9123人の観客が詰めかけた3日のYBCルヴァン杯グループA第4節、FC東京対北海道コンサドーレ札幌の試合で、最も大きな注目を集めたのは15歳の久保建英。「元バルセロナ」という肩書きを持つ高校1年生の途中出場に会場が沸いた。

 小柄な体と左利きであることから「日本のメッシ」と呼ばれることもある久保だが、そのプレーを見れば一瞬で「メッシ」ではないことがわかる。それでも確実に“バルサのDNA”が体に染みついていることは容易に想像できる。

 彼のプレーを見るのは初めてではない。だが、これまで以上に周りのレベルが高い環境における久保の振る舞いを目の当たりにした時、1人の選手が頭に浮かんだ。それはアンドレス・イニエスタだった。

 彼こそリオネル・メッシ以上に“バルサのDNA”を受け継ぐ名手であり、クラブの象徴的存在。久保の背中からは、バルサの背番号8が透けて見えるようだった。

 その理由として一つ明確なのは、ボールを持っていない時のプレーが日本サッカーのレベルを超越しているということだ。いわゆる「オフ・ザ・ボールの動き」というもので、長年日本サッカー界の課題とされてきたプレーでもある。

 久保は味方がボールを持った時、その動きに合わせて数秒に一度のペースで細かく動きを修正する。必ず自分がいい形でパスを受けて前を向けるように相手のマークが及ばないスペースへ入ったり、動きのテンポを変えてスッと相手の背後に回ったり、あるいは他の選手が最高の体勢でプレーできるようマークを引き連れて囮になったり…動き方のパターンは無数にあり、これを瞬時に判断して何度も繰り返す。ほんの数歩、あるいは体の向きを変えるだけというものもある。

●ウタカが絶賛する質の高さ。卓越したオフ・ザ・ボールの動き

 結果的に久保の何気ない動きが味方のプレーの選択肢を増やし、攻撃を加速させる効果もたらす。一つひとつの身のこなしがなめらかで無駄がなく、美しい。小さなイニエスタを見ているようだった。オフ・ザ・ボールの動きは「ボールが欲しかった」久保自身が意識的に取り組んでいたプレーでもあった。

 味方が前を向いた瞬間にマークを外して次のプレーにつなげる準備をする、とは言葉で簡単に表現できても、ピッチ上で体現するのは一朝一夕にできるものではない。数多くの実戦経験を積んで、試行錯誤の上に身につく特別なスキルだ。久保はそれを15歳にして高いレベルで体得している稀有な選手だった。

 おそらくオフ・ザ・ボールの動き出しや質はJ1でも屈指のレベルにある。久保のプレーにタイミングを合わせられていたFC東京の選手は、高萩洋次郎とピーター・ウタカの2人だけだった。15歳の少年はまだトップチームに合流したばかりの状態で、周りとの連携はできあがっていない。他の選手も久保の特徴を理解してくれば自然とテンポが合ってくるはずだ。

 前線でコンビを組んだウタカは久保について「素晴らしいクオリティを持っているし、ボールを失わないからパスを出すのにためらいはなかった」と話していた。昨年のJ1得点王も認めるボールスキルもやはり高いレベルにある。

 久保は試合後、「今日は相手が疲れていて、そこまでマークとかも全然しつこくなかったので、左だけでいけちゃったって感じですね。そこで左に来られた時に難しくなるんじゃないか」と語っていた。利き足でない右足も練習中のようだが、左足のスキルはJ1の舞台でも十分に通用するものを持っている。

●自ら獲得したフリーキックは「ボール2個分くらいズレちゃった」

 84分に象徴的なシーンがあった。ピッチ中央付近で後ろ向きにボールを受けた久保は、1タッチ目で反転してドリブルで一気にゴールへ向かう。結果的にペナルティエリア手前でファウルによって止められたが、その際に倒れながらシュートまで打って見せた。

「あそこで仕掛けなかったらFWじゃないと思っていて、(相手が)来てるのは見えていて、『あ、倒れるな』っていうのは感じたんですけど、どうせ倒れるんだったらシュート打っとこうと思って、シュートを打ったら、ファウルもらえてよかったです」

 ファウルで止めた前寛之が久保の体に手をかけ始めてから、シュートを打ち終わるまで1~2秒ほど。その短い時間の中でシュートの判断を下し、しっかりと枠の中に飛ばす技術は特筆すべきものだろう。ドリブルのコース取りやターンの鋭さにも一切無駄がなかった。

 このプレーで得たフリーキックは、東慶悟や高萩から譲ってもらい、久保自ら蹴った。「ニア上を狙えたらいいなって感じで、ちょっとボール2個分くらいズレちゃったんで、残念です」と振り返ったが、左足のキック精度がJリーグトップクラスの選手たちも認めるレベルにあることを示した場面だった。

 対戦した札幌の小野が「あそこで蹴らせてもらえるくらい(周りの選手たちから)信頼されていると思うので、そういった意味ではFC東京の選手たちも彼に対してリスペクトをしているんじゃないか」と分析していた通りだった。

 久保の変幻自在な動きに対し、パスの受け手と出し手の関係を築けていた数少ない選手であるウタカはこんなことも言っていた。

「久保の将来は明るいと思う。だけど才能はハードワークや献身、謙虚さといったものがなければ成立しない。彼に才能があるのは間違いないから、規律を守り、一生懸命に練習していけば本当に素晴らしい選手になるはず。特に個人スキルはとてもいいものを持っている。チームのためにプレーでき、ラストパスも出せて、フリーキックも上手い。非常に高いクオリティを備えている」

●久保建英が見せた守備スキルの高さ。攻守の連続性が際立つ

 久保が「日本のビッグスター」になると語るウタカは、15歳の少年の質の高さと献身性を指摘した。確かに札幌戦でも守備スキルの高さは随所に見せていた。

「自分は途中交代で入っていて、相手も味方もみんな疲れている選手ばかりの中で、自分が走れなかったら交代で出た意味がないと思っていたので、そこはホントに意識していました」

 そう語る久保の前線からの守備は、お手本のようなプレーばかりだった。ボールを失えば即座に相手との距離を詰め、内側から外側へ追い込むコースの切り方も的確。さらに守備でも緩急をつけて絶妙にプレッシャーをかける。

 最初は徐々に相手のプレーの選択肢を奪い、ある程度近づいたところで一気に間合いを詰めてボールを刈り取りにいくヨーロッパ的な守備の作法を実践し、結果的に自分のところで奪えずとも、他の選手のところで確実に取り返せるシチュエーションを作っていた。

 久保自身がボールをカットすることもあれば、味方が久保の守備の恩恵を受けてボールを奪うこともある。15歳の守備からいい流れが生まれていたのは一度だけではなかった。一般的に抜かれるのを嫌がって距離を保ったまま引くばかりの、日本の“アリバイ守備”とは一線を画すプレーの連続だった。

 15歳で元バルサということもあり、久保の一挙手一投足は殊更に注目を集める。札幌戦にもメディアが殺到し、FC東京の広報担当者が久保のためだけに特別な取材対応の時間を設けたほどだった。だが、彼のプレーには注目されるだけの理由がある。

 攻守に連続性があり、よどみなく常に細かく動きながら、そのうでプレーに無駄がない。U-20日本代表の内山篤監督が「彼はサッカーで一番難しい、自分に何ができるかというのを一番よくわかっている選手」と評したのも、プレーの取捨選択に無駄がないからこそだろう。

 ピッチ上のあらゆる局面に絡むことができ、個人スキルの精度が高く、プレー判断が高速かつ的確、そして軽業師のようななめらかな動きには、やはりイニエスタの姿が重なる。

●「失速せずにこのまま上にいきたい」(久保建英)

 自身に異常なまでの注目が集まる中で、“バルサのDNA”を受け継ぐ“左利きのイニエスタ”は、その場の誰よりも落ち着いていた。15歳の若さでJリーグでの大きな一歩を踏み出してなお、地に足をつけて将来を見据えている。

「今日試合に出てみて改めて感じたのは、やっぱりJリーグは本当にレベルの高いところで、自分はやっと一歩踏み出せたかなという感じです。(ゴールまで)あと一歩だった分、本当にに悔しいですし、チャンスと言ってもそこまで惜しいチャンスを作れたわけではなかったので、今日の試合は決めなければいけない試合だったなと思っていて、でもまだ今日で終わりじゃないので、次またチャンスもらえたら頑張りたい。

まだ1試合しかやっていないので、(J1のレベルで自分に何ができるかは)あんまり分からないですけど、ちょっと今日は出し切れなかった。今の時点で、自分は他の同年代の選手より半歩くらい前にはいれてるかなと思っているので、スタートが早いだけじゃなくて、失速せずにこのまま上にいきたいなと思っています」

 殺到するメディアを前にしても落ち着いて対応し、力強い言葉を一つひとつ紡いでいく姿は、もはやベテランのようだった。それでも久保は15歳。ウタカは「FC東京にとっても日本にとってもビッグスターになる」と言いながら、ずっと彼のことを”A young kid”と呼んでいた。まだ子供だ。

 小野は言う。

「僕は成功した人間ではないですけど、彼自身は元々バルセロナでやってきた選手で、何をしなければいけないかというのは彼自身がよくわかっているはず」

 久保は日本サッカー界が大切に育てていかなければならない宝物であるのは間違いない。J1のような高いレベルを早い段階から経験させることは確実にプラスにつながるが、過去には若いころから注目を浴びながら様々な要素に阻まれて大成しきらなかった“早熟の天才”たちが多くいたことを、我々メディアも含めてサッカー界全体として心に刻んでおくべきだろう。

 札幌戦で久保が見せたプレーは、その才能の大きさを証明し、明るい未来を予見させてくれた。日本サッカーの未来を担う“左利きのイニエスタ”の成長を、これからも温かく見守っていきたい。

(取材・文:舩木渉)

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