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多死社会で終末期医療が変わる――2020年「日本の姿」

5/5(金) 7:00配信

文春オンライン

 東京が56年ぶりの五輪を迎える2020年、政治や経済、国際関係はどう変化しているのか。スポーツや芸能、メディアや医療の世界には果たしてどんな新潮流が――。各界の慧眼が見抜いた衝撃の「近未来予想図」。

 今回は、団塊世代の高齢化が進み、認知症患者は600万人に上るとも言われる2020年の終末期医療のあり方を、石飛幸三医師が語る。

(出典:文藝春秋2016年7月号)

胃ろう治療の激減

 2010年、自然に任せて穏やかな最期を迎える「平穏死」を提言してから6年が経ちました。その間、終末期医療の現場は大きく変わりました。中でも特筆すべきは、胃ろうで栄養補給をしている認知症高齢者が、56万人から20万人に激減したことでしょう。

 胃ろうは、消化管が機能している患者に対する人工栄養の方法のひとつです。私が「特別養護老人ホーム 芦花ホーム」の常勤医となった2005年頃は、重度の認知症高齢者に胃ろうを造設するのは当たり前のように行われていました。

 平均年齢90歳、認知症率9割のこのホームに赴任して、私が衝撃を受けたのは、胃ろうをつけられ、ものも言えずにただ寝たきりになっている高齢者の姿でした。彼らはこのような延命を望んでいただろうか。自分たち医師は何をやっているのだろうと、ハタと気づいたのです。

 問題は他にもありました。人間は老齢になるにしたがって、次第に食べる量が減り、自然に苦痛を感じにくくなる生理的メカニズムが働き、死の準備をしていきます。しかし、胃ろうの場合、十分な栄養カロリーを摂取してもらうため、必要以上に栄養液を投与することになり、最期を迎える準備をするどころか、逆流して誤嚥性肺炎が起こってしまうことが度々ありました。

 このような終末期医療の実状を知る医療・看護関係者は、私同様、胃ろうをはじめとする経管栄養の在り方に疑問を呈するようになりました。そうした声に後押しされたのか、2014年、胃ろう手術の診療報酬が4割削減され、安易に胃ろうを造設する流れが減少に転じたのです。

 ただし、今も胃ろうの代わりに、「中心静脈栄養」や「経鼻胃管」といった形で、静脈や鼻から管を通して栄養剤を投与する「経管栄養」という名の延命が続けられています。胃ろうが悪いのではなく、高齢者に必要以上の栄養液を投与し続けることに問題の本質があるのですが、その点は未だ十分に理解されていないのかもしれません。

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